A.Banana.S

古代ローマ、NACSさん、ドートマンダーにパーカー、西武ライオンズ、FEプレイ日記(似非)・・・好きなことをぽつぽつと。

リーフ王子のグランベル778の、一応続編

 

......を、pixiv様にアップしました。こちらにはまた最初の1ページのみ載せます。

 

大変ご無沙汰しておりました。

 

わたくし自身の(残念な、笑)近況は後日書き残すとして、とりあえず以前とほぼ同様にものを書けるくらいには、諸々回復しました。ははは......。

いやまったく、こんなにかっこ悪いカムバックはないですって!

 

と、と、ともかく、いちばん長く続けているブログを、いい加減ちょっとはアップデートせねばと考えてもいるのですが、ひとまずこちらに、例の続編(?)の最初の1ページをば、取り急ぎ......(今さら急ぐ必要などどこにもなかろうに)

 

 

 

【シリーズ「仮オーブ魔物たち〜聖戦&トラ7のオールキャラ〜】

 

(※......もうちょっとなんか......いい感じのシリーズ名思いつかなかったんか.....,。全4話で、第3話までは、未推敲ながら書き上がっているので、そこまでは上げるかと)

 

第1話 オバケ砦の兄六人

 

 

第1話 オバケ砦の兄六人

 


 ゾンビが出るという噂の『オバケ砦』に、たまたまその辺りを行軍中だったセリス軍十名程度の人間が、賊退治に行くように命じられたのは、南トラキアを出る直前のことだった。
「……そのご命令はセリス様からですか? それとも父上……軍師殿のご判断ですか」
 風の勇者セティのじっとりと疑わしげなまなざしが、実父をにらんだ。
 どういうわけかこの日の父レヴィンは、いつもの冷徹な軍師の雰囲気が薄いように思われた。それどころかどこか軽薄にさえ見えたのだが。
「あー、私の判断だが、セリスも言ってただろう? トラバント王の死後、混乱に乗じて治安を乱す輩が現れるかもしれないから、見かけたら解放軍としてしかるべき対処をせよ、と」
 そんなざっくりとした指令を軍の総大将であるセリスが出していただろうか? セティのまなざしはますます面白くなさげになるばかりだったが、確かに、トラバント王がリーフ王子の手によって倒され、アリオーン王子がユリウス皇子に誘拐され、とにもかくにも南トラキア王国がセリス・リーフ連合軍によって制圧された今、それは起こり得る事態だった。ましてこれからセリス軍はトラキア半島を出て、ミレトス地方へ入り、そこから帝国軍との決戦の地であるグランベルを目指すのだからなおさらだ。制圧だけしておいて、治安維持もせず、すたこらと軍を退き上げるわけにもいかない。新秩序を打ち立てんとする者の責任というものがある。
 事実、トラバント王はリーフ王子の両親をイード砂漠で無惨に殺害し、彼の人生を苦難の連続にした張本人であるが、南トラキアの王としては国民を大切にする優れた統治をしていた。だれかが税金を軍備に無駄遣いしていたとか、部下全員にライブの腕輪を持たせるやつがあるかとか文句を垂れていた気がしたが──それは憎しみを捨てて仇討ちをしないことまで考えていた某王子自身の口から発せられた気もしたが──とにかく自国民には優しい王だった。
 今回の国境近くでの騒動も、自国の治安をしかと守っていたトラバントとアリオーン父子の失われた今、ほとんど壊滅していたはずの山賊たちが息を吹き返さんと企んでいるということだろう。十分にあり得る話だ。
 問題は、それでなぜゾンビだの『オバケ砦』だのといった噂になっているのかだが、一応こちらにも十分納得可能なわけがあるらしい。
「つまりだ」と、セリス軍の軍師であり、亡国シレジアの王であり、セティの実父であるところの、どこか胡散臭い人物が言う。「トラバントやアリオーンが徹底的に叩き潰したはずの山賊どもが、なぜかまた復活し、付近を不気味に徘徊して集落を襲い、おまけにこの近くの砦を根城にしているとの話だから、トラキアの民たちは『ゾンビ山賊団』と──」
「山賊なら、トラバントやアリオーンがいなくなる前にもいたけどな」
 こちらも少々面白くなさげに思い出させるのは、長い銀髪の魔導士アーサーだ。
「フィーが一人でその賊どもを退治しに行くなんて言うからさ、俺は大急ぎで馬を飛ばして追いかけたんだ。途中で何度か落馬しかけたけど」
「そんな日のための訓練が間に合ってよかったよな」
 と、にやにやしながら口を挟むのは、カリスマの騎士ことデルムッド。彼はミーズ城からカパトキア城、さらにルテキア城を越えてなお北へ駆け尽くしたアーサーの猛進撃に、途中までつき合っていた。
「で、お前たちの見たその賊は、ゾンビってやつだったのか? 子どもの頃に、本の中で怖がらせてきたみたいな?」
 いわゆる、大人の言うことを聞かない悪い子はオバケに食べられますよ、という類のおとぎ話だ。
「わかんない。俺が全部黒焦げにしてやったから」
「ありがとうな、アーサー」と、あらためてセティが礼を述べる。場所柄、天馬を操るフィーでしか向かい難い場所に狙われた集落があり、彼女単騎で救出に出かけた。ところが、フォーレストにソードマスターなど、思いのほか手練れの敵がおり、フィー一人では危ないところだったとの報告を、後で受けたのだ。
 フィーはセティの妹だ。つまり軍師レヴィンの実の娘でもあるのだが、それを脇に置いたとしても、そんな遠く危険な場所へ単騎で向かわせるような采配をしてほしくはなかった。知っていたら、セティは反則を犯してでも、妹に群がる賊どもを吹き飛ばしただろう。例えば、リワープ解禁。
 なぜか……以前に、その同じような場所へ同じように単騎で向かい、手傷を負いながらもなんとかルテキア城まで生還した別の天馬騎士──その記憶が頭の中に静かにあって、ぼんやりとのんきに妹を見送ってしまった自分にも責任があると考えていたので、それ以上父と口論しなかったが。
 それにしても、その記憶──ここにはいないはずの天馬騎士や、ほかの面々も交えた賑やかながらもひどく粗削りな、断片的な珍道中の記憶は、いったいなんなのだろう。
 まるで、そう、同じ道を二度通っているような──。
「別にお前に礼を言われる筋合いなんてないしー」セティのとりとめない思考を遮ったのは、いつもと変わらず突っかかってくるアーサーの声。「だからって、セティ、お前に俺のティニーはやらないしー」
「心配するな。ティニーはすでに私の宝物だ」
「なんだとぉ!」
「喧嘩しない。今は喧嘩しない……」
 アーサーとセティのあいだに割って入ったのは、死神兄と称される凄腕剣士スカサハだ。ちなみにこの仲裁役は、数名が否応なく持ち回りでやらされている。ティニーがアーサーの妹で、セティの恋人なので。
 もっと明確に言えば、アーサーが随一のシスコンなので。ちょうどたまたまこの場に居合わせている「お兄ちゃんズ」六人の、だれとも比べるまでもなく。
 だれか一人くらい対抗宣言をしても良さそうだが、アーサーに妹への愛でわざわざ勝負を挑む勇者は、今のところいないし、これからもたぶんいない。いたくない。
「それでレヴィン様」スカサハが穏やかに苦笑しながら話を戻そうとする。「アーサーに黒焦げにされたシスコン・ゾンビと宝物・オバケが復活して子どもの本を食べちゃったって話でしたっけ?」
「なにも合ってない。なにも合ってないぞ、スカ……」
 と、首を振るのは、青髪をきっちりと後ろに梳いた、弓騎士のレスター。
 一方、アーサーは目を丸くする。「なんだ、それ? 面白そうだからそっちをもっと聞きたいんだけど」
「これ以上話をややこしくするな」レスターがアーサーを引きずりながら、数歩下がっていく。ちなみにアーサーに悪気はなく、本気の天然であり、マイペースな男なので、このようにたまに始末が悪い。
 代わって前に出る形になったのが、レスターと同じく弓を手にした金髪の若者。
「要は、その山賊の根城をぶっ潰してくりゃいいんだろ? 楽勝だって」
「ファバル──」セティは──なにか既視感のようなものを覚えながら口を開き、ふと気づけばデルムッドも同じように微妙な表情になっていたが、ひとまずため息を呑んで落ち着いた。話を単純にしてくれたのは確かだ。なぜファバルがなにかの斧ではなく、聖弓イチイバルという、選ばれし聖戦士の武器を持っているのか、一瞬混乱してしまったのはさておき。
 性格というか口調が、一瞬だけちょっと似ていたというだけだ。ついこのあいだまで肩を並べて共に戦っていた気がする、頼もしい大男と。
「わかりました、軍師殿」セティは父レヴィンに言った。「セリス様やリーフ王子の主力部隊はすでに先行していますが、我々だけで問題ないでしょう。ただし、あとでセリス様にはしかと報告してくださいよ?」
「もちろん」
 レヴィンは微笑する。セティはこの感覚にも違和感を覚える。公私の区別をつけようとしつつ端々でほころびが出る自分も悪いとは思うが、今日の父もやはりなんだかおかしい。
 しかもこれにも、なんだか得体の知れない既視感のようなものがある。
 なにか、自分たちは、とんでもない事態に首を突っ込もうとしているのではないか? また。しかも巻き添えにすべきでない者たちまで巻き込んで──。
「気をつけてください!」
 不意に、レヴィンの後ろから飛び出すように現れたのは、ユリアという少女だ。レヴィンが以前にどこからか連れてきたのだが(世間はそれを保護よりは誘拐と言うのではないか)、以来、セリスとはなにか特別な縁で結ばれているように見える。そして、とても不思議な力を持っているようだ。
「あ、えっ……ユリア?」
 スカサハをはじめほぼ全員が驚いたのは、ユリアが普段めったにこのような大声を出さないからだ。
 ユリアは大変真剣に、しかしどこか虚ろなまなざしをして告げるのだった。
「あの砦にはなにか……恐ろしい気配がします。そう……とても邪悪な……まるでおぞましい異形の者の群れ……」
「イギョウの者……?」
 スカサハが目をしばたたく。ファバルがあっさりと問う。
「つまり、マジでユーレイの類があそこにいるってのか?」
「そんなわけないでしょ!」
 だしぬけに大声を上げたのは、スカサハの双子で死神妹のラクチェ。彼女の場合、大声は珍しいことではないので、皆にもそれほど驚かれないが──。
「ユーレイとかオバケとかゾンビとか……そんなのいてたまるもんですか!」
「滅茶苦茶震えてるぞ、ラクチェ」
 兄スカサハが冷静に指摘する。デルムッドはまたにやにや笑う。
「お前、昔っからこういう怪談話、だめだもんな。ガキの頃、何度夜中に一人で用を足しにいけないとかで起こされたことか」
「うっさいわね! あんたを起こしたことなんてないでしょ! 全部スカサハかラナに頼んだわよ!」
 ラクチェは顔を真っ赤にしてデルムッドに怒鳴るが、彼も飄然と言い返す。
「あんだけ『オバケ怖い! イヤ!』と騒がれたら、何度だって起こされるだろ。だいたいその結果、お前の『失敗』の巻き添えを食うのがいつも俺──」
「黙んなさいよっ!」
 ラクチェが、ぎりぎり鞘には入った剣でデルムッドをぶっ叩く。彼もそれを覚悟して言ったのだろうから大人しくのされる。するとラクチェを後ろから抱きしめる、がっしりとした男が新たに登場する。ただしこの場にいるほぼ全員が、次に放たれる台詞を予期していたが。
「おお、ラクチェ! 我が愛しき君よ! このヨハン、オバケだろうがゾンビだろうが、命を賭して麗しき君を守り抜こう! ああ、神よ! このヨハンに、可憐なる朝のか弱き薔薇を守るはがねの柵となる力を、いざ与えたまえ!」
 後半の台詞は全員の想像を超えていたが、まぁ、想定内ではあった。想定外であってほしかったのが、「ヨハンっ!」とくるりと身を翻し、わっしとヨハンに抱きついた、本当にか弱き薔薇かなにかに見える死神妹の姿だったが。
 ほぼ全員の視線がヨハンとラクチェに注がれ、それからスカサハにじっとりと向けられた。意味はとても明快だった。「どうしてこいつとくっつく羽目になったの?」と。
「俺が聞きたいよ……」
 全員の心の声を正確に聞き取ったスカサハは、もう泣きたいとばかりの顔でつぶやいた。アーサーほどのシスコンでは決してないとしても、このままいけばこのヨハンの義兄になる未来が待っているからに違いなく。
「気にすんな、スカサハ。俺なんかこいつと血もつながってんだから」
 いつのまにかレスターの腕から逃れたらしいアーサーが、スカサハの肩をのんきにぽんっと叩く。少しは色々気にしてほしいと訴えるようなまなざしにまったく気づいた様子もなく、彼はレヴィンとユリアのほうへ、屈託のない視線を向けた。
「面白くなってきたじゃん、オバケ退治とか。そうと決まりゃ、早速行ってみようぜ。その異形の者とやらを見物に」
「危険です! ……ゾンビだけじゃない。もっと恐るべきものの気配も……」
「大丈夫だよ」スカサハがユリアへ、安心させるように笑いかける。「俺たちはそんな山賊のまがいものにやられたりはしないって」
「でも……」
「その連中の正体がなんにせよ、周辺集落に被害が出て、住民が恐怖している以上、放ってはおけないものな」と、レスターも続ける。
「本当の本当にまずい相手なら、軍師殿もまさかこのような行き当たりばったりの指令を出すまい」と、セティは皮肉に満ち満ちたまなざしでレヴィンを見やる。なにか冷汗のようなものを流しつつ気づかないふりをされたのが不可解ではあったが、セティもまた、ユリアほどではないにせよ、敵の気配をある程度は感じ取れる。そうそう切迫した事態になりはすまい。いや、させはしない。
「私が行くし、スカサハも、それにファバルも──」
「もちろん」と、ファバルはにやりと笑う。「俺はバケモンの類は平気。ユーレイが怖くてあの治安最悪のコノートで孤児院経営なんてやってられないからな。それにイチイバルとフォルセティがあって、万が一ってこともないだろ」
「そう、そのとおり……」同意しかけてから、セティはふと嫌な予感を、ようやくにして覚える。
 セリスとリーフ、シャナンやアレスといった主力部隊がいない面々での山賊退治。その程度の戦闘が想定されているわけだが、見方を変えれば、自分のフォルセティとファバルのイチイバルと、そして死神兄妹がそろっている状況。
 この面子でなければ、むしろ危ういかもしれないと父は考えているのか? どうして?
 ロプト教団や帝国の本隊がいる恐れがあるなら、ただそう忠告してくれればいいのだ。
「おーい、俺を忘れんなよ」
 アーサーが、今度はセティの肩に手を載せてくる。が、そこまで突っかかってくる気配ではない。最近は慣れてきたが、アーサーといると「距離感」というものがどうにも混乱してくる。彼はにやりと笑いかけてくる。
「あいにくティニーはオルエンたちと一緒にまだ後方にいる。お前の『オバケを怖がるティニーに思いきりイチャコラくっついてもらおう』大作戦はできませーん」
「その言葉、ティニーのところをフィーに差し替えて返していいか?」
 セティの冷静な返しに、アーサーはきょとんとなる。
「フィーがオバケなんて怖がる女かよ」
「……それもそうだな」
 二人は顔を見合わせて笑った。ちなみにそのフィーは今頃上空彼方を飛んで先行の本隊と行動を共にしているはずだが、それはさておき、ファバルとレスターの従兄弟同士が、そろって重たげに頭を押さえた。
「あの二人──」
 仲が良いんだか悪いんだか。というかアーサーだけでなくセティのほうもどうもおかしくないか……とは最近になって周辺に気づかれてきた事実で、見ているほうも混乱してしまう。
ラクチェは来なくていいぞー」
 一方、デルムッドはアーサー同様楽しげだった。
「ゾンビ軍団を前に、ワーキャー大暴れされたらだれも手をつけられないからな」
「なにを言うのだ、デルムッド!」
 腹立たしげにしつつもラクチェは明らかに安心した顔になったのに、ヨハンのほうがショックを受けたようにのけぞった。
「聞いていなかったのか! 愛しきラクチェの華麗なる流星の輝きが悪を見事成敗せんとし、けれどもその健気なる勇気が異形の者への恐怖に崩れんとする時、私はそのか弱き体をそっと支え、命をかけて盾となり──」
「いや、明らかにさっきと湧いてる話が変わってるだろ」デルムッドが無頓着に言う。どうもヨハンはさっきのティニーとフィーを差し替える話と同じことを期待して、『オバケ砦』に行きたがっているらしい。やはり。
 爽やかな笑顔のまま、デルムッドはヨハンとラクチェを真似するように、レスターを抱きしめなどする。
「大変力不足ながら、ラクチェとお前の変わりは、俺とレスターで務めるから。万一死んでもゾンビになって帰ってくるから、心配するな」
 それから今度はレスターへ、明らかにある程度聞こえるささやき声で話す。
「お前も残念だよなぁ、パティがここにいなくて。彼女もまだ後方だっけ? 俺の知るところ、お前はまだセティやアーサーと違って私の宝物だとか俺の大切な人だとか打ち明けてもいないんだろ?」
「デルムッド! お前はぁっ!」
 レスターが真っ赤な顔をしてデルムッドを締め上げる。ラクチェに殴られたダメージも考慮すると、口を慎まなければ彼はそろそろ死にかねない。一方、あっけにとられているのはパティの兄ファバルだ。
「……レスター、お前、ほんとにあいつのことが好きなのか? いったいあれのどこに惚れる要素があるんだ?」
「はっきり言った! はっきり言った、ファバル!」と、指を突きつけるのはアーサー。
 セティも続けて沈着にうなずく。
「たぶんきょうだいというものには、その種の魅力は目に映らないものなのだろうな。君はどうだか知らないが」
「は? ティニーは世界一可愛いが? ところでお前も、フィーが魅力的に見えないってのか? 失礼だろ! あんないちばん可愛いのに!」
「アーサー、三言で矛盾するのはよせ」
「ごめん。なんだかただの馬鹿な男子の遠足のような雰囲気になってきちゃったけど」
 最終的に場を収めんとするのは、死神の兄のほうだった。彼はレヴィの傍らのユリアに言った。
「ユリアもここで待っていてね、レヴィン様と。もう少ししたら後続の人たちが来るはずだから。パティやティニーも、アーサーのとこのオルエンも、それにマリータも。彼女が来れば、まぁ、絶対安全と言っていいと思う」
「スカサハ……」ユリアが消え入りそうな声で言う。「……その……マリータさんとは……?」
「うん? あれ、知ってるよね? このごろよく俺やラクチェと一緒に剣の修行している子。彼女はラクチェ並みに強いから、安心していいよ」
「マジか、あの鈍感」レスターがつぶやく。
「それでいてあれ、ユリアはセリス様のことが好きだと思って半ばあきらめてるからな」
 デルムッドが、レスターに締め上げられたまま同じくささやく。
「いい加減にしてくれんと、ラナの幸せもかかってるんだが」と、妹の恋路を心配するレスター。
「お前は自分の心配をしとけよ。俺は引き続き楽しませてもらうけど」
「お前はあの砦で俺がゾンビにしてやるから覚悟しとけ」
「あー、確かに、ラクチェがだめならマリータがいたら、頼りになったか」ファバルがあえてのように大きめの声で言う。これ以上、馬鹿な男子の遠足沙汰を避けんとしたのかもしれない。「でもマリータがいるから、俺たちも安心して後続部隊を任せてきたところがあるしな」
「ファバル、俺は彼女に、先に行くなら君をどうかお守りくださいと彼女に頼まれたんだけど?」
「えっ?」とスカサハの言葉に驚く様子なのは、当のファバル。そしてユリア、ほか数名。
「実は俺も」とレスターも怪訝な顔で打ち明ける。「パティ様は私がお守りしますから、代わりにファバル様をどうか、レスター様──と」
「つまり、マリータにまでバレてるぞ」と、デルムッド。
「俺は守ってもらう必要はないってのに」ファバルはため息をこぼす。「パティにならわかるが、ちょっと心配性だよな? 俺が弓兵だからか? 彼女だって俺が強いのはもうわかってると思うんだが」
「……ここにも鈍感が一人?」と、アーサー。
「いや、これに関しては、たぶん少々事態は複雑だ」と、セティ。「とにかく、この六人で行くことで決まりだな。少人数だが、問題ないだろう。素早く片づけてくる」
「そうしろ」と、レヴィン。よくここまで馬鹿な男子の以下略を黙って見ていたものだ。やはりなにかおかしくないか? それとも自分も若い頃はこうだったとか思い返していたのだろうか。(親世代の恋愛は命がけだ)「あまりにもたもた手こずると、セリスたちとの合流が遅れ、次のミレトス地方第一の拠点ペルルーク城の攻略に支障が出る」
「わかっています」と、セティ。
「いざとなったら応援に行くから、遠慮せず呼んでくれ」ヨハンがようやくにしてまともな台詞を言う。
「本当に気をつけてください……」
 ユリアは、いつのまにかスカサハの手を握り、やはり心配そうに震えているのだった。
「異形の者のうごめきは、とても多いです……。邪悪なけだもののような声も……たくさん聞こえて……。こんなことは初めて……この世の……この世界のものとは……本当に思えなくて……」
 セティは「この世」と「この世界」をわざわざ言い換えたユリアの言い回しが、妙に引っかかった。するとその時、デルムッドがようやく不真面目ぶった笑みを消し、あるところをじっと見つめていることに気づく。
 レスター、アーサー、ファバルが気づき、一様に仰天の声を上げる。
「いつからいたんだ?」
「いや、わりとよくデルムッドといたけどさ!」
「しゃべろ! でないと存在がわからねぇから!」
 デルムッドと目を合わせていたのは、スミレ色の髪をした少女サラだった。
 サラは複数のご意見にも一切かまわず、ただデルムッドに小さな両手のひらをかざしてみせた。
 十という意味だろうかと、セティは思った。
 サラもまた、ユリアと同等か、もしかしたらそれ以上に相手の気配を察知する能力の持ち主だ。否、正確には違う能力であるのかもしれない。見たところの雰囲気もなんとなく二人は似ているが、実際のところは──
「大丈夫だよ、ユリア! すぐに全員無事で帰ってくるって!」
 スカサハだけは、ユリアに集中していた。それはそうだろう。秘かな思い人に手を握られているのだから。
 彼は輝くばかりの頼もしい笑顔で宣言した。
「なにしろ俺たちは、世界一頼もしきお兄ちゃんズだからな!」

 


「調子に乗っちゃって、スカサハったら……」
 お兄ちゃんズ六人が意気揚々とオバケ砦に向かっていくのを見送りながら、ラクチェは大きなため息をこぼした。ようやく心の落ち着きを取り戻しつつあるようだ。
「愛の力とは偉大なんだよ、ラクチェ」
 と、彼女の恋人はいつものごとく言う。
「義兄上の恋もまた成就するといいが」
「ちょっと、ヨハンっ!」
 当の思い人がいる傍でそれを言うかとラクチェは注意したのだが、ユリアはサラへ近づいて、二人の会話に気づいた様子はなかった。
「大丈夫。サラ? 怖くない? さみしくない?」
 ユリアは、なにかの縁を感じるのか、サラに対してはまるで姉のように振舞う姿がよく見られた。
「デルムッドやリーフ様やマリータさんや……リーフ軍のお友だちがいなくて」
「……最近、デルちゃんはズルいのよね」
 言いながらサラは、くるりと踵を返し、すたすたと後方へ歩き去ろうとする。
「私が心の声が聞こえるのを知ってるから、心の中で言いたいことを伝えちゃう」
 意味が分からず、ユリアはぽかんと立ちつくした。「えっ……?」
「デルムッドはなんと言っていた?」
 尋ねたのは、意外にもレヴィンだった。サラは思わずきっとにらみ返してしまった。
 本当に信じられない。この人は、このユリアが何者であるのか、私がわからないと思っているのだろうか。いつまで黙っているつもりなのだろうか。
 私たちの記憶を消しておいて──。
(わかった。とりあえず様子を見てくるが、マリータたちが来るまで、気をつけて待っていてくれ。なにが起こるかわからなくなりそうだからな)

 

 

 

 

 

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