......を、pixiv様にアップしました。こちらにはまた最初の1ページのみ載せます。
第一部のタイトルは「騎士と傭兵の双」
ははははは、ホント、いい年してなにやってんだかな、と思います。
言い訳すれば、書いたのは約20年前で、それを加筆・修正したものです。今までどこにも公開したことはありません。
そして、第一部は終わっているんですが、第二部以降は途中で挫折し、完結していない……。つまり、第一部『騎士と傭兵の双』以外は、見切り発車です。どうなることやら。いつ終わるのか。
そして、今まで読者様に恵まれ続けてきたわたくしも、今度こそだれにも読まれないものを連載するのではないか、と恐れつつも覚悟せねばと思っております。
だ、第一部だけは、なんとしても上げ終えます。
あ、あと、大事なことが……! このブログで連載した、会話形式の「リーフ王子のグランベル778」、こちらの大ポカで長いこと読みづらいどころか、あちこち飛んでいる仕様になっておりまして、今頃修正しました。大変失礼いたしました! まったく、恥ずかしい、ひどすぎる……!
で、で、では、こちら、最初の1ページでございます。(FEのゲームプレイ日記だったはずが、まさかこんなところまでこようとは……)
【シリーズ『魔石にまつわる最後の決戦~続・仮オーブと魔物たち~』】
第一部 騎士と傭兵の双 ①出会い
視界が開けると、そこは見知らぬ国だった。
(……まいった。まいったまいったまいった……)
頭を抱えるまではしなかったが、実のところは動けなかったのだ。あ然呆然と、フェルグスは立ちつくすばかりだ。
右手だけはほとんど無意識に、首元を押さえるように動いていた。
なぜ見知らぬ国だとわかるのか。第一に、今さっき黄味を帯びた白い光の渦に呑み込まれた。ワープだ。まるで落とし穴かなにかのように突如出現した、転移魔法だ。術者らしき者などどこにもいなかったのだが……。少なくともフェルグスの目の届いた範囲では。
第二に、辺り一帯に広がる街並みにまったく見覚えがないばかりか、雰囲気がとにかく違う。建物の造り、家々が備える屋根や壁の色、カーテンの模様、あるいはこの国かどこかの組織の紋章らしき図柄が描かれた旗、道端や花壇のあちこちで育っている木々や草花──そうしたもののどれもが、ユグドラル大陸じゅうを渡り歩いた経験を持つフェルグスの目に初めて映るものだった。
周りを歩く大勢の陽気そうな人々──その服装も、ユグドラル大陸のどの地方で見られるものとも微妙に違って見える。
(嘘だろ……? まいった……まいった……)
だめだろうと思いながら、フェルグスは背後へ首をまわした。だがやはりもはや、自分をこの見知らぬ国に連れ込んでくれた光の渦は、跡形も欠片もなく消えていた。
フェルグスはゆっくりと首を前に戻し、ぽりぽりと頭をかくのだった。
(なんでだ、なんでだ、なんでだ? ……なんだっていきなりこんなわけのわかんねぇ事態になるんだよ?)
怒るよりは、呆れていた。しかしどの感情にせよ、ぶつける対象がよくわからなかったので、結局自分に愛想を尽かすしかない。
(どんな厄介事だ、今度は……?)
遠く、自分の正面を見た。ここが見知らぬ国であろう第三の理由がそこにあった。
ひと言で言えば、立派な城だった。華やかさはなく、むしろ地味で質素な印象を受ける。けれども堅固で、長い歴史を刻んだ風格を備えている。支配者というよりは守護者として、正しくこの国を見守っているように。
物静かで、堂々たる主──この城を見上げる国民は、きっと安心感を覚えるのだろう。そんなことを考えながら、フェルグスはこの平和な城下街を歩きだした。
道の左右に様々な店が立ち並び、人々はにぎやかに行き交っていた。どうやらこの道は、城へまっすぐに伸びる大通りの一つらしい。人々は、ぼんやり通りの真ん中を歩く異国人を気にするそぶりもなく、笑顔で行き交っている。
青空だけが、来た大陸と同じだ。どこまでも濃い秋空だ。見ていると目に染みるようで、切なくなるほどの。街路の草木も、同じ季節を知らせていた。
フェルグスは一度目を閉じ、わずかに顎を引いた。それからまた開くと、そこに変わらず、明るい人々の顔が戻ってきた。
(平和な国なんだな……)
すれ違う親子連れに目をやりながら、思った。
(ただ、建物や柱のあちこちに修復の痕がある。平和になったのはわりと最近なのかもな)
若い男女が手をつないで、フェルグスの脇をすり抜けていった。男のほうは片腕に大きな紙袋を抱えていた。
(……ところで俺は、これからどうすればいいんだ? 帰り道は?)
と、首元をまたくすぐる。
子どもたちが五、六人、キャッキャと騒ぎながら、フェルグスの周りを駆けていった。「待ちなさい!」と、教会の司祭らしき人が、その跡を追った。
フェルグスは、今や居心地の悪い不安を無視できなくなってきた。
(俺が突然現れたのを、だれも見てないのか?)
まるで周りの人間すべてが、亡霊であるかのように──。
(……もしかして、こいつらには俺が見えてねぇのか?)
「兄さんっ!」
「うあ゛っ?」
思わず悲鳴を上げて、のけぞった。背後からだしぬけに髪を強く引っ張られたのだから、当然の反応だった。痛みにやや涙目になりながら、振り返った。
翠緑の目をまん丸に見開いた若者が、じっと見つめてきた。
「!──」
首の後ろで束ねた髪をがっしり掴まれたまま、フェルグスは言葉を失って立ちつくした。
整った凛々しい顔立ちには、まだあどけなさが残っていた。二十歳前後だろうか。今は驚きに満ちている澄んだ瞳に、その内面の純粋さが表れていた。柔らかな風合いの金髪が、フェルグスにはひどくまぶしく感じられた。
若者はフェルグスを穴が開くほど凝視していた。フェルグスもまた魅入られたように、若者を見つめていた。
本当に、きれいな目だった──。
「ご、ごごごごごめんなさいぃっっ!」
と、いきなり若者は顔を真っ赤にした。桜の実のようだった。そしてようやくフェルグスの髪束を放すと、ものすごい勢いで頭を下げてきた。
ガツンッ!
「いたっ……」
フェルグスの肩当ての端に、額をぶつけた。
「だ、だいじょぶか?」
フェルグスは思わず心配して、若者の顔を覗き込んだ。
「は、はい~~。あっ、いえ……その……本当に、ごめんなさいっっ!」
「待て。待てって」
涙目になりながらもう一度頭を下げようとする少年を、フェルグスは両手で制した。
「うわー、コブになりそうだぞ。痛かったろ?」
「へ、平気です。それよりぼくは、あなたにとんだご無礼を働いてしまいました」
「いや、それより──」
「人違いで無理に呼び止めたばかりか、甲冑に傷を──」
「いやいや傷なんてついてねぇから気にすんな! どうせたいしたモンでもないんだし」
「そんな……」
「髪引っ張られたのはちょっと痛かったけどな」
「ごめんなさい……」若者はしょんぼりとなった。「あなたがぼくの兄にあまりに似ていたものですから、間違えてしまって」
「……兄?」
「はい。十日前から見つからなくて」
「そうかい。そりゃ心配だろうな」
どうやらこの若者の沈んだ顔つきの理由は、人違いでフェルグスの髪を引っこ抜きかけたからだけではないようだ。
「はい。まぁ、でもあの兄のことですから、どこかで元気でいるとは思うんですが」
若者はそう言って微笑んだ。無理に作ったのだろうが、それでも明るくやわらかだった。その兄をまっすぐに信じているのだろう。
フェルグスは自分を指差して、にやっと笑った。
「そんなに似てるのか、お前の兄ちゃんに?」
「はい! それはもう!」
と、今度はかなり興奮気味に目を輝かせ、若者は大きくうなずいた。
「後ろ姿ばかりか顔立ちも、じっくり見なければわからないくらいです! まるで双子のようだ!」
「へええ」
「もちろんよく見ると違うところもあるんですけど、雰囲気もなんだかそっくりで、違和感がなくて。こうしていると、話し方も!」
「ふうん」
「不思議と初めてお会いするって感じがしないんです! ──って、ああっ! またぼくとしたことが、好き勝手なことまで言って! すみませんっ!」
と、またもや顔を赤くして、深々と頭を下げるのだった。
「もういいって」
また頭をぶつけないように、フェルグスは笑いながら一歩下がった。
表情豊かなところが可愛いと思った。それに、素直だ。
兄さんにそっくり、か──。
「フォルデ! 貴様という奴は、こんなところにいたのか!」
「うおっ!」
今度はいきなり若者を押しのけつつ男が割り込んできて、フェルグスの胸倉をつかみ上げた。
「うぐっ……」
「誇り高きルネスの騎士ともあろう者が、十日間も無断で行方をくらますとは言語道断! それになんだ、その格好は? 傭兵にでもなったつもりか!」
と、容赦なく締め上げてくる。
「貴様のサボり癖も今度ばかりは許せるものではないっ! 覚悟はできているんだろうな?」
「カイルさん、違います! この人はフォルデ兄さんではありません!」
最初の若者が、大慌てで止めに入った。
「フランツ? お前はなぜこんな奴に頭を下げていたのだ? いくら兄弟とはいえ、道を踏み外した者は厳しく罰するのが、騎士としてあるべき姿──」
「だから違うんです! この人はフォルデ兄さんとは全然まったくの別人なんです!」
「な、なんだと……?」
男は、そのままフェルグスを凝視した。たくましい体つきの、いかにも生真面目そうな男だった。その髪色と同じ深緑の瞳の中で、静かに燃える熱い炎を、フェルグスははっきりと見た。
──ってか早く手ェ放せ! 苦しい! 死ぬ!
男がようやく手を放すと、フェルグスはせき込みながら必死に肺に空気を送った。
「すまなかった!」
男は最初の若者ほど深々とではないが、実にかしこまって頭を下げてきた。
「あなたが私の怠け者で気ままでだらしのない同僚によく似ていたものだから、間違えてしまった!」
「ぜぇっ、はぁっ……そ、それってほんとに謝ってんのか?」
生真面目すぎて正直すぎた男に、眉をしかめるフェルグス。あまり的外れとは言えない評であることは黙っていたが。
「だ、大丈夫ですか?」と、気遣ってくれる金髪の若者。「カイルさん、この方は、えっと……」
「俺はフェルグス。旅の傭兵だ。あんたらが捜しているフォルデとかいう男じゃなくて残念だったな」
「……ちょっと名前まで似てますね」と、若者がつぶやく。
「私は騎士カイル。同じくこの者は、フランツだ。フェルグス殿、大変失礼なことをした。お許し願いたい」
「いいよ。面白かったから」
と、フェルグスはそのたくましい男──カイルににやっと笑いかけた。その顔を見て、カイルはつい堅苦しさを忘れたように、しげしげと凝視を再開した。そしてうめくのだった。
「ううむ……。世の中にこれほど似た人間がいるものなのだな」
「けど、じっくり見りゃわかるんだろ?」
「ああ。例えば瞳の色が、あいつはこの弟と同じで、緑色をしているからな」
と、フェルグスの明るい茶色の瞳を見つめる。
「けど年ごろとか、体格とかもほとんど同じですよね? あなたのほうが少しがっしりしているかな? あと、違うと言えば、眉の形とか……ああ、それに、よく見ると髪質が──」
「おいおい、そんなに真剣に見られると、照れるぜ」
「す、すみません!」
「失礼した!」
二人そろってまた頭を下げてくる。
フェルグスは苦笑した。「ところであんたたち、ルネスの騎士とか言ったっけ? ここはルネスって国なのか?」
今度は別の理由で、カイルとフランツはフェルグスを凝視してきた。
「いやいや、からかってるわけでも、狂ってるわけでもないぜ。俺はそのう……なんと言うか、異国人なんだよ」
「他国から来たのか? それにしても我らがルネス王国のことを知らないとは……」と、カイルが眉をひそめる。
「そもそも、ここはどこの何大陸と言うんだ?」
その質問に、カイルとフランツは顔を見合わせるのだった。フランツが尋ねた。
「大丈夫ですか?」
「いや、だから狂ってるってわけじゃ……まぁ、でも、あんま大丈夫じゃないかもな……」
見知らぬ国どころか見知らぬ大陸にたった一人放り出された身なら、助けが必要なのは明白だった。
「信じてもらえるかどうかわかんねぇけど、俺はユグドラル大陸ってとこから来たんだ」
「ユグドラル大陸? 聞いたことがないな?」と、カイル。
「ここはマギ・ヴァル大陸と言います。このルネスは大陸のほぼ中央に位置する内陸国なんですよ」と、教えながら、フランツは次第に目を輝かせるのだった。「すごいなぁ! フェルグスさんは異国どころか、異大陸の人なんですね! 異大陸からわざわざこのルネスに、フォルデ兄さんそっくりの人がいらっしゃるなんて、なんだか運命を感じるなぁ!」
「ははは、運命はちょっと大げさかもしんねぇけど、すごい偶然だな」
あまりに素直に話を受け入れるフランツに、フェルグスはまたつい苦笑をこぼした。
カイルのほうは、もう少し慎重だった。
「……ロストン聖教国やフレリア王国ならば、他大陸とも交易しているとの噂を聞いたことがあるが……、どちらかの国を経由してきたのか? それともカルチノ共和国か?」
「え? え゛~~……っと……」
さすがに光の渦に呑まれてワープしてきたなどとは言えず、答えに窮した。
その時、どこからか鐘の音が聞こえてきた。いく度も重ねて鳴り響き、街じゅうに染み渡っていくようだった。
「いかんな」カイルは目線を遠くしていた。「まもなくエフラム様がグラドからお戻りになる時間だ。外までお迎えに上がらねば。エフラム様のことだから大丈夫とは思うが、このごろ賊どもが商人を襲う事件が相次いでいるからな」
「エフラム様?」
「ぼくたちの主君であるルネスの王です。南のグラドという国から半年ぶりに帰還なさるんですよ」
「行くぞ、フランツ」
カイルはそう言うと、フェルグスにまた堅苦しく目礼した。急いでいるばかりでなく、フランツが見知らぬ自称異国人相手にあまりに打ち解けてしまいそうなことを、警戒しているようにも見えた。
「はい、カイルさん」
フランツは同僚の秘かな心配に気づいたそぶりもなく、元気に応じた。
「フェルグスさん、ぼくたちはこれで失礼します」
カイルが足早に去っていくが、フランツはあくまで自分のペースで、丁寧に頭を下げるのだった。
カラン、という音がした。
「あのさ」フェルグスは尋ねてみた。「どっかこのへんに、俺を雇ってくれそうなところはないか? これでも剣の腕にはそこそこ自信があるんだが」
「でしたらエフラム様に頼んでみてはいかがですか?」
「お前さんの主君に? いいのか? 言っちゃなんだが、俺は相当どころじゃない余所モンだぞ。信用してもらえるかね?」
「ぼくからも頼んでみます。今日は長旅のあとなので難しいかもしれませんが、明日にでも。ぜひ城までいらしてください」
「おいおい、お前さんだって、俺とついさっき会ったばかりなんだぜ。大事な主君に、どこの馬の骨ともわからん男を紹介していいのか? 兄さんに似てるってだけで?」
「それで十分ですよ」
フランツはにっこり笑った。
「ぼくは兄と生まれた時からのつき合いですよ。だからその兄によく似た人が良い人か悪い人かくらい、ちゃんとわかります」
相変わらず澄んでいたが、その目には単なる素直さだけではない、落ち着いた思慮深さがあった。
「……なんだか筋が通ってるような通ってないような理屈だな」
フェルグスはまたも苦笑するしかなかった。
「また会いましょう、フェルグスさん」
そう言ってフランツは、カイルの跡を追って去っていった。
残されたフェルグスは、軽い胸の痛みを覚えながら、その後姿を見送っていた。
なんだ、見た目よりもずっとしっかりしてるんだな。
残念だったよな。本当は俺じゃなくて、本物の「怠け者で気ままでだらしのない」、心配かけっぱなしの兄貴に会いたかったろうに──。
……ん?
ふと、フェルグスは足下にあるきらめきに気づいた。拾い上げて、顔の前にかざす。
女性物に見える櫛だった。木製で、紅く彩色されている。木の色も活かしつつ丁寧に施してある細工は、穏やかな風に吹かれてくるくるまわる風車を思わせた。手のひらに置くと、あたたかい木のぬくもりが伝わってくる。
なぜだかひどくなつかしい気持ちになった。
そういえば、さっきフランツが頭を下げたとき、カランという音がした。
あいつが落としたのか? あまりに勢いよく俺に謝ったせいで。女物だが、ひょっとしたら家族や恋人へ渡すつもりのものなのかもしれない。
「やれやれ……」
フェルグスはフランツの跡を追うことにした。柔らかい笑みをこぼしながら。
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#1 第一部 騎士と傭兵の双 ①出会い | 魔石にまつわる最後の決戦 ~続・仮オーブと魔物たち~ - T - pixiv
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