(※いつものネタバレ有り&謎需要の妄想です)
中編『金は金なり』で、さりげなく、でもかなり読み捨てならない箇所があります。
ケルプとドートマンダーの二人仕事の場面。
「こういうような遠出では、二人はいつもあのバッグを持って旅に出る」
お、お待ちくだされ。
「あのバック」などというものは、今回が初出でしょ! いつのまにそんなものを用意したの!? しかも「二人は」「いつも」ってなに!? そんなにしょっちゅう遠出してましたっけ!? 二人で!!
お、落ち着きましょう。まず、ここに原著があります。「二人」はtheyとの記述。
いや、theyって言ったって、この二人しかその場面にいないんですけれどもね!
念のため言いますが、「あのバッグ」は本当に初出。
二人だけの遠出は、短編まで考慮すれば、なくはないけれども、多くはない。いずれ「あのバッグ」が出てきたことはない。
ちなみに中身は、「いろいろな種類の道具、武器、身分証、一種類の手錠」
ロンドン旅行のときに持っていけばよかったのにね!(たぶん空港を通過できない)
さらに見逃せないのはこれ、ドートマンダーが用意しているんですよ。お出かけ前に、ケルプの運転する車の後部座席にほうり込んでいるんですよ。つまり、保管・管理しているのはドートマンダーのほう。
いつのまに、二人の「共有財産」なんぞ持つようになったんですか!?(語弊オブ語弊)
「うしろにあのバッグがあるか?」
「あるぞ。何が必要なんだ?」
そんな、使い慣れた感じでおっしゃってますけど……。
ここに至って、ドートマンダーさん、もう腹をくくってらっしゃいます? 二人の「共有財産」を用意したということは、もう逃げも隠れもせず、堂々と、あきらめて、観念して、年貢の納め時と思って、自分のいちばんの相棒はケルプだと、認めちゃってます?
排他的相棒契約というやつですか?(仕事があれば最優先で組みます、の意)
生涯相棒契約ですか?
プ、プ、プロポーズですk――(ごめんなさい)
いや、たぶん、傍目にはとっくに明らかだったんでしょうけれども、重要なのは、ドートマンダー本人がどこであきらめたか、ということですわな。
まあ、9割方あきらめたのが、④『悪党たちのジャムセッション』の、とあるシーンからでしょうけども。
完全完璧パーフェクト明らむは、いつぞ!?
⑧『骨まで盗んで』では、久しぶりの疫病神ぶりを発揮され、「どうして悪い連中とつき合うんだろう。アンドルー・オクタヴィアン・ケルプのことだ」と、色々考え直しかけているから、これより前ではないと思われます。
⑨『最高の悪運』では、呼んでもいないのに朝っぱらから自宅に押しかけられ、「おいおい、勘弁してくれよ」
助けを申し出てくれても「ほうっておいてくれ」
たぶん、ここではない。ただ、重要な契機にはなっていたかもしれない。「将来像」が見えた、という意味で。
おそらく大ヒントになるのが、⑩『バッド・ニュース』
ケルプ宅の感謝祭ディナーの席での会話。手榴弾を手に入れてくる、と話すタイニーのあと、ドートマンダーが銃も何挺か手に見つけるべきだと思う、と発言。ケルプはいつもどおりお医者様の車を盗みに行く、と。
これより前、墓掘り仕事に出かけたドートマンダーとケルプは、「あのバッグ」を持っていない。銃は二人とも「現場調達」している。
推測ですが、ドートマンダーは、感謝祭ディナーのあとに手に入れた何挺かの銃に、ほかにも色々なものを足して、そのまま手元に残しておくことにしたのでは。だからある意味では、ドートマンダーとケルプ用だけではなく、タイニーや、ほかの仲間たちとの共有も前提にある。
だから「あのバッグ」にそんな意味はない。(当たり前だ)
けれども、中編『金は金なり』は、時系列的に、この『バッド・ニュース』の次です。
そして次の長編『The Road to Ruin』では、何度か記事に書いているケルプの増長ぶりが現れはじめます。
ドートマンダーがメイに、ケルプについて「俺がこいつ抜きで仕事をしたかどうか知りたがっているんだ。たぶん、ほかの連中とな」と話した後、
「お前はそんなこと絶対にしないよ」という、どっから来るんだいその自信は、というケルプの台詞がきます。
しかしよく見たら、その次のドートマンダーの、「一人の仕事以外は」(”Unless it was a single-o”)という台詞のほうが、もしかしたら決定的か。
つまり、「一人の仕事でなければお前に電話する」とさらっと認めていると読める!
ところで、ドートマンダーが、あくまで作中で書かれる中で、ケルプ以外と仕事をしたのは、時系列的に⑨『最高の悪運』のガス・ブロック、そしてその後の短編『芸術的な窃盗』でジム・オハラ&ピート。これが最後になります。
それから⑩『バッド・ニュース』とくる。
⑨『最高の悪運』
短編『芸術的な窃盗』
⑩『バッド・ニュース』
中編『金は金なり』
⑪『The Road to Ruin』
推測するに、どうも、どうも、⑩から⑪『The Road to Ruin』に至るまで、なにか……なにかがあったんじゃないでしょうか。もっと狭めると、⑩から『金は金なり』のあいだに、なにか。ドートマンダーがケルプとの「共有財産」を持って、「二人で(彼らで)」「いつも」遠出するときに持ち出すに至る、そして⑪でケルプがあんな自信満々の台詞を口にするに至る、なにかが……。
すなわち、このどこかのタイミングで、ドートマンダーがとうとう「腹をくくった」
疫病神(ジンクス)もろとも、アンディー・ケルプを自分の人生の一部として認めます、と。
⑫『Watch Your Back!』になると、ドートマンダーのほうから「俺たちはチーム(相棒同士)」なんて言い出しますもんな!(注:背後にアーニー・オルブライト)
では、その「なにか」とはなにか。
仮説その①
ケルプ氏、どこからか『芸術的な窃盗』での仕事を聞きつけ、ドートマンダーに文句を垂れる。ジム・オハラだけならまだしも、ピートという三人目の男までいた! 三人以上の仕事に俺を呼ばないなんてどういうわけだ! ひどい! という、ひどすぎる言いがかりをつけた、とか。
……そういえば、オハラさん、あれ以来姿を見せてなくないですか……? お友だちのラルフ・ウインズロウは⑫で出てくるのに、あれ、あれ、なんで……?
もしや、だれかが始末して、埋め――(強制終了)
仮説その②
ドートマンダー、ぼんやりと考える。ケルプにもアン・マリーというパートナーができた。ちょっと懐に余裕もできた。四十代も半ばだし、そろそろ老後のことを考えよう。貯蓄と、郊外の二世帯住宅でも購入しようかな…?
⑪『バッド・ニュース』で、ジョンが友人(ケルプではない)にお金を貸す&競馬で無駄遣いする、という、メイ視点の愚痴が見られる。読者にも「大丈夫、ドートマンダー? メイに逃げられるんでない?」と心配されたとかされないとかいう噂のドートマンダー。髪も薄くなり、老眼鏡をかけてみたりして、年を取ったとも感じ、このままではマズイと思い、ついにまさかの今後の人生設計をはじめた……!?
⑭『GET REAL』で、少しのあいだタイニーと二人きりでいながら「お互いに飽きていた」と書かれている。
でも、なに、ケルプんとことは やっぱりもうダブルデート・ワシントン旅行にも行って帰ってきているから、いいかな、とか思った!?
(⑤『逃げ出した秘宝』で、数分でケルプと二人だけの空間に耐えられなくなったドートマンダーさんもいらっしゃいますけど)
いずれ、
⑪でのケルプの排他的相棒宣言。
⑫でのドートマンダーの「俺たちはチーム」宣言
⑬での、ドートマンダーの救援要請からのケルプによる「いつ俺に助けを求めてくれるんだ?」(ちゃんと口に出して言えよ、おい、の意)
⑭での、超有能ケルプ。
あの、あの伝説の疫病神が、後期でやけに自信をつけて、そのうえに実力までつけていったのは、べた惚れアン・マリーの存在に加えて、ドートマンダーからなんらかの言質を取ったのではないかと深読みしてしまう。
そういう意味で、一見控えめな展開の⑪『バッド・ニュース』近辺は、実はかなり相当あやしく、裏になにかが隠れているのかもしれない。
(実は、発売年の2001年の出来事……という点も考えたことがあります)
『GET REAL』を読んでいると、「ドートマンダー、こんな頼もしい相棒がいて幸せ者だねっ!」と、あのころからは考えられない思考になってしまうから、恐ろしい。
……この話に教訓があるとしたら、たぶん「信頼することで人は伸びる」でしょうか。
う、うん……?
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よんほんめかきなぐりちゅう。いや、たのしい、たのしすぎてやヴぁい。できはともかく、ぜひもともかく、じぶんがたのしい。しあわせものめ。
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