遅くなりましたが、あけおめでございます! ことよろでございます!
年明けは年末を引きずり、ほとんどドートマンダーとケルプのことを考えていました。なんという幸せな人間か、今年も。
…いや、ちゃんと仕事始めはしています。
あらためて読み直してみたら、”partner”って言葉使ってましたな! 失敬!『骨まで盗んで』の原著“Don’t Ask”にて、
「アンディー・ケルプが最後に見たのは、友人であり相棒であるジョン・ドートマンダーが――」のところで、
”his comrade and partner” と。ただし地の文ですけども。
ドートマンダーは短編『真夏の日の夢』(原題“A Midsummer Daydream”)で、”my partner”との言葉を口にし、ケルプは自分のことだと勘違いするが、ドートマンダーは「お前じゃなくて、おれのほかの相棒」とつけ加える。…これ、たぶんわざと。ケルプの「もっともひどい仕打ち」に対して。
――世にも無情を極めた一撃だった。(当方本文直訳)
――無情も無情、人でなしの一撃です。(『ジュリアス・シーザー』アントニーの台詞)
けれどもこれより前の『馬鹿笑い』で、今度はケルプその人のことを、ドートマンダー視点の地の文で、”his best friend”とは表記している。ただし文脈。「こっちも苦しんでいるのだから、親友ケルプも同じように、みじめで不機嫌だとわかって嬉しい限りだ」
戻って『骨まで盗んで』=“Don’t Ask”は、このコンビだけに絞ってみても、色々と突っ込みどころ満載である。
たとえばケルプ氏、敵に捕らえられて行方不明のドートマンダーを胸中ひとしきり心配した後――「まあ、いいか」
おいっ!!
ほぼほぼアナタのせいで捕まったようなもんだったけど、わかってる!?
一方、捕らわれのドートマンダーの言い訳妄想、
「愛する女房アンドレオッタと二人の可愛い子供と、――」
ここで当方一読者、やたら大きなおさげの髪型(なぜ)で振り返る陽気な女房アンドレオッタと(アンドルー・オクタヴィアン短縮)、車のおもちゃを乗りまわす人参色の髪をした可愛い子供その1と、サイズはなんとか小ぶりになったけど、とても子供とは思えない弾道ミサイルのような頭をした可愛い子供その2が瞬く間に脳裏に浮かんだ覚えが。たぶん子供らの名前はスタンとタイニーっていうんだよね?
原著を読んでいるときから笑いが止まらなかったんだって。
ところで、最近少しずつ観ています『ルパン三世』のPART5で、次元がルパンの恋人扱いされ、さらにはとっつあんまでがそういう関係を疑われ、ルパンはどちらにも悪ノリするのだけれど、なに頬を染めてまで否定しとるんだとっつあん! 4話まで来て久々になつかしき会いたかったとっつあんを観たわ! …という気持ちになって大笑いしたのですが、…そういえばドートマンダーとケルプは、一度もその種の関係を疑われたことがない。今度こそ断言しますが、作中、冗談でもなんでも言われたことがない。…こんな言い方をすると逆にあやしくなるじゃん(笑)
まあ、ドートマンダーは早々とメイに拾ってもらいましたからね。
ケルプも「そのうち数人は女房だった」描写はわりと初期からあるし。
ただ、ケルプのガールフレンドらしき人が作中に登場するのは、5作目になってようやく。けれども名前も明かされない。あとは9作目のアン・マリーを待つばかりで、グリーンウッドはともかくタイニーでさえ、4作目でガールフレンドを連れてドートマンダー宅のクリスマスパーティーに来ているのに、ケルプの同伴者ときたら甥のビクターだったりする。
とはいえ、友人知人たちに、一緒くたに「疫病神コンビ」と思われているフシはある。5作目でドートマンダーは「知り合いの大部分がドートマンダーは厄病神だという印象を持っているので―(中略)―けちな仕事に喜んで一緒に付き合ってくれる相棒を見つけるのは、かなり難しい」という事実を明かし、それでケルプに電話したことになっている(つい1作前までは、華麗なるシカトを決め込んでいたのにね)。
4作目、ようやく仲間に入れてもらえることになったケルプが、ドートマンダーに連れられてO・Jに来ると、スタンは喜んだ様子で「これで全員集合だ!」(この後、ケルプがタイニーに挨拶するシーンは、作中屈指の緊張感。ドートマンダーがついに「おれたちにはこの男が必要なんだ」とまで弁解する)
アーニー・オルブライトからケルプは、「ジョン・ドートマンダーと一緒じゃないな。コインを投げてどっちが来るか決めたんだろう?」という趣旨のことを言われている。一緒に仕事をしていると教えてもいないのに。
ちなみに11作目で明らかになることに、親戚一同からリハビリ施設に送り出されたアーニーを、それと知らずドートマンダーとケルプが訪ねていくのだけど、そこで出会ったアーニーの従兄弟アーチーが、一発で「あんたがドートマンダーだな」「ケルプだ」と二人がだれなのか言い当てるシーンがある。事もあろうか、アーニーは家族との会話で、彼らのことを話題にしていたらしい。初対面の人がわかるくらいだから、かなり詳しく、頻繁にだろう。ショックを受ける二人は、ここにきてアーニーの友情の深さを思い知ることになる。
以下、訪ねていく直前の二人の会話:
D「リストを持っているのはお前だ」
K「アーニーはお前の友だちじゃないか」
D「アーニーに友だちなんかいない。知り合いだ」
K「お前のほうがもっと親しい知り合いだ」
ああ、醜い……。
で、結局二人で会いに行くことにしたのだけれど、「同病相憐れむ」と嘆くケルプに、ドートマンダーは「いや、アーニーが病だ。あいつは友人を憐れまない」と返す。あんたら、ひどいぞ……!
そういうわけで、アーニーが第三の男最有力候補なのだろうか……。
新年早々なんの話をしているんだか。
ケルプと同様に第1作目から欠かさず登場しているスタン・マーチは、「疫病神」だからといってドートマンダーとケルプから逃げたことはまずまったくない。この二人と関わるリスクについて、第1作目からすべてつき合って、その目で見ているにもかかわらず、愛想を尽かすどころかひと言の疑念もこぼしていないという、神のような良い男! そればかりか自分が見つけ出した仕事には、ドートマンダーとケルプを必ずセットで誘うという、ナチュラルな気遣いもする(13作目で、まさかの友人全員に作戦却下という憂き目を見る)。
4作目では初対面のタイニーに苦手意識を隠せずにいたのに、9作目に至るまでにはそのタイニーと見事なコンビネーションを見せ、すっかり息の合った相棒同士に。そして後期では、新入りジャドソンくんを弟子にする勢いである。なにしろ13作目で初っ端から一緒にO・Jに現れ、あのビールと塩をシェアし、仕事中は常に助手席に乗せて車を走らせている。
タイニーはおそらく、ドートマンダーの持つ「不運」に気づいている。一緒の仕事が高確率でおかしなことになるのも承知している。けれども「お前といると楽しいぜ」「お前はおれを笑わせてくれるぜ」という言葉からわかるように、わかっていながら結局ドートマンダーが好きなのでつき合っている。ときに「愛情のこもったパンチ」を打ち込みつつ、適切に場を引き締めている。
4作目であんなに有用性に懐疑的で、今にも引きちぎってしまいそうだったケルプのことも(当然といえば当然だろう…)、10作目では、プライベートでケルプ宅感謝祭ディナーにお呼ばれするなど、良好である。
11作目では、まさかの貴重なお料理シーンがある。いや、文字通りのお料理シーン。エプロン姿で肉切り包丁片手に。ドートマンダー、ケルプ、スタンに手料理を振る舞う。
T「俺のキッチンから出て行け」
~緊急会合(小声)~
S「外で食べることにしないか?」
K「だめだ。タイニーのおもてなしを断れるやつなんていない」
D「あらかじめ胃薬を用意しておこう」
ときたまドートマンダーの身に不運が起こると、「ドートマンダーを助けたい」派ケルプと、「ドートマンダーなんかほうっておけ」派タイニーとで意見の不一致が起こる。前者はほとんど屈するか、流される。スタンは沈黙を守っている。
それでもタイニーは、なんやかんや言いながら13作目では、ドートマンダーのピンチに「俺はお前を心配しているんだ」「俺抜きで会合をするのか?」と、利益がないかもしれないのに、自発的な協力を申し出てくる。
10作目では、モーテルにて、ケルプはドートマンダーの部屋を違法にシェアし、スタンはタイニーの部屋を違法にシェアする……という、そちら方面歓喜案件かもしれない記述がついに出てくるが(違うから)(逆にこれくらいしかない)(そもそもどこに需要が…?)、当たり前にこういう割り振りにしつつ、この4人組は6作目からは完全にレギュラーとして固定される。
ジャドソンくんは12作目で初登場(当時19歳)。J・Cに雇われ、そこからタイニー付きの見習いになるかに思われたが、ケルプからは引っ越しを手伝ってもらって後、警報機破りの技術を仕込まれ、ドートマンダーには色々見抜かれたけれども仲間入りを認められ、スタンには13作目で弟子のように可愛がられる。14作目になるとスタンの寵愛も落ち着き、タイニーの傍らに戻る。でもO・Jでの飲み物はビール。
ドートマンダーの仲間たちに関しては、語っても語りきれないので、いずれまたの機会に。
ここでケルプが登場する短編と中編を、長編の流れに組み込んで並べてみる。あくまで出版年から見るのみだけども。
④『悪党たちのジャムセッション』(1977)
短編『愚かな質問には』(1981)
⑤『逃げ出した秘宝』(1983)
⑥『天から降ってきた泥棒』(1985)
短編『馬鹿笑い』(1986)
同『悪党どもが多すぎる』(1989)
⑦”Drowned Hopes”(1990)
短編『真夏の日の夢』(1990)
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⑫”Watch Your Back!”(2005)
中編『金は金なり』(2005)
『愚かな~』ではケルプはドートマンダー呼び。
転換期としてジョン呼びが連発され、ケルプ別人説が流れ始めるのは『逃げ出した秘宝』(お前だけだ、そんなこと言っているのは)
ケルプが最後に台詞として「ドートマンダー」呼びしたのは、『馬鹿笑い』で取り乱したときかもしれない。
12作目でケルプは「俺の甥ビクターはこんなにひどくはないぞ」と言ったり、ときどきスタンの操縦するヘリコプターに乗った昔の思い出を振り返ったりしているので、たぶん同一人物だと思うよ(笑) 初期疫病神三部作(勝手に定義)から『最高の悪運』『バッド・ニュース』『金は金なり』にあたりにワープすると信じ難いけど。
…たぶんケルプさんも、ジャドソンという後輩の指導にあたるくらいレベルアップした。そういうことですよ…。
「やらせてみるよ。ジャドソン、もし俺が間違っていたら、タイニーがお前を高い所から投げ落とすぞ」なんて忠告、4作目では言えましたか…?
「拳銃恐怖症」はドートマンダーが勝手に断定しているのかもしれないけれど、ケルプ自身甥のビクターには「びっくりしやすい性質」で「ちょっとしたことで、たちまちイカれちまう」ということを認めている。ドートマンダーはなにげに戦闘力高めなんだけど、ケルプはまったく腕っ節を披露したことがないからね、例の必殺技以外では…。
拳銃を自分で構えるまではOK。だれかに突きつけられてもぎりぎり平常心。ただ、7作目”Drowned Hopes”では、シリーズ史上異例の惨事が目の前で勃発し、ケルプ、さすがに寝込む。
パーカーの世界なら完全にアウトの相棒。悪党に向いていないんじゃないか疑惑はくすぶり続け、11作目で普通に有能な秘書として働いているのを見ると、もうそのまま就職しちゃえよ、と思わないでもない。一方のドートマンダーは、今の仕事しか向いていないことが明らかになるあたり、切ない…。
最後に以下、アンディー・ケルプ氏のレベルアップエピソード。
中編、ケルプさん、10作目に引き続き、一人で大の男(わりと危険人物)を制圧。もうどっかの少佐や弁護士に出し抜かれる彼はいない…。
12作目、ケルプさん、相棒を甘やかさない。
「ジョン、O・Jをあきらめたいのか?」「違う」「じゃあ、なにをしなきゃいけないかわかっているよな」「お前たち、一緒に来るか?」「だめだ、ジョン。お前が一人でやらなきゃいけないことだ」
13作目、逃げ遅れたドートマンダーを心配して、残りの三人を引き止め、一人様子を見にいく。「5分だ。お前ら二人が刑務所送りになっても、俺は面会に行かないぞ」とタイニーに警告されても、答えることなく脱出した場所へ戻っていく。(で、待っていたのはドートマンダー密室消失事件)
14作目、インターネットの近くで悪事をしちゃいけない、あっというまに取っ捕まるから、という趣旨の忠告を具体例つきでO・Jの常連たちに披露し、ジャドソンに「アンディー、それかっこいい」と言われる。10作目ではそのインターネット経由で厄介事を持ち込んだ方なのに。
……えっ、なんでこんな危うく怪しい抜粋を、でたらめに載せるかって? 翻訳していただきたいからに決まっていますでしょうが…!
当方の書くことはあまり当てにせず、好きな方はぜひ原本・訳本を読まれることをお勧めいたします。
年明け一発目から、とりとめもなくつらつらと書いてしまいました。いいかげんブログ記事一つの書き方もなんとかしなきゃいけないとは思っているのですが、どうも下手なままだなぁ…。5年もやっていてこれだもんなぁ…。
そんなこんなで勝手気ままですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします!
三作目、書くぞーーーー!!!!!
(密かな野望……どっかあまり他人様に見えないところで、ドートマンダーの同人誌とか書いたら怒られますかね!? 最悪訴訟沙汰になりますかね!? いや、いわゆる腐なものではなく、彼らがいつものごとく仕事をするような、同人誌。その腕も全然ないんですけれど、新しい彼らに二度と会えないのかと思うと、辛いんですよ…。考えれば考えるほど、恋しいんですよ……。”Get Real”で最後にしては、寂しいんですよ……)
(......前から書いていますが、まずは自分で翻訳することから始めようか。後先考えず...)
(パトロンが欲しい......)

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……思い出した。↑のカスタマーレビュー書いたの、私だ……。まだ邦訳される前に。2002年!?
ケルプがドートマンダーの名前を二度呼びするの、当時から可愛いと思っていたんでしょうね…。