A.Banana.S

古代ローマ、NACSさん、ドートマンダーにパーカー、西武ライオンズ、FEプレイ日記(似非)・・・好きなことをぽつぽつと。

【検証2】「もう相棒ではない」ニック【悪党パーカー】

 

ここで、一度テーマを変えます。私の感情が、前記事よりふんだんにこぼれ出るのはご容赦いただきたい。なにしろこの男は11年……いや、16年にわたって私のエンタメ人生を翻弄してきたに等しい。

すなわち、ニック・ダリーシアなる人物は何者で、どういう最期を迎えたか、の話です。

 

(※以下、激しいネタバレです。くれぐれもご注意ください)

(※※読まずに、【検証4】まで飛んでいただいてもおそらく問題ないです)

 



初登場は、第16作目の『殺戮の月』(1974)。本の帯にある言葉に倣うなら「パーカー軍団」の一人。ただし彼と相棒のトム・ハーリー以外の軍団は、全員それ以前の作品に登場済。

以後、悪党パーカー・シリーズは23年の空白を得て、『エンジェル』(1997)(原題Comeback)で執筆が再開されます。パーカー軍団の面々は、続々とカムバックを果たします。

⑰『エンジェル』→エド・マッキー、それに恋人ブレンダ

⑱『ターゲット』→マイク・カーロウとダン・ワイツアー。『殺戮の月』の軍団には入っていないが、ルー・スターンバーグとノエル・ブラセルも。

⑲『地獄の分け前』→トム・ハーリー(電話出演のみだが、そのために映画にまで相棒ヅラで出演した人。アンタ、前相棒の気持ちとか考えたことあんn――(略))

⑳『電子の要塞』→フランク・エルキンズとラルフ・ウィス。

㉑『Breakout』→エドとブレンダ再び。

㉒『Nobody Runs Forever』→ニック・ダリーシア、となります。

 

ちなみに大いなるネタバレながら、㉑までに上げた面々は、だれ一人死んでいません。エドなんか目の前でトンネルが崩落して仲間たちが生き埋めになるなか、そのあとさらに警察に取り囲まれながらの、またしても生還です。『掠奪軍団』以来、この人は不死身です。『Dirty Money』でも元気にロビンズを紹介してくれます。

 

これでパーカー軍団の中でカムバックしなかったのは、ハンディ・マッケイ、スタン・ディヴァーズ、フィリー・ウェッブ、フレッド・デュカッセ(カムバックできるわけないんだが、エドの前例があるしな…)、そしてアラン・グロフィールドとなります。

……私が某『哀歌』や『ラスト・デイズ』や果ては『エキストラとスタントマン』まで、上記4人を(だいぶ強引にであれ)書き込んだのは、つまり単純なるカムバックが見たかった願望の現れそのものなのですが、それはさておき……

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ニックです。某バズーカ運転手です。

私がこの人に狂うに至った経緯は、過去記事「あるかわいそうな読者の話」にあるので、大半は割愛します。シリーズの読者になった当初は、エド・マッキーとマイク・カーロウの区別もしばらくつかなかったポンコツな私が、なぜパーカー軍団の末端新入りの一人にすぎないこの人に狂うに至ったのか。しょうがなくないか、もう。

 

 

……とにかくこのニックは、どういう運命か、悪党パーカー・シリーズのラストを飾る「ファイナル・グッバイ相棒」役を務める羽目になってしまいます。

 

彼の人物像とその最期を、『Nobody~』『Dirty~』を元に振り返ります。

 

とてつもないやらかしをしたために、『Dirty Money』冒頭PART1-1でさっそく見捨てられるニック。

「俺たち皆はまだ相棒だろうか?」と口にしてから、パーカーは首を振る。「警官を殺したなら、それは別のゾーンに入ったということだ」

当時の私がそうだったのですが、パーカー小説の読者なら、これが発売前の予告段階で出ただけで、もうニックの運命を察せざるを得ない。生存率ゼロ。せいぜい頑張って3パーセントくらいでは?と。

一方ニックは、警察に捕まった段階で、まず自分が司法取引できる材料について考えます。彼が頭の中に上げた順に「強奪した金のありか」「ネルソンの住所」「パーカーとの連絡方法」「マイク・ハービン失踪事件の真相」「『Nobody~』の最初の会合にいた面子の名前(自分ほか、パーカー、ネルソン、ハービン、主宰のストラトン、フレッチャーとモット)」

 

ここで彼は、一つ重大な取引材料を挙げずにいます。

 

すなわちコルト・コマンドー、そしてカールグスタフという対戦車砲の供給元です。『殺戮の月』の冒頭で一緒に仕事をしたブリッグス。彼もまた『Nobody~』でのカムバックでした。

今回はバズーカまがいの武器を使ったために、そもそも想定外の大騒ぎになったのです。

 

このブリッグスを売ることを、ニックはまったく頭に考えていない。

 

え? ……ええ??

なんで? なんで??

馬鹿なの!? どんだけお人好しなの!?

 

……いや、失礼。なるべく感情を廃して書くはずの記事なのに。

 

「テロリスト級の武器の入手経路」は「金のありか」の次くらいに重要な取引材料のはずです。なぜそれを候補に入れないのか、この男は。

確かにブリックスに直接会いに行ったのはパーカーです。けれどもその帰途、パーカーを空港まで迎えにいったのはニックなのだから、ブリッグスがフロリダ在住ということくらいはわかっているはずです。

そしてその後、ブリッグスはマサチューセッツまで遠路はるばる車で武器を運んできて、思いっきりパーカー、ニック、ネルスの三人と顔を合わせています。この時、ニックは泊まっていたモーテルでブリッグスと待ち合わせ、先導して強奪中継地まで連れてきて、武器の説明を聞いています。そしてその場で地図を手書きして、彼を元のモーテルまで帰しています。自分が使っていた部屋に、今晩そのままブリッグスが泊まれるように。

だから某『哀歌』にて、彼が手書きの地図を渡したのは、本当にあった事実です。(Hurleyの落書きは創作だが、Hurleyの地名が『Nobody~』『Dirty~』両方に出たのも事実)

ニックはこの後、ネルソンにも別件で帰り道の手書き地図を渡しているので、そういう世話焼きの性分なのでしょう。どっちも来た道で、たいした距離ではないのだから。

それにしても、なんでモーテルの自分の部屋を、ブリッグスに引き継がせるのか? 別に部屋を予約しておけばいいじゃないか。夜8時くらいならチェックインにまだしも不自然な時間ではなかろうし、だれが他人の寝た後のシーツに寝たいと思うのか。いや、その日の昼間にでもクリーニングが入ったかもしれないが。いや、ブリッグスにしてみたら、パーカー、ニック、見知らぬネルソンの3択だったら、ニックの部屋を選んだかもしれないが。

 

いやいや、また話が逸れました。

 

つまり、問題は「ニックにブリッグスを売る気がない」こと。

 

その後、結局だれも売らずに、この人はとんでもない罪を犯して、警察署から逃亡します。

 

……物語進行上の都合と言われればそれまでですが、なんで警官を一撃で昏倒させられなかったのか。パーカーだったら確実にできたはず。おそらくグロフィールドその他でもできたはず。何人かは実際、一撃昏倒をやってもいます。

この人が非力なのか。

しかしこれ、実はアンディー・ケルプでさえ、未翻訳作でやってるんだけど……。相手はもちろん警官じゃないけど。

見た目が怖く見えなかったせいで、警官側に隙ができたのか。おそらくですが、相手がパーカーだったら、警官側ももっと警戒したはずです。殴られて銃を奪われるような隙を与えまいとしたはずです。

この人の見た目がそこまで怖くないことは、『Nobody~』で少し描かれています。銀行家の妻エレインが、ニックとパーカーを見て「良い警官と悪い警官」と称します。そしてニックを見ているほうが(少しだけ)目に優しい──リラックスできるようだと書かれています。で、エレインさん、パーカーが突然家に現れると、「悪いほうの警官が来た。ジョークを言わないほうだ」と。もう少しあとになって、パーカーも「俺と相棒を『良い警官と悪い警官だ』とあんたが言ったのを覚えているか?」(※口を割ったら殺すぞ、と圧力をかけにきたところ。ニックには来なくていいと言った)

 

『Nobody~』におけるニックのジョーク例:「俺たちのことは心配症と呼んでくれ(^^)/」「レモネード屋を開店するなよ」 ネルソン「こいつ、フルハウスを隠しているみたいな顔をしているぞ」ニック「そうなんだよ(#^^#)」 「なぁ、ネルス、俺たちは今教会にいる。つまり、免罪領域を見つけたんだぜ」

最後の台詞に対し、「免罪領域には悪人しかいないんだよ、馬鹿め」と、某『哀歌』でトム・ハーリーに言わせずにはいられなかった、この一ファン。だってツッコミ不在にもほどがありましょう、もう。パーカーでさえ、グロフィールドのジョークにはツッコんでくれるんだし。蛇足ながらさらに「アンタはここでアンタよりよっぽど冷酷非情の悪人三人に見捨てられるわ、殺されるわ──」(※自重)

ともかく、まだあるのですが、ニックが淡々とふざけるのは『殺戮の月』の「ポーカー・オッパイ」に始まるので、元からこういう人ではある。

 

ちなみにニックにかぎらず、歴代相棒たちも、パーカーといるときは必然的に「良い警官」のほうを務めざるを得なくなります。「自分より人に好かれるので」と『弔いの像』のハンディしかり。『殺戮の月』の「話しやすいほう」グロフィールドもしかり。エドは自分で気さくさと圧力を両立させているという描写がありますが、パーカーはやはり「自分より社交に長けているので」と。けれども実際は、パーカーがお人好し演技をめんどくさがっているだけでは……。やろうと思えば顔も赤らめられる人が。

 

ついでに、ニックの見た目の描写は、ほとんどない。痩せていることと、尖った肩くらいしかない。生活の背景もほとんど書かれていない。同じことが言えるのは、フレッド・デュカッセ。特に『掠奪軍団』のデュカッセは、有能&良い人という、パーカー・シリーズのフラグを高々と立てます。殴られて血を流しても文句ひとつ言わない。次のパーカーとの仕事に「嬉しそうに」現れる。前の仕事で負傷した仲間の安否を確かめる、自分の仕事が決まったらパーカーには別口を紹介してくれる……等々、仲間としては良いやつでしかない。そして当人の見た目上の特徴・背景描写がない。そして『殺戮の月』へ……です。最前線に送り込まれる。一方、某ジゴロのイケメンみたいに、半生が事細かに書かれた末に非業のラストを迎える仲間もいなくはないですが……

 

いずれにせよ、なにが言いたいかというと、見た目上の怖さと屈強な腕力があれば──もしかしたら無意識の手加減をしない非情さがあれば──アナザー・ゾーンに行く羽目になる殺人は起こらなかったはずですよね、と。

ただ単に慣れていなかったのかもしれません。『殺戮の月』のクライマックスはさておくとして、この人は相手を殴るどころかちょっと小突く程度の描写も、この事件を起こすまでは見せなかった。運転屋だから?(スタン・マーチは『ホット・ロック』で一撃昏倒パンチを見舞っているが) 暴力慣れしていないから加減がわからず、仕損じた挙句極端に走ってしまったとも見えなくはない。

 

同じやらかしをする可能性があるパーカー軍団(※『殺戮の月』)は──

四十代以降の面々は、やらかしますまい(ハンディ、ワイツアー、カーロウ、ウエッブ、ウィス&エルキンズ)。2番目の人などは、警察に捕まるくらいなら死ぬと言っています。3番目は司法取引で放免の経験者で、最後の二人は自宅と家族持ちです。

若い。以降の展開を含めて、若いんだ。

だからディヴァーズくん。あるいはグロフィールドか。

ただし、後者の人は抜群のアドリブ力があるし、8割はとんでもないお人好しですが(※自分を殺しにきた人が、パーカーにやっつけられて死にかけると「かわいそうになってきた」とこぼす)、その気になれば一人で『殺戮の月』をやりかねない程度の戦闘力も決断力もあるので、間違ってもこんな悲惨な事態にはなりません。

万一、前者がやらかした場合、読者の半分が発狂。後者がやらかした場合、全読者が発狂です。

ニックだから、私一人で済んでいるのです。(なにそれ)

 

……どんどん話が逸れていく。なんだっけ。

 

「ブリッグスを売らない」

「結局だれをも売らない」

「見た目の圧力が低い」

「非力なのか不慣れなのか甘いのか、とにかく仕損じからの極端」

 

で、もうジョークなど二度と言えなくなったようなニック。

 

一方、またパーカー・サイド。

月曜日早朝にニック脱走。その夜、急遽開かれた四者会談(パーカー、クレア、サンドラ、ネルソン)。そして木曜日にはパーカーは、紅葉目当ての観光客のふりをして、クレアとともに現場一帯へ戻る。サンドラも追いかけてくる。(※ちなみに紅葉を見にわざわざ旅行に行くとは、当時のアメリカ人には変わったことらしい。で、「紅葉を見にくる人」に関して、最初にパーカーに教えたのは『Nobody~』のニックである)

現地の状況を確認後、金曜日、パーカーはサンドラの運転する車でロングアイランドへ行き、ネルソンの営むバーで、現金持ち出し方法を話し合う。

 

ここまで、当初サンドラは「ニックを手助けしていないのか? あんたたちは仲間でしょ」と訊くのですが、パーカーもネルソンもニックをかくまってもいないし、助ける気もないことを知ります。

それで彼女は「ニックの分け前の半分を私に寄越すなら、現場から現金の箱を運び出す手伝いをする」との取引を持ちかけます。ネルソンより先に、パーカーがこの取引を承諾します。なぜならサンドラはパーカーたちの「調査書類一式」を同居人に預けていて、自分の身に何かあればそれが当局の手に渡るよう手配してある、と言うので。その後、パーカーはクレアに「ネルソンがここにいなくてよかった。サンドラを見るなり殺すだろうから。書類のことなど考えずにな」と述べます。

パーカーがかなりサンドラに妥協しているように見えます。ですが、現場一帯を動きまわるには、パーカーとネルソンだけではどう考えても危うい。似顔絵が出回っています。レヴァーサ刑事はクレアとパーカーの宿まで来ています。テリー・マルカニーというジャーナリスト、それに宿の女主人にまで、まもなくクレアがいても、パーカーは強盗の一人だと気づかれることになります。パーカーの考えでは、サンドラの助けは必要でした。ニックの分け前の半分を渡すと、勝手に決めてしまっても。

 

これに、ネルソンは最初反対します。

「ニックが現れたらどうする?」

「あんたたちが殺すでしょ。墓掘りを手伝うわよ」と、サンドラ。これは半分は彼女の相棒ロイ・キーナンを殺したネルソンへの皮肉。

 

戻って月曜日の段階で、彼は言います。

ネルソン「俺たちはニックを助けてもいない。やつだって俺たちに居所を教えはしないだろう」

サンドラ「どうして? あんたたちが彼を警察に引き渡すから?」

ネルソン「それだけは絶対にしない。ニックに口を割られたら困る」

そしてやはり「もう仲間ではない」と。

 

後にパーカーが状況を整理して述べます。

「ニックがもう一度警察に捕まったら、司法取引の材料にできるのは金のありかと俺たちだけ」「ニックがもう一度捕まる前に、あるいは彼が現金を全部持ち出して使う前に、どこかの子どもがうっかり教会に忍び込んで見つけてしまう前に」、現金を持ち出さなければならない。

……パーカーは本気でニックが、あの現金を全部ごっそり持ち出せるだなんて考えたんでしょうか? 無理でしょ、どう考えても。ポケットに詰め込めるだけがせいぜいで、ニックは実際にそれをやりはした。

 

この後、サンドラがディーマー・トラックを使う方法を提案します。ネルソンはこれを悪くないと考えて、彼女の仲間入りという取引を呑むことに。

 

やけに名案ですが、これは本当にサンドラの提案だったんでしょうか? パーカーからの入れ知恵だったのでは? サンドラの仲間入りを、ネルソンに納得させるための。ロングアイランドへの往路のサンドラとパーカーの車内会話が、一切書かれていないのが怪しい。この二人の初ドライブですよ? 復路の会話は書かれているのに。

 

と、ここでニックから警察に売られて困るものは、それぞれ以下となります。

 

ネルソン:本名。バー兼自宅の場所。

パーカー:クレアの家の電話番号。

そして無論、どちらともに「金のありか」

 

パーカーはネルソンほどには困らないとは言っていますが、ニックは『Nobody~』にて、コリヴァー・ポンドにあるパーカーとクレアの家に直電をかけています。これは過去作の仲間たちを振り返っても異例です。

カムバック後『エンジェル』のエド・マッキーでさえ、直電話はしていません。『Dirty~』でも電話しますが、公衆電話経由です。直電したのは『電子の要塞』のフランク・エルキンズ。

そしてなぜか『エンジェル』の敵役ジョージ・リス。

……あれ?

いずれニックの直電は、パーカーの不本意ではありません。そういう描写はない。それに、当のパーカーが番号を教えたのではないでしょうか。FBIによれば、ニックからクレアの家への直電記録は2回で、どちらも『Nobody~』に確かに書かれているシーン。となると、ニックが『Nobody~』の最初の7人会合にパーカーを誘った際は、直電ではなく仲介経由だったのでは。あの段階で、パーカーはニックのことを「少ししか知らない。トム・ハーリーのほうをよく知っている」と地の文で述べています。ニックはそのトム・ハーリーあたりからパーカーの連絡先を聞いたと想像できますが、ハーリーも『地獄の分け前』で直電はしていません。また公衆電話です。

カムバック後、パーカーとクレアの家は平穏かと思いきやわりとそうでもありません。『地獄の分け前』では、あらかじめ留守にしていたとはいえ3人組が押し入ってくるし、『電子の要塞』では爆弾を仕掛けられる羽目になります。

だから、ニックに直電を売られたとしても、クレアと二人でしばらく留守にすればいいと考えたのかもしれません。最悪でも引っ越せば解決すると考え、クレアも「やむを得ないならば」と引っ越しの可能性を口にしています(※どっちかというと、FBIよりサンドラの隠し調査書類のせいで)。

 

だいたい、パーカーにしろネルソンにしろ、現場一帯を離れたならば、ニックほどには深刻に追跡されないはずです。この二人は強奪はしたが、(少なくとも公けには、この一件に関しては)だれも殺していない。警官を手にかけて拳銃を奪って逃走するような凶悪犯とはわけが違うのです。

 

だからか、二人ともここに至るまで、はっきりとニックを「殺す」とは言っていません。地の文でもなんでも言っていません。

 

とはいえ、二人が考え得るニックへの始末とは、以下でしょう。

①死んでもらう ②警察にまた捕まえられる ③手助けして一緒に逃げる ④放置

 

とはいえ、③はまずあり得ない。議論にもなっていない。③を取るくらいなら迷わず①を選ぶことは、ネルソンの台詞から何度かわかります。「俺たちに居所を教えはしない」と言うくらいですから。そして②となるのがいちばんまずいと、彼は続けて言っています。

金曜日、空き家でのパーカーとニックの鉢合わせ後、ネルソンはニックをなんとか見つけ出そうとしますが、サンドラにせかされ、パーカーにもくじかれ、断念することに。パーカーには「アリバイを作っておけ」と言われ、しぶしぶ考えます。

つまり、パーカーどころかネルソンも、深刻にニックを探し出そうとはしていない。現場一帯に戻ってきた時から、二人の目的は「金の回収」であって、「ニックの発見と口封じ」ではない。

 

結局、ネルソンが取った始末とは④でした。

パーカーが①を取ったことは、実はこの後10日先まで知りませんでした。

……本当に知らなかったのだろうか?

が、気づいた様子はありませんでした。

 

パーカーは、だれにも見られず、音も立てず、教会の地下で①の手段を取った。

どっかの馬鹿のお人好しが(※失礼。分身ハーリーに憑依した)わざわざ隠れ家から出てきて、あのタイミングで鉢合わせしなければ、こんなことにはならず、④の放置のままで終わっていた可能性が高いということです。その後結局②になったとしても。

 

警官を殺しておいて、今さら司法取引をしたところでどうなったというのか。マサチューセッツ州に死刑はないらしいが、なにを売ろうともう実質の終身刑しかなかったでしょう。

 

パーカーたちに隠した現金まで持ち出されたとなっては、ましてニックには売るものがなかった。捕まったなら、ネルソンとパーカーのことをできるだけ話したでしょうか? それでマシになるような事態ではもはやないのに。

 

脱線ばかりしていますが、本題の考察はここからです。

 

パーカーは本気で殺さねばならない相手をあきらめる男ではありません。シリーズの全作品がその事実を教えています。そのパーカーが空き家での鉢合わせ後、一度は「徒歩の男を捕まえるのは無理」だと、ニックの追跡をあきらめたのです。それなのに結局手にかけられたのは、ニックがわざわざパーカーのいるところに戻ってきたせいです。

 

ところで、パーカーはサンドラに対して一貫して「ニックが今どこにいるか知らない」と言っていますが、

実際は知っていたでしょう。

本文には一切言及がありませんが、パーカーならば気づいたはずです。もしも自分だったらどうするかと考えてみたならば、思い至ったはずです。ニック・ザ・デスパレートと同じことを、パーカーが考えなかったはずはない。

ニックがメッチェン医師宅に隠れていることを、パーカーは1週間ずっと知っていた。

ネルソンはメッチェン医師のことを知らないので、彼にはわからない。しかしパーカーにはわかる。パーカーだけがわかる。

が、だからといって、わざわざメッチェン医師宅までニックを殺しにはいかない。ニック・ザ・デスパレートwith拳銃が待ち構えている家にわざわざ行ってなんの得があるのか。

それでも相手が『エンジェル』のジョージ・リスみたいなのだったら、殺しにいったでしょう。

 

ニックが真に気の毒なのは、殺す標的にされたからというよりむしろ、こう、放置というか無視に近い扱いをされていることではないでしょうか。

いないところで勝手に「もう相棒ではない」と切られ、分け前を半減され、見つけたら殺そうと考えられ──

本人がパーカーを前にして早々に悟る「すべてが敵」。気の毒ながら、まさにそう。

そもそもパーカーたちが金を手にできるのは、ニックが脱走した「おかげ」です。ニックが司法取引前に脱走したからです。

それなのに警官を殺したので、もうアナザー・ゾーン行きです。別件でパーカーとネルソンが明らかに何人か殺していようが、警官でなければさして問題がない、とばかりに。

 

そもそもですが、なぜ銀行紙幣の汚染──すなわち番号が控えられていることに思い至らなかったのでしょうか? 『Nobody~』の段階で、一度もだれも考えなかったんでしょうか? カムバック前の過去作品ですでに、パーカーは盗んだ紙幣の中でもきれいな新札は捨てなければならないと言う場面があります。だから、ダーティー・マネーの存在を知らなかったわけはない。

せめて、なぜだれか一人でもひと言注意しなかったのでしょうか?

なんでニックが真っ先にそのダーティー・マネーを使ってしまったんでしょうか?

まさか、あえてパーカーは、仲間のだれかが使うのを待っていなかったでしょうか? 使ってみないと汚染がわからないから……。  

いやいやさすがにそれは、意地悪で陰険な考えが過ぎるか。  

 

ところでこのバズーカ運転手、『Nobody~』では基本どの場面もDalesiaと書かれているのに、『Dirty~』では本人視点チャプターも込みでNickになっています。

もうパーカーの仲間の一人ではなく、Nickという個人になった。そういう意味なんんでしょうか……。

 

 

→【検証3】に続きます。