さて、ここからはやはり、パーカーとニックの双方視点から描かれる同じ場面を見ていかねばなりますまい。
そしてそれは、奇しくもカムバック後の初作品『エンジェル』(原題Comeback,1997)のセルフ・オマージュにも見える、残酷なまでの対照です。
『エンジェル』と『Nobody~』&『Dirty~』は、まずスタメン(?)から似ています。
『エンジェル』→ パーカー、エド・マッキー、ジョージ・リス(以上、実行犯)、トム・カモーディ(内部の手引き)+その恋人メリー、それに助っ人ブレンダ。
『Nobody~』→ パーカー、ニック、ネルソン(以上、実行犯)、ジェイク・ベッカム(内部の手引き)+その愛人エレイン、そしてサンドラ(※『Nobody~』の段階では助っ人ではない)
振り返れば、『エンジェル』はまさにシリーズの王道でした。主人公パーカー、裏切りのタフな相棒ジョージ・リス、陽気で信頼の固い相棒エド・マッキー、意外性をもたらすブレンダ、そして人間味あふれる単発人物たちと、期待に違わぬ展開が進みます。
(※元はドートマンダー・シリーズだったかもしれないと思わせるなにかがある。アーチボルト牧師は、そのままあちらで熱烈歓迎再登場しても問題ないキャラ)
『Nobody~』&『Dirty~』は、『エンジェル』の変形に見えます。
強奪そのものは成功する。が、真の問題はその後に発生する。ここまでがまず共通。
そして、信頼できる相棒はニックのほうと見せかけてまさかのデスパレートな道をたどり、危うかったほうのネルソンが結局相棒で居続ける。ブレンダ同様に、サンドラのサポートは超がつくレベルの有能。
ニックが、不本意にも、エド・マッキーからジョージ・リスの側に変貌します。
「一つの事しか考えられない」パーカーの動きと執念にも注目です。『エンジェル』のパーカーは、リス抹殺を最優先の目的として動きます。というのもエドが、すでに金を確保しているので。「リスには死んでもらわねばならない」と地の文ではっきり言っています。「お前を殺したかったんだ」とリス本人にも言っています。リスが金を独り占めするべくパーカーとエドのあとを追ってくる可能性をつぶしたいためでもありますが、なによりもまず裏切りの「落とし前」をつけるためです。一方、「あん畜生を撃てよ!」とパーカーに言いながらも、実際にどこまで行動に移したかという点で、エドにはやはりパーカーほどの執念はありません。パーカーこそ、殺すと決めた相手を必ず殺す人なのです。
一方『Dirty~』、パーカーの優先事項は、ニック抹殺ではなく金の回収となり、『エンジェル』とは逆転しています。パーカーならば無視するはずはないのに、ニックのことは無視も同然なのです。だれよりもニックの動きを気にしながら、ニック本人の殺害にこだわっていない。
このニックを、どの立ち位置でとらえたらいいのでしょうか。
エドのような、パーカーの仲間側ではない。PART1-1で見切られています。
かといって、リスのような敵役でもない。敵だったならば、パーカーは本気で殺しに向かっています。
気の毒なアマチュア枠でもない。アナザー・ゾーンに落ちましたが、プロだからこそこういうことになり、まわりまわってパーカーと鉢合わせる羽目になったのです。
同じことを考えていたから。
ちなみにアマチュアに厳しいようなパーカーですが、内心なんと思っていようと、振る舞いだけ見ればそれほど厳しくない気もします。「素人だからしょうがない」と。それで、一応仲間側だが愚かな真似をするアマチュアはたびたび出てきますが、パーカーが自ら殺した例はほとんどありません。
一方で、いちばん厳しいのがプロの裏切りに対してです。「最初から敵であるプロ」にももちろん容赦はないですが、「仲間だったプロ」の裏切りに対してがいちばん徹底的です。最初から敵であるプロとは、ビジネス成立で、バトルを休止することもあります。手を組むことさえあります。だがプロの裏切りにだけは、妥協の余地がない。
パーカー・シリーズには「裏切りの相棒」という伝統があります。第1作目マル・レズニックに始まり、9作目ジャック・フレンチ、真ん中12作目のジョージ・アール、15作目ボブ・ビーグラー、カムバック初回のジョージ・リス、そして最終24作目ニック────否、ニックはこの裏切り相棒枠に入っていない。入っていたら、もっとがっつり着実に殺しにいかれていた。結果は同じというのが気の毒でしかありませんが、宿敵枠ではないのです。
けれどももうエドたちのような、プロの仲間枠にも戻れない。確かにその立ち位置から始まったはずなのに、パーカー軍団の一員だったはずなのに、それなのに、アナザー・ゾーンに突っ込んだために。
(ちなみに上記「裏切りの相棒」軍団は、フレンチとリス以外全員運転屋です。ほかにも悪気なく事故った運転屋が複数人います。どこかの過去記事にも書きましたが、見るかぎり、パーカーはマイクとフィリー以外の運転屋ともう仕事をしてはいけないレベル)
ニックはまず裏切りを企んではいない。逮捕されて司法取引をすること自体は、裏切りとは見なされない。そうならないようにあらかじめ殺しておこうと見なされることはあれ。パーカーは『ターゲット』にて、マーシャル・ハウエルにこれをできなかったために、後々のトラブルを呼びます。「生かしておいたのは間違いだった」と言いながら、司法取引予防のためだけに、裏切ってもいない仲間を殺すことは、パーカーはやらない。なんだかんだやらない。
やらねばいけない時が、とうとう来たのでしょうか。
いや、ニックが近づいてこなければ、やらずに済んだことでした。
一方、ニックもパーカーを殺すことを考えたのは、例の2008年10月11日土曜日、空き家でパーカーと鉢合わせした瞬間です。
正確にはもっと後。
空き家でパーカーを見つけた時、彼は安らかな二度寝の最中。武器なし。ほんとになし。ブランケットと(たぶんほぼ空の)水入りペットボトルのみ(ちなみに全部サンドラがくれた)。
一方ニックは、殺した警官の銃を持っていました。
丸腰パーカーVS銃持ち元相棒、これは『エンジェル』の構図と同じです。
それにしても殺る気満々だった『エンジェル』パーカーに対し、『Dirty~』パーカーはまだ眠っています。あり得なくも眠っています。ちなみにこの直後に来るネルソンとサンドラは、銃持参です。ほぼ手ぶらなのはパーカーだけです。
と、ここでニックのほうはどうしたか。
①ここまでパーカーが乗ってきたはずの車が見当たらないので探しに行く
②パーカーに車がどこにあるか訊く
③ただパーカーを殺して動き続ける
以上の、どれにするか決めようとしながら、壁にもたれて座る。
…………え?
…………ええ?
まず、選択肢の出てくる順番がおかしい。①車を探しに行く、とは何事か。なぜさっさと③を取らないのか。ネルソンだったら即③を選んでいた。
そして、膝を折って「座る」のか。
で、このあいだに、パーカーが目を覚ますのです。
パーカー「来たか」
ニックがパーカーを殺さねばならないと悟ったのは、この瞬間です。よ・う・や・く!
目覚めてすぐに銃持ちニックを見ても、驚きもしなければ心配もしない様子のパーカーを見た瞬間です。
(俺たちは相棒だった)(もう一度相棒になれるだろうか?)(この窮地から一緒に抜け出せるだろうか?)
ニックだってこういうことを考えました。が、すぐに──
(俺たちは相棒じゃない)(俺にはもう相棒なんていない。今はすべてが敵なんだ)
第一声となる②「あんたの車はどこだ?」を発するまで、すでにニックはこう考えていました。
以降、パーカーの言葉はほとんどすべて「その場をつくろう出まかせ」にしか聞こえない。実際に、パーカーはその場をつくろうだけの口から出まかせにしか読めない言葉を聞かせます。読者にはパーカーが嘘を言っているのがわかります。ニックにだってわかります。
「いったいここでなにをしているんだ?」
「あの金を確認しておきたかったんだ」
「あの金を持ち出したかったんだろう」
「まだ早すぎる」
と、明らかな嘘をついた後のパーカー側の地の文は、なにか興味深い。
‘If he kept showing Nick this bland face, reasonable, no arguments, maybe Nick would calm down a little, just enough to listen to sense. But probably not.’
「もしも彼がニックにこの穏やかな顔を見せ続け、理性的で、言い争いをしない様子でいたら、ニックは少し落ち着くかもしれない。理に適った話を聞くくらいには。けれどもおそらくは無理だ」
まず、笑いどころでしかないような気もするんですが、パーカー、「この穏やかな(人当たりのよい、感情を示さない)顔」ってなに? 本気でそう見えると思ってる? ニックはめちゃめちゃおびえてるんですが。少なくとも、アナタの顔を見た瞬間、もう殺るしかないと思い詰めたところなんですが。
それにしても、ですが、私の下手な解釈はさておいて、ここの記述は引っかかります。まるでニックが冷静になったら、なにか理に適った話ができるかのようではないですか。いったい何を話すつもりだったの?
『Ask The Parrot』でも描かれていましたが、自分が人の気を狂わすほどの冷静さを備えていることに、パーカーはずっと無自覚です。宿のおかみさんにさえ「クレアさんはなんて冷たい夫を持ったの! 奥さんにばっかり運転させるし、紅葉に全然興味ないのも丸わかりだし、お気の毒に!」と、正体がバレる前から中身がバレている…。
で、続けて、ニックはまだ「出まかせだ! 出まかせだ!」と内心で怒るのですが、実際はニックの台詞のほうが多い。
ニックが唯一信じたのは、パーカーの「ネルソンとは旅行しない」との言葉。
ここで読者の頭の中には走馬灯が展開します。
~~半月前は二人だけで泊りがけ旅行したね! いつもニックが運転で、パーカーが助手席にいたね! 朝、昼、夜ごはんを食べに出かけたし、「あんたと俺と、装甲車とサツと警備員だけだったら、いいんだけどな」「そのとおりだ」とか、「なあ、(車でぐるぐるまわるのを)このまま2週間続けたら、ドーナッツみたいに穴が開くぜ」とか話したし、目線だけで会話もできたし、ほんとにあちこち行ったよね……!~~
古き良き、俺たちは相棒だった、日々。(※1週間前)
が、ネルソンは実はもうじき現金運び出しトラックとともに到着予定で、この後ですが、パーカーはほんとにネルソンと、短時間ながら二人旅はします……いや、実はしてないのか? ついに同じ車で二人だけにはならなかった。そうなったとしか思えないが、描かれはしなかった。
さらに少し後、パーカーはサンドラに「ネルソンは俺の友だちではない」と言っています。
ニックのことは「(not)my partner」、ネルソンのことは「not my friend」。「friend」も「相棒」と訳されもします。(ちなみにグロフィールドはパーカーを「俺の友だち(friend)」と言っている)(確認できないが、たぶんハンディはfriendもpartnerも両方使っている)(エドもfriend寄りで両方か)
一応言いますと、これは走馬灯的な感傷ではなく、パーカーとネルソンが並んで車内にいたら、たちまち強盗一味であると警察に気づかれるからです。だからニックも信じたのです。
ともあれ、読者の頭を走馬灯が駆ける一方、ニックは気づきます。
「あんたは待っているんだな」
「そのとおりだ」
パーカーはここでようやく真実で応じます。プロとして同じ思考を持っているから、いずれニックにはパーカーの考えがわかるのです。
パーカーはここでさりげなく動こうとします。(まだ二度寝体勢のままだった)
ニックはここでとうとう銃をパーカーの顔に向けます。
「動くな!」
ですが、まだ踏みとどまります。パーカーがなにを待っているのか、知らなければならないので、と。……知っている場合ではないのですが、まだ寸前で踏みとどまります。
「動いてはいない、ニック。体が凝り固まっているんだ。ここで寝ていたんだからな」
「もっと凝り固まるかもな」
「わかっている、ニック」
この体が凝っているという単語stiffには、そのまま「死体」という意味さえあります。パーカーはここで、ニックが撃つ寸前にいると見て取ります。「話していて得るものはもうなにもなく、彼もそれに気づいている。そしてあえて俺を生かしておく気はない」実際、ニックも気づきます。「もう待てない。もうパーカーはどうでもいい。どんな質問へのどんな答えもいらない。質問など残っていない」
「パーカー…」
パーカー側の描写にのみ、この声が現れます。
“Parker…” Nick said, and trailed off, sounding almost regretful.
「ニックは言った。声は消え入り、ほとんど後悔しているようだった」
…………えぇえ??
なんですと????
ほとんど後悔して、残念がって、悲しんでいるようだった(※regretfulの辞書通りの意味)とは何事か!
そう、つまりこの時の彼の気持ちは、「もうパーカーに勝った気でいる」…正確には、もう自分が殺してしまうと思っている。
とどのつまりニックの内心は「ごめんね、パーカー! こんなことになってほんとに残念だよ……」なのです。
お人好しにもほどがありませんか??
しかもこの声、ニック視点では描かれていない。つまりニックには聞こえていない。自分の声が。残念がって、パーカーに申し訳なく思う自分の声が。
パーカーを殺したくない自分の本心に、ニック本人が無自覚なのです。
これ以上話を痛ましくするな!(激怒)
これはもう、仲間枠でも敵枠でもない。妻枠ではないですか。第1作『人狩り』で、不本意にもパーカーを撃った妻リンにいちばん似ているではないですか。夫を撃つ間際と、そしてNYで再会して死ぬ前も最後に、彼女もパーカーの名を呼んでいました。
最終作で第1話に戻るなんて……!
「パーカー…」
ニックはこの直前にも、無自覚極まるお人好し案件を起こしています。
ほぼ1週間かくまってくれた後、教会のそばまで車で送ってくれたメッチェン医師。彼に別れ際、もう面倒をかけないと約束をしたうえで、ひと言、
「ありがとう」(Thanks)
……………………(絶句)
以降のわたくしの激怒は、某『哀歌』のトム・ハーリーがすべて代弁しております。
#悪党パーカー 哀歌 - TODO-Aの小説 - pixiv
(特にp10。続けてp11-12)
ほぼ一週間かくまってくれた末送ってくれた人に対して、まぁ、当然の言葉ではあるんですが……
ニックはメッチェン医師を──輸送車強奪騒ぎに乗じて妻を殺害した人を──結局殺さず、金も車も奪わず、一切暴力もふるわず、彼に言われるがまま出ていくことにしたのです。
この間、ニックは本当になにもしませんでした。なにもできなかったし、なにもしないのが賢明だったからですが、それにしてもなにもしませんでした。
メッチェン医師のことは、少なくとも逃亡序盤は、食糧を買ってきてくれる人がいなくなるから、確かに殺してはまずかった。だがいよいよ出ていくときには、なにかできたのでは。少なくともパーカーであれば、最低限必要なものは用意させたでしょうし、おそらくはそれ以上のことをして、さっさと逃亡を果たした。
ニックは本当になにもしないし、できない。電話を借りて、だれかに助けを求めることさえしない。
「いったいあの馬鹿はなにをやっていたんだ! 五日も!」(※某分身の激怒)(彼には悪かったが、憑依してでも言わずにはいられなかった)
メッチェン医師に一切危害を加えなかっただけで十分お人好しなのに、最後に「ありがとう」とくる。もう、どうしたらいいのか。
こうなってはもう案の定、パーカーに先制もできない。撃つ寸前までいったのに、ブランケットとペットボトルだけで逆転されてしまうのです。ニックが発砲したのは、パーカーに飛びかかられた後。しかもどこも狙わずに。
妻リンですらできたことができない。パーカーにはアンディー・ケルプでもできた並みの逆転をかまされる(※未翻訳作)。
最後まで、パーカーを狙うこともできない。結局この状況で、かすり傷ひとつ負わせられない。そして銃は叩き落とされる。
パーカーに首をつかまれる直前、ニックはかろうじて逃げ出します。ガラス窓に突進して、2階から外へ落ちます。
そういえば『エンジェル』でも、決着はガラスの盛大な破壊でした。パーカーがそうやってリスを投げ飛ばし、崖から落としました。『Dirty~』ではこれで決着とはならず、ニックは逃げて、姿をくらますのですが。
ここでネルソンとサンドラが合流します。サンドラの反対を押し切って、パーカーとネルソンは藪の中で、ニックを捜索します。けれども血の跡は見つかれど、どちらに逃げたかはわからず、パーカーが先に追跡をあきらめます。ネルソンもアリバイ作りを考えます。
通りかかる(謎の)赤いピックアップトラック。みんなが手を振り合います。
ここで断固として別方向に逃げていれば、おそらくニックは死なずにすみました。もう銃も失ったからなにもできず、遅かれ早かれまた警察に捕まっていただろうけれど。
ところが、なぜか、そしていったいいつどの隙を縫ったのか、ニックは現金積載作業が進行する教会の地下へ潜り込んでいました。パーカーだけがそれに気づき、一人地下へ下りていく。
地の文「どうして戻ってきたんだ?」
いや、まったく。
もうニックに銃はない。銃を持っているのはパーカーです。彼はそれを手に、最後の始末をつけに向かう。
真っ暗闇の中、ニックはどうして外に警官二人がやってきたことに気づいたのでしょうか。
彼が最後にしたことは、上の窓の開け、光を招き入れ、今その銃で自分を殺すことは賢明でないと、パーカーに伝える程度でした。パーカーが念のため警戒していたような反撃や抵抗は、一切ありませんでした。あったとしてもそうなる前に、パーカーの両手がニックを捕らえた……。
それで終わりです。
実のところ、パーカーがどうやってニックを殺したのか、直接的に書かれていません。銃を使わなかったことは確かです。おそらく首の骨を折ったか、締めた。けれどもその直接の描写はなにもない。「殺した」とも「死んだ」ともない。
音を立てず、素早くやる必要があった。
次に描かれるのは、ニックを「引きずって」シンクの下に押し込んで戸を閉めたところです。
「引きずって」の時点で、素直に読めばどう考えても死んでいるのですが、どうやって死に至ったかはまったくなにも書いていない。骨が折れる音の一つも。
これをバカな私のように「生存説」の可能性の一つに上げることはできます。
けれどもこれは、作者からのニックに対するせめてもの手心ではないでしょうか。読者への手心かもしれません。パーカーによる相棒殺しを、ぼかさずにはいられなかったのかもしれません。今回ばかりは。
だってこれがグロフィールドとかだったら、耐えられます? 無理でしょ、読者。
ニックはここで死にました。読むかぎりは、実にあっけない退場でした。あっけなさすぎてこの読者が11年も再読を封印するほどに。
9日後には死体も発見されました。
一度はパーカーたち3人を見逃した警官が、ついに残された3箱を発見し、地下に目を向けます。彼は相棒に言います。
「ルイーズ、あの男は下でなにをしていたんでしょう?」
ルイーズはあの時のパーカーの台詞を真似ます。「やあ、下にはなにもなかったよ。器具類はすべてなくなっていた。全部片づいた」
「いったいあの男はなにをしていたんでしょう?」
もう、この二人でさえ、地下になにがあるか悟っているのです。顔色も変えずに相棒殺しをやってきた直後のパーカーによる、戦慄もののシーンが強調されます。
……なんでこれで「生存説」なんて出せるの?
それでもパーカーも、ニックには手心を加えたと言えるかもしれません。せめてもの瞬殺。二度寝の時といい、ほぼ舐めプからの秒殺です。
手心、ないし情けとは。
ジョージ・リスのことは「殴りに殴り」、『ターゲット』の悪徳警官(一応警官だぞ!)をボールペン突き刺すわ殴るわ撃つわで血祭りに上げ、『地獄の分け前』では裏切りの相棒たちを蜂の巣(にするように仕向け)、『電子の要塞』ではPART1-1の1行目から「人を殺しているところだった」と首の骨をポキッ、その後はミーニーの部屋に入るや否や射殺事件を起こすような人にしては。
なぜ、ペットボトルとブランケットしか用意していないのか。時間はたっぷりあったのだから、その辺の石でも木の枝でも持っておけばよかった。ニックが来る可能性は考慮していたはずだ。ニックを一目見て、パーカーは少しも驚かなかったのだから。
ニックもニックで、なんでペットボトルとブランケットに負けるのか。まず始まりに戻るが、たいして距離も取らず、座って考えたことが問題だ。
もう一度『エンジェル』に戻りますが、ジョージ・リスはニックの先達にして対極。作中で、リスも警官を殺しているのです。彼なりの正当防衛や必要性に駆られたからではない。警官に化けたいから殺した。殺す必要もないのに、脅かされてもいないのに、平然と殺した。さらにその後、警官あふれる病院にまで乗り込んで証人を殺すような、信じ難い大胆不敵なのです。パーカーを狙い撃ちする時も、高笑いをしています。ためらいなどあろうはずもなく。
そのリスを始末するのに、パーカーは──カムバック初回だからか──やたら手間暇をかけます。隠れ家にて、いざ対決となっても、いったん相手に銃を奪わせる。人を盾にして撃ち合う(あとで『Dirty~』でもやる。オスカー・シドの友だちが、ネルソンを盾にする)。
悲鳴を上げて転がって、いったん逃げるところは、ニックとまったく同じ。
真っ暗闇の中で、相手の呼吸音を頼りに、パーカーが迫る。『Dirty~』ではニックがこれで無抵抗のまま秒殺されるが、リスはパーカーに棚受けで殴りに殴られる。
しかしパーカー、この際は、まずリスが暗い中で銃を撃ち続けている中を、その閃光を頼りに近づいていくという、とんでもない無茶をやってのけます。
こんな男にかなうわけがないのだから、やっぱりニックは「パーカー…」などとすでに勝った気で悲しんでいる場合ではまったくなく、二度寝を見つけた時点で即銃弾を浴びせるしかなかった…。
リスは、ひどくぼこぼこにされた末、銃も玉切れになり、パーカーに「もうやめよう」と命乞いをはじめます。またその暗闇での呼吸音を頼りに、パーカーは容赦なく迫ります。
『Dirty~』での地下の暗闇と、重ねずにはいられない。ただしニックは、呼吸すれば気配をつかまれると知っていたので、最初はもう微動だにしない。パーカーもしばし待つ。結局耐えきれなくなったのは、ニックのほうでした。彼は地下に光を招き入れる。パーカーは銃を手にする。
一方、リス「おれはもうくたくただ、パーカー! おれをここに放っておいてくれ」
パーカー「そのつもりだ」
リス「放っておいてくれ!」
パーカー「司法取引でおれを売るだろう」
リス「じゃあ、おれを連れていけ。ここから連れ出してくれ」
パーカー「おれはお前が必要じゃない」
直後、リスはパーカーにナイフで切りかかります。もう2ページ弱、タイマン・バトルが続きます。
一方、以上のような抵抗も命乞いもできなかったニック。「連れ出してくれ」と本当は言いたかったはず。けれどもプロである以上、どうしてもその言葉は出てこなかった。助けてくれるわけがないので、助けを求められなかった。試しに言ってみようとさえ、考えてもみなかった。
「助けて」と、最後まで言えなかった。
その一線だけは、ついに越えられなかったのです。
だれかに遠慮もなく助けを求められるような男なら、そもそもこんな事態になっていない。
……思えば『エンジェル』で、このリスとの決着の隠れ家を見つけて、得意げだったのがエド。『Nobody~』で教会を見つけて得意げだったニックと、思いきり重なります。まぁ、エドは不死身なので、そこが死に場所になったりはしないんだけど…。ニックみたいにザッツ・フラグ建立になりはしなかったんだけど。
このように、ニック「生存説」は、今のところどう見ても絶望しかない。
まだほかにもあります。『Nobody Runs Forever』のタイトル回収を、例の空き家の場面で、パーカー視点からやります。
「ニックが走ることをやめられる方法はただ一つしかなかったが、パーカーはそう言わなかった」
この一日前、サンドラも言います。
「あんたがニックの居所を見つけたら、彼は長くは生きられないでしょうね。彼は私やほかのだれより、あんたにとってとても危険だから」
「たぶんな」
サンドラのどっちの台詞に対しての「たぶん」かはわかりません。
とどめに、教会での最後の瞬間、ニックが外光を引き入れたとき、パーカーはポケットから銃を取り出しました。
結局、銃ではなく両手で始末することにしましたが。警官が来ているから今は──とのニックのアドバイスどおりに。
「人生最悪の週だが、決してすべてが最悪だったことがなかった。絶望だと思うたびに、いつも小さな可能性の光が一筋あった。もう一度彼を動かす程度には十分な光だ。絶望のほうがマシだったかもしれないと、彼は思いはじめていた」
ニック視点の冒頭です。
暗闇の中、最後の光を引き込んだのはニック。そして最後の絶望に叩き落としたのがパーカーです。
これがシリーズ最後の、グッバイ・パートナー。元相棒との決着です。
「パーカー…」
の直後、
「俺たちは互いに助け合えるはずだ」
とのパーカーの台詞は、やはり空虚な「出まかせ」にすぎないのか。
いや、やっぱり絶望しかないんですが。長々と書きはしましたが、最初に戻って、読者にはやはりPART1-1からすでにして、絶望しかなかったんですが。
なぜこれで「生存説」だなんて暴論を唱えられるのか。
ファンの都合の良い妄想でしかないのではないか。
さて、絶望を上げ連ねたうえで、希望のほうの考察にいましょうか。
と言っても某記事で、一応すでに取り上げてはいるのですが。そしてそれを、最初の記事で書いたように、修正せざるを得ない今日になったのですが。
でも次回が、本当の本題であり、主旨です。
→【検証4】に続く