A.Banana.S

古代ローマ、NACSさん、ドートマンダーにパーカー、西武ライオンズ、FEプレイ日記(似非)・・・好きなことをぽつぽつと。

グッバイ・パートナー(悪党パーカー版)

 どうもー! もうちょっと早く記事を上げるつもりでしたが、どこにも行かない(行けない)のに、例年のごとくお仕事繁忙期で、ありがたくもバテないように気をつけて過ごしております。

 

 

 さてさて、昨年、ルパン三世のTVスペシャルのときからぼんやりと考えておりました。

 パーカーってばしょっちゅうグッパナ沙汰だよねぇ、と。

 

 

(以下、容赦ないネタバレ注意!)

 

 (引用・参考文献はこちら↓)

anridd-abananas.hateblo.jp

 

 

 グッパナ沙汰とは、「共に仕事をした仲間が、だいたい仕事の終わり際あたりで敵になる」展開と軽く定義し、実際はもう少し広く捉えてみます。

(以下、文体変更)

 元相棒による裏切り、そしてパーカーの逆襲は、シリーズの醍醐味と言っていいだろう。もちろん他にも組織を敵にまわしての激闘や、危うい素人絡みのもの、強盗被害者側や当局との攻防、パーカー単独もの等、醍醐味はたくさんあり、これらが1作品で絡み合っていることも多いのだが、シリーズ初回と真ん中、そして最終回にこの「グッパナ沙汰」……「元相棒との対決」を持ってこられた一貫性に、注目せずにはいられない。

 

シリーズ全24作中、

① マル・レズニック

⑨ ジャック・フレンチ

⑫ ジョージ・アール

⑰ ジョージ・リス

㉔ 某バズーカ運転手

 

などが代表例だと、個人的に考えている。

 ちなみに①⑫㉔の元相棒たちはそろって運転屋である。

 上記以外にも、パーカーシリーズにはわりとやらかし運転屋がいる(裏切り者がまだいるし、仕事中に文字どおり事故った者もいる)。ドートマンダーシリーズはどちらかというと鍵師が”個性的”なのだが、これは運転屋をスタン・マーチに固定しているからだろう。つまりデータが教えるところ、パーカーは運転屋だけはもう固定したほうがいい。それだけてたぶん4,5作分のトラブルを減らすことができそうだ。

 

 ……ところで、㉔を実名にしない理由は、その……、気の毒と言いますか、グッパナ沙汰の名には荷が重いと言いますか、上四人に比べてあまりに、よわi――(略)

 …………いや、正直に言おう。わたくしはただ意味を再考したいだけだ。ファイナル・グッバイ相棒の意味を(別所で散々やっただろうが)。

 

 またこれ以外にも、パーカーを最初に仕事に誘ったプロ(わりと年配)が、裏切ったわけでもなく、パーカーにも好意的だったのに、仕事の最中に非業の最期を遂げるという意味でのグッパナ沙汰もある。なんなら素人よりプロの悲劇率のほうが高いのではないか。有能だ、一流のプロだ、まとめ役に最適だ、と思ってパーカーを仕事に持ち込んではならない。わざわざバカンス先まで頼っていくなどもってのほかだ。パーカーさんはさんざん難癖をつけたあとで、結局仕事に加わってくれるが、なぜか経過が順調で、もう大丈夫と思ったタイミングで大事故が起こる。どうしても一緒に仕事をしたいなら、パーカーから誘ってもらえるのを待とう。悲劇率が下がる。ちょっとだけど。(だれににゆうてんねん)

 

 おっと、㉔番の方はこっちの条件にも当てはまってるな。難癖はほとんどつけられていなかったけど、今思えば自分でどアタマからフラグを立てにいってたな。

 

 そもそもパーカーの相棒とは、初代、二代目、三代目と、見事にもれなく――(略)

 

 

 話を戻して、グッパナ沙汰を起こした主な5名の方を振り返ってみよう。

 

 中でも、シリーズの節目を彩る「元相棒」とは、やはりこの3名だろう。

 

① マル・レズニック

⑫ ジョージ・アール

⑰ ジョージ・リス

 

 ①のマルは、最初にして最重要の「仇役」。なにしろ裏切る、仲間はだまして利用して寝込みを襲って皆殺し、挙句にパーカーの妻まで奪うという、極悪ぶり。絶妙に小物な内面がまたいやらしくも読ませてくれる。

 一方、パーカーもパーカーで、最初から仕事が終わったらマルを殺してその分け前も我がものにするつもりだったのだから、率直に言えば、この件は悪党同士、どっちもどっちとも言える。マルがまずパーカーに、おい、お前も俺を殺すつもりだったんかい、とのツッコミ(※翻訳通りの台詞じゃないよ)。妻が脅されて裏切るように追いつめられているとも気づかず、パーカーはここで銃弾を受けることに。

 妻を奪い、負傷させ、当局の手に落ちるまでに追い込み、パーカーの運命を変えたという点では、やはり最重要の男マル。パーカーは看守を殺して脱獄し、長いヒッチハイクをしてまでマルを追いかけてくる。その過程でアウトフィットも敵にまわし、長い戦いが始まる。整形もすることになる。パーカーを殺して生まれ変わらせた男……それがマルなのかもしれない。

 パーカー、この件以後は、ほとんど分け前を等分するようになっていきましたよね。

 マルといえば、アウトフィットの上の方々に頭が上がらず、見栄っ張りの小物ぶりを見せてくれるが、パーカーを殺しきれなかった以外、計画どおり目的を遂げたという意味では、実に優秀。手柄を携え、アウトフィットにも復帰。上を見ればキリがなくとも、決して悪くない生活を送る。普段はタクシー運転手だが、飛行機まで操縦する高スキルぶりも見せる。

 いざパーカーを前にしたあとは、まあ、あっけなかったけれども。

 

 

 同じくあっけなさそうであっけなくはなく、なんと作品をまたいで敵対したために“宿敵”とされたのが、⑫のジョージ・アール。ちょうどシリーズの中間に登場し、⑮でまた再戦となる。

 マルと同じく、仕事は運転屋。スタントカーレースが趣味。有能度とスキルは普通か。クズだが、ガール・フレンドは複数人。迷惑者だが、世話になれる友人・知人はいる。あらゆるものを利用しながら一人で走り続けるしたたかさを持っている。逃げ足の速さは抜群。

 仕事では、最初から仲間皆殺しにして独り占め狙いという、極悪ぶり。親しい友人からまず真っ先に手にかける。パーカーもアールの仕事ぶりには「こいつ、怖気づくか…?」という疑念は抱いていたものの、だしぬけの裏切りは想定外だったらしく、重傷は負わなかったが、あわやという目に遭う。アールもシリーズの前例に学ばず(どうやって学べばいいのか)、パーカーを真っ先に殺すべきところを、しくじってしまう。

 パーカーはアールと彼に持ち逃げされた金を追う。アールはよく逃げまわり、反撃もするが、いざパーカーを前にすると、やはりひとひねりに近かった。パーカーのタフガイぶり、身体能力の高さがわかる。まともにやり合っては勝てない。

 ⑮のアールは、やや気の毒。逆襲のためパーカーを追かけていたわけではまったくなく、たまたま鉢合わせしてしまった。以後、お互いにそのときまでは忘れていただろうに、再び追って追われての殺し合い再開。それにしても、仕事復帰できるくらいまで回復していたとは驚異的で、アールのしぶとさもやはり相当なもの。もう一回くらい蘇ったら、完全に“宿敵”だったろう。マットとポールが引き継いだのかもしれないが(!?)

 

 

 まともにやり合っては勝てないパーカーと、ほとんど唯一まともにやり合ったのが、⑰のジョージ・リスだろう。なんとパーカーと、かなりのあいだ一対一の肉弾戦(隠し武器込み)を展開する。前作から23年という長い時を経てからのカムバックが、⑰である。初心に戻ってのグッバイ相棒――パーカーもリスも大はりきりでバトルしているように見えてならない。最初、リスは銃有り、パーカーは銃無し。読者をじらすような緊張感のある長い心理戦。そしてタイマン殺し合いである。

 リスもまた、最初から裏切りの腹積もりでいた。仕事も自分で用意した。前例から学んでいたのか(?)、真っ先にパーカーを撃ち抜こうとするが、同じように前例から学んでいたパーカーは、すでに防御策を講じていた。アールや、別作品の某ハンディを瀕死にした外国人のように、やるなら本当に不意をつかなければいけない。寝込みを襲うくらいではだめ。

 でもこれがアールやマルだったら、エド・マッキーはかつての仲間たちと同様に間違いなく死んでいたので(間違いなく死んだはずが弁明もなく蘇ってくる人ですが)、彼が後になってパーカーに借りを返しにくるのも、わからんではない。

 リスは、マルやアールと違って、私生活を垣間見せない。これまでの半生を描写されたマルや、ガール・フレンドや高校時代の友人が登場したアールと違って、ただ「仇役」として現れる。素人に容赦ない口封じも行い、警官さえ始末する大胆不敵。追いかけるパーカーと鉢合わせした時は、高く笑いながら発砲する。上二人と比べて、パーカーを恐れていないことがわかる。とうとう追い込まれてからも、必死に命乞いしてからの反撃など、悪役の王道も行く。

 まさにカムバックのためにこそ生まれた「悪」・リス。ライバルにふさわしいバトルをしたと言えるかもしれない。

 

 

 まとめると、

マル…パーカーの人生の転機。目的を遂げる意志と行動力。組織で出世する有能ぶりと、高スキル。

アール…しぶとくて敏捷。利用できる人脈あり。強運。

リス…心身のタフさ。行動の大胆さ。失うもののなさ。

 

 これらが彼らの強みと言えるだろう。①、⑫、カムバック初回の⑰と、登場がシリーズ節目であることも注目に値するだろう。

 

 

 一方、ファイナル・グッバイの㉔だけども……いや、その前に、だいぶ戻って⑨のジャック・フレンチも、気になる存在である。

 

 パーカーは、マル、アール、リスの“宿敵トリオ”には、いずれも当初からほとんど直感的に良くない印象を抱き、常に批判的に注視し、うさんくさいというか、遠からず「裏切るだろう」という予想すらしている。しかしジャック・フレンチに対しては、初対面であるにもかかわらず「できる男」と、胸中で有能判定を下す。というのもフレンチは、パーカーと同じ仕事に呼ばれたのだが、素人による危ういヤマだと知ると、金欠にもかかわらず即誘いを蹴ったのだった。こんなにきっぱり仕事を断れる男とは、いずれ一緒に仕事をしたいと思ったパーカー。フレンチの連絡先を頭に刻み込みさえする。

 パーカーに有能判定を下された男。読者に与える印象も決して悪くはない。むしろ好感。

 ところがフレンチ、こっそり戻ってくる。彼はタクシー代も払えないほど、金に困っていた。

 散々難癖をつけた挙句に、結局今回もいつもどおり仕事に取りかかったパーカー。フレンチはなんと横取りを企んで、仕事の最中にひっそりと行動を開始する。パーカーの仲間二人を殺さずに片づける。ところが次の二人で想定外が。それでも残すところパーカー一人となるが、事態が混迷し、二人はいったん休戦協定を結ぶことに。フレンチの言い分は、パーカーが加わっているとは知らなかった、一度は一緒にヤマを蹴って去ったのだから。

 ごもっとも。

 想定外があったとはいえ、パーカーの仲間を四人も片づけたのはなかなかの手際だろう。

 しかしパーカーも言うが、横取りとは「めったにうまくいかない」 実際フレンチは、想定外はそのとおりだけど、その相手が素人だっていうことはよくよくわかっていたんだから、その種のことは想定してしかるべきだろう、というやらかしをする。真の有能まであと一歩足りていない。

 真の有能であれば、追いつめられるほど金に困るプロにもならないだろう。

 休戦協定後は、パーカーと手を組むことを装いつつ、やはり決着を挑む。パーカーもクレアに「やつは裏切る。保証する」と言い、殺る気満々で待ち構える。そしてまともに挑めば、やはりやはり、パーカーの相手ではない。

 もったいないと感じてしまうのは、彼がパーカーの有能判定を受けていたからだろう。上三人の末路にはない「痛ましさ」が、彼にはある。

 彼は当初から横取り・裏切りを企んでいたわけでは(たぶん)ない。黙って引き下がっていたならばプロとして有能で、いずれパーカーから仕事の誘いもあっただろう。『殺戮の月』に呼ばれたかもしれない。

 ああ、もったいない……。

 でもそこは悪の非情な世界であり、悪党である。

 それに、有能あっても、フレンチはちょっと神経が細かったかもしれない。仕事前は胃が受けつけず、まったく食事がとれないのだとつぶやくシーンがある。

 上三人の“宿敵トリオ”や、お仕事前に仲良くお店でディナーを食べていたパーカーと某バズーカ運転手と某ネルスズ・バーの店主のような太めの神経は、残念ながら持ち合わせられなかったのだろう。

 

 フレンチ…パーカーに認められた有能。しかし能力以上の挑戦。敵を欺ききれず、ある意味では正直で人が良い。ゆえの「痛ましさ」

 

 

(以下、未翻訳作について激しく内容に触れながら書きます。超絶注意!!!)

 

 

 さて。ではファイナル・グッバイの件に行きましょうか。

 

 ……まあ、こちら↓やあちら( https://www.pixiv.net/member.php?id=46355320

)で散々書いてきたんですけどもね! 

anridd-abananas.hateblo.jp

 

 

 ㉔の方は、上記の面々と並べるのが、色々な意味ではばかられるレベルの“元相棒”

 マルやアールやリスと違い、当初からの裏切りなど少しも企んでいない。むしろパーカーを頼もしく信頼できる男だとみなして仕事に誘ったことがわかり、リーダーとして彼を立ててもいる。その点はむしろ、「パーカーを仕事にお誘いしたプロの悲劇」側のジンクスを行く。

 ただその「お誘い型」の面々は、パーカーとの仕事歴がありつつも、刑務所から出てきたばかり等で余裕がなく、引退間際の状態で、ややプロとしての勘が鈍っていることがしばしばうかがえるが、㉔の方はそうした状況に当てはまらない。パーカーも彼を有能とみなし、「お誘い型」の面々に向けた難癖――厳しいプレッシャーを、彼にはほとんど与えていない。

「裏切り」に関しても、パーカーは疑念を一切抱いていない。同じ仕事のもう一人の相棒には、「裏切る隙があれば裏切るだろう」と考えているのに。

 ただ、“パーカー軍団”=「主に『殺戮の月』の面々」のなかで、上位の信頼度や親密度であったとは言えないだろう。

 Sクラスのハンディ(親しすぎてむしろ注意)、グロフィールド(馬鹿間抜け気ちがい世話の焼けるでもしょっちゅう仕事に誘う)、エド・マッキー(彼が加わる仕事なら、たとえジョージ・リスがいても引き受ける)

 Aクラスのワイツアー、カーロウ(パーカーが自分の仕事に誘う)、ディヴァーズ(パーカーが自分でプロの世界に引き込む)ウエッブ(無口なところが好きと評すパーカー)、ウィスとエルキンズ(①からの安定した仕事ぶり)

 この次にフレッド・デュカッセ(⑮ですでに信用あり、パーカーに仕事も紹介してくれる)がきて、それからトム・ハーリーと彼がくるだろう。二人とも⑯『殺戮の月』が初登場だが、⑲や㉒でも書かれているように、パーカーはハーリーのほうをよく知っていて、某運転手のことはあまり知らないという。(なんなら、ハーリーはSクラスの面々をすっとばして、映画で相棒役をゲットしている)

 どちらかというと、パーカーは完璧な有能より、多少欠点やぬけたところがあっても、過去の仕事ぶりから信頼できそうだという人格で仲間を評価しているように見える。

 それでも、某運転手は⑯で冒頭とクライマックスの二度、㉒で三度目のパーカーとの仕事をする。

 この点、来たるグッパナ沙汰は、ジャック・フレンチの比ではない痛ましい事態になる。シリーズ三大悲劇が、①の妻リン、⑦の仕事経過、㉔のグッパナ沙汰とさえ言えるかもしれない。

 地味な新入りながら、⑯での仕事ぶりはいずれも問題なく有能。㉒に至っては、一気にAクラスの面々を抜いてSクラスに食い込まんばかりの「相棒」役を担う。

 ……㉒がなければ、もっと言えば⑯もなければ、㉔は愚かしくも非情な、単なる「グッパナ沙汰」というだけだっただろうに。

 ㉒の彼の熱心な仕事ぶりは、後で考えると涙ぐましいほど。仕事の半分から三分の二くらいまで、なんなら彼が手筈を整えているように見える。パーカーを二度も仕事に誘う、連絡係を引き受ける、襲撃場所から中継地点や隠れ場所にも目星をつける、必要な車も複数台用意する、もう一人の仲間も引き入れる。何度も仲間たちの送迎もする。仕事が始まってからも、ぎりぎりまでトラブル対処に駆けずりまわってからのバズーカ(違う)命中、コルト・コマンドーも発砲、ヘリコプターをかわしつつ金を積んだトラックを一人で運転してくる。

 ザ・有能オブ有能の働きぶり。

 パーカーも彼の仕事ぶりにケチをつけたことはなく、むしろどんどん合格を出していく。

 あえて言えば、某運転手の見た目が、たぶんあまり怖くないがために、仕事を代わってやったことはある。

 ある女性に連絡先を渡した後、それっきり破棄するように言ったのにしてくれなかったので、いささか頭にきていた某運転手(破棄してくれるわけねぇだろ、なにを期待しとるんや、という、当一読者のツッコミ)。パーカーは「お前は苛々して動揺しているから、俺が代わりにいく」と言って、その女性に一人でプレッシャーをかけにいく。

「その先を言うな。俺にも。俺の相棒にも。命がないぞ」

 ……こういうことは、確かにパーカーの得意分野である。

 この女性は某運転手とパーカーを「良い警官と悪い警官」と評した人である。比較的人当たりの良い某運転手と、絶対的にコワいパーカーのコンビ。

 パーカーはこのほかにも、各方面にプレッシャーをかけるなどして、仕事の感情面の問題をねじふせていく。実務はともかく、相手との交渉力は、パーカーが圧倒的とするしかない。

 おそらく……でもなんでもなく、この某運転手は、人が好すぎる

 某バーテンダーに、よもや自分を殺しにきたかもしれないとは夢にも思わず、笑顔で近づいていく。自分でも「俺のなにかがおかしい」と半ば観念する。

 唯一性格の悪さを見せたのといえば、その某バーテンダーの容姿をあてこすったシーンくらいである。自分の容姿には問題ないのか知らないが、誤解で銃口を見せられたうえに、尾行に気づかずに厄介事を仕事の直前に持ち込まれては、意地悪の一つも言いたくなったのだろう。ちょっとまあ、辛辣だけど。

 しかしまず、この人は怖い人に見えない。それは必ずしも悪いことではないが、周囲に与えるプレッシャーが、悪党として弱くなる。

 普段は無表情と無愛想でその「弱み」を目立たなくしているが、相棒がパーカーのような人だと、どうしても「良い警官」役でいなければいけない。必然⑯より㉒のほうが、陽気な面を見せる。

 Sクラスの面々は、パーカーの相棒である以上、例外なく全員「良い警官」になるのだが、たとえばエドは(うまくいっているかはさておき)人当たりの良さと脅威を一人で両立させているという、パーカーからの描写がある。

 某運転手は、どちらかというとグロフィールド寄りの人だろう。グロフィールドほどイケメンでないにせよ、怖い人に見えない。

 しかも残念ながら、グロフィールドほどのアドリブ力がない。決定的にない。

 そのためにこの人は、㉔のグッパナ沙汰を招く。

 

 ㉔は、この人のドートマンダーに匹敵するレベルの不運、しかも全然笑えないやらかしからの不幸が描かれる。この人の無自覚な人の好さが、その悲劇に拍車をかける。

 

 マルやアールやリスのように、仲間皆殺しを試みたことはまったくないが、むしろそっちを狙ったほうがマシだったくらいの罪を犯す。まずこの人自身がかつて⑯で「人殺しで手配されるのは割に合わない」とおっしゃっていたくせに、わかっていたくせに、いちばん殺してはいけない相手を手にかける。しかも最初から命を取ろうとしたわけではない。仕損じ。仕損じからの極端。

 それから警察署から逃亡という、サラっととんでもない難事をやってのける。

 それからとある人物を脅して身をひそめるのだが、連日自分を探しているニュースを聞き続けて困憊していく。

 日本でも警察署や留置場から逃走した人は連日トップ・ニュースで報道されるが、この人はしでかしたことがことなだけに、想像を超える最大級のプレッシャーを受けることになる。

 まさに「人生最悪の週」

 一方、パーカーは「彼は今のところツキに恵まれている」などと述べながら、その人が自白しなかった金を回収しに戻ってくる。いや、確かに逃走して一週間近く見つからないでいられたのは幸運だけども、この認識の差よ…。

 パーカーは、すでに冒頭チャプター1から「もう相棒ではない」と表明し、それどころか、金の回収を手伝ってくれる別の女性に、某運転手の分け前の半分を渡すと、勝手に取引も成立させる。この女性、某バーテンダーですら「えっ、あいつが現れたらどうする?」と訝っているのに、「あんたたち二人が(某運転手を)殺すでしょ。墓掘りも手伝うわよ」と、早々に逃亡犯の運命も決めてしまう。

 ……もう、残酷なるパーカーとクレアとネルソンとサンドラの四者会談よ……。

 

 そんなこととは知らない某運転手は、6日目にかくまってくれた相手の「家庭の事情」で出ていってくれと頼まれ(いや、居座れよ)、外に出ることに。一帯にパーカーが姿を見せたせいで、検問がほとんど解除になっていたともつゆ知らず(皮肉すぎる)、絶望感いっぱいのまま、金の隠し場所に向かう。隠匿者に近くまで車で送ってもらう。このとき彼は、信じがたくも隠匿者から、使える金も奪わず、車も盗まず、送ってもらってあとは二度と会わない約束をして、さよならバイバイしたのである。

 え?

 ええ??

 この人は逃亡犯だから、当然現金を一セントも持っていない。取りに行った金は、ダーティー・マネーだから、使うのが非常に難しい。そもそもそれを真っ先に使ったから警察に捕まった。それなのに…なのに、隠匿者からなにも奪っていない。

 ちょっと…ちょっと待て。その隠し場所は、周辺に空き家が一軒あるのみ。ダーティー・マネーを手に入れた後、この人はどうやってその場から離れるつもりだったのか。車がないのに。な・に・も・な・い・の・に!

 

 もう自分でもなにをどうしたらいいかわかっていなかったのかもしれない。

 それなのにこの人は…この人は、読者が目を疑う、最大級のお人好しをする。

 サンクス事件である。

 ……いや、あのさ、そりゃ一般的な文脈として当然っちゃ当然だけれども、でもでもその相手も、第一級殺人犯(完全犯罪の途中)ですぜ!? 

 なにナチュラルに言ってんの?

 自覚ないの!?

 

 

 この人は本当に自覚がない。

 ニック・ザ・デスパレートのくせに、いったいなにをやっているのか。

 絶望に追いやられている状況だからこそ、真の人の好さを輝かせてしまう、皮肉よ。

 お人好し案件はまだ続く。もう人生も終わろうというのに、まだ続く。

 

 

 ジャック・フレンチと違って、彼は横取りを企んだわけではない。隠し場所でポケットに詰め込んだダーティー・マネーは、彼の知らないところで半分にされた分け前のさらに半分にすら満たなかっただろう。自分の分け前だけ取ったにすぎない。

 むしろ彼が自白前に逃亡したからこそ、パーカーたちは金を失わずにすむ可能性ができたのである。実際、それでパーカーは金を確保しに戻ってきた。

 

 某運転手の不運の第二は、空き家でパーカーと鉢合わせしたことである。

 超仰天したのも無理はない。

 しかしパーカー、某運転手が見つけたときは、安らかな二度寝の只中。サンドラから借りた可愛いブランケットをかけて、ミネラル・ウォーター入りペットボトルを置いて(パーカーさんは協力者からちゃんと必要なものを調達するんだよ、おい)。

 ……それなのに、この某運転手は、パーカーの寝込みすら襲えなかった。

 ジョージ・リスを見習え案件がこうして始まる。

 

 パーカーと某運転手の双方の視点から、この場面が描かれる。

 

 目を覚ましたパーカーは、某運転手の出現に、少しも驚いた様子を見せなかった。その様子を見て、彼は来たる決定的瞬間を悟る。殺るしかない――。

 

 さてさて、それなのに、どうやったら拳銃VSペットボトルとブランケットで負けるのか。

 まず座るな。立っていなさい。立って身構えていなさい。

 パーカーの車はどこだとか、どうでもいい。どうせ車を用意してこなかったのはアナタなんだから、今更パーカーの車を乗っ取ろうとか、事態を把握しようとか、そんなことは考えんでいい。

 パーカーがどういう男か、どのくらい強いか、アナタは⑯と㉒でよーーーっくわかっているはず。銃を持っているから、なに? ジョージ・リスの前例に学べ。有利でない。ちっとも有利でない。さっさとやれ。

 一週間前まで俺たちは相棒だった……とか、胸の奥で思い出を振り返っている場合ではない。俺には相棒なんていない、すべてが敵だ……そのとおりだから、だれに対してもサンクス事件なんて起こすな。お人好しなふるまいをするな。痛ましさが突き抜けるだけだから。

「パーカー…」

 パーカーには聞こえているのに、自分には聞こえていない、この声はなにか。「残念そうに」銃口を向ける、その顔はなにか。

 

 パーカーのなだめる言葉を、まったく信じられない。

 ましてパーカーが助けてくれるなんて、気の毒なまでに頭の片隅にもない。それがプロだから。お人好しのくせにプロだから、それがわかっている。

 ダメ元で頼み込んだジョージ・リスを見習う振る舞いを、たぶん思いつきもしていない。プライドが邪魔してとかではなく、本当に考え及んでいない。

 

「パーカー…」

 

 ファイナル・グッバイ相棒。

 元相棒側が絶望と無念でいっぱいという、前例のない形となる。

 殺す気満々だったマルとアールとリス。口ではなんと言おうと、パーカーを殺して独り占めするためにわざわざ引き返してきたフレンチ。

 二度寝の現場で立ち尽くし、パーカーが目を覚ましたそのときにようやく殺すしかないと悟ったファイナル元相棒。

 むしろこの展開は、歴代元相棒たちよりも、①でパーカーを撃った妻リンのほうに近いとさえ言えるのでは。

 しかしリンでさえやれたことを、この人はやれないのである。結局、傷一つ負わせられなかった。多大な犠牲を払ったのに。

 パーカーに押し倒されて、万事休す。……いや、もう少し続いたけど。

 

 この一件の冷酷さは、パーカーの側から描かれるとなお際立つ。

 まず冒頭の「もう相棒ではない」宣言。

 それはやむなしとしても、某運転手が逃げ出したから、当局の手に落ちるはずだった金を回収できる可能性ができた。それなのに早速、本人のいないところで彼の分け前を減らす話である。「ニックが現れたらどうする?」というネルソンの懸念ももっともで、現れたらどうするつもりだったのか。やっぱり殺すしかない状況にしてしまったのではないか。

 

 某運転手がやらかしたことは、どう考えてもプロとしてアウト。でも彼は裏切り、横取りを企んだわけではなく、鉢合わせするまでパーカーを殺そうとしたわけでもない。要は、パーカー側の、生かしておいたら面倒だから殺すという、それも、もしもたまたま出くわしたらそうする、という程度の、消極的な殺意なのである。

 その消極的殺意を実行する場を作ってしまったことが、やはり某運転手の不幸。

 

 しかしパーカー、昔は警察につかまった元相棒の分け前も、後できっちり届けてあげていたのに、今や一方的に「もう相棒ではない」宣言後に分け前を削る算段である。

 

 かつて⑰『ターゲット』で、負傷して警察にお縄確定だった相棒を、パーカーは殺さなかった。それが後にトラブルを呼び、「生かしておいたのは間違いだった」と認める。

 けれどもまた同じ状況になったとして、果たしてパーカーに重傷の相棒を殺せるんだろうか、という疑いはある。なにしろアールですら無力な状態では殺せなかった。マットもポールも殺さない選択をしたのがパーカーである。

 裏切り者ですら殺さないこともあった。まして裏切っていない相棒や仲間を、パーカーは殺してこなかった。その人らが無能ならば勝手に自滅してくれたからでもあっただろうが、パーカーにはプロとして行うべきこと以上になにか、殺す価値や理由のない相手を殺さない誇りのようなものがあったように思う。

(ちなみに人事不省で警察にお縄確定となったグロフィールドのことは、殺しておいたほうがいいかな、なんて一瞬も考えていない)

 

 では、なぜファイナル・グッバイ相棒沙汰になったのか。

 某運転手がプロとしての道を踏み外したのは間違いないが、パーカーに実害は出なかった。出る前に始末をつけたとも言えるが、プロの道を踏み外した“おかげで”、金が無事手に入ったようなものだった。

 それでも、なぜ。

 それぞそれこそ、パーカーの非情だったのか――。

 

 

(一読者わたくしめの結論的考えは、上のリンク先で)

 

 

 このように、某運転手の件は、これまでのグッバイ相棒とは、明らかに違っていた。

 ある意味では、シリーズ最大の非情。

 しかし裏切りよりもまずい罪を犯した、某運転手の自業自得なのも事実。

 それでも⑯と㉒がなければ、さしてなにも残らない事件だった。ああ、お気の毒ですね、かわいそうですけど、あんなことやっちゃいましたからね、くらいで。

 ⑯と㉒があるからこそ、これまでのシリーズすべてがあるからこそ、最も痛ましい非情の悲劇になっている。それが最終作。ファイナル・グッバイ相棒。

 

 グッバイ相棒で始まり、グッバイ相棒で終わった『悪党パーカー』シリーズを、この一読者はこれからも忘れないでしょう。

 

 

 

 で、最終作ですが、作品の半分足らずでファイナル・グッバイを終え、以後は「某バーテンダー(おっさん)がヒロイン役の資金洗浄取引」がメインとなるので、お楽しみ満載ですよ!(はぁと)

 

 ……いや、クレアがヒロインになると「駄作」と批判される傾向にあるのは知っておりますが、「ヒロイン役」とはだれであるべきか、考えずにはいられなかった後半の展開でありました。

 うん、「ヒロイン役」だなんて性別的偏見だよね! 時代錯誤だよね!

 言うまでもなく、その「救出される役」がグロフィールドだったときは、最高に萌え……いや燃えたぎる展開となるのですが、このバーテンダーのおっさんはどうなんだ。誰得なんだ?(おい)

 それも続けて3回くらいありますからね。1作の後ろ半分で3回救出されるって、グロフィールドやハンディを追い抜くハイペース。

 パーカー、1回目ですでに頭にきていますからね。

 

 そもそも、状況的にそうせざるを得なかったとはいえ、クレアを紹介したことからしてすでに仰天でしたわ、こちら。Sランク相棒たちにもだれにも会わせなかったクレアをですよ。

 

 優しくする相手を間違ってない!? ……そこまで言わずとも、その優しさの四分の一の半分でもかけてあげたいお人好しが、どっかにいるんじゃないですかね!? 

 

 

 ……えー、この件に関しては、別所であれだけ書いたのに、まだ1万字以上も書いてしまう自分の執着ぶりですが、一応決着はつけております。長々と失礼しました。

 

 ただ歴代元相棒たちを並べて、比較考察してみたかったんです。

 

 そして元相棒マルに始まり、アールが真ん中を走り、リスで再開したシリーズのことを、まさかの最後の締めくくりがニックであったことを、記憶しておきたいと思ったからです。

 

 毎回申しておりますが、こんなに永く愛して考えていられている作品に出会えた私は、一読者としてこのうえもなく幸せだと思います。

 

 まだまだ終わりじゃないから、覚悟しておけよくださいね!

 

 

※※※

当方の駄文――ファンフィクションはこちら。
ドートマンダー・シリーズ:
『エメラルド始末記』『ファースト・ネーム』『ココナッツと蜘蛛』『エキストラとスタントマン』
悪党パーカー・シリーズ:
『哀歌』『最終作Dirty Moneyについての考察』『アフターワールド』『ラスト・デイズ』『ダーティー・ゴールド』『ライン』
※※※