A.Banana.S

古代ローマ、NACSさん、ドートマンダーにパーカー、西武ライオンズ、FEプレイ日記(似非)・・・好きなことをぽつぽつと。

三作目、打ち上げ。『世界の果てで、永遠の友に』あらすじと冒頭部分。

 

 まずは、一作目WEB公開より七年、二作目より三年半、長い時間が経ちました。
お待ちいただいた方々へ、心より御礼申し上げます。
 忘れないでいてくださったお気持ちに、少しでも応えられる三作目になっていることを願います。
 また今作で初めて目を通してくださる方、そしてこのブログをはじめ諸々、ここに至るまでお付き合いくださる方々に、感謝いたします。


 さあ……正直怖いですが、

 

 行きますぜ!

 

 

以下、「小説家になろう」様にも掲載の、「あらすじ」と冒頭「第一章 -1」
(最後にちょっとブログ用のつぶやき)

 

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世界の果てで、永遠の友に ~古代ローマティベリウスの物語、第三弾~

 

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【あらすじ】

ティベリウス・ネロの虜囚』の時系列的続編。古代ローマ歴史フィクション、第三弾。後の皇帝ティベリウスとその友人たちの若き日々を描く。

 

 前27年4月、ティベリウス・ネロは、ローマ名門貴族の若者として成人式を挙げる。同年、元老院よりアウグストゥスの称号を贈られた継父の下、ローマは新しい時代を迎えた。平穏な日々を過ごすティベリウスに、いよいよ初陣の時が近づく。

 一方、彼の友ルキリウス・ロングスは、父親の没したアレクサンドリアへ赴く。そこでは浅からぬ因縁が、存外の舞台へ彼を導く。

 奇妙な出会いと非情の別れ。

 ガリアとヒスパニア

 エジプト、そしてアラビア──。

 世界の両端にかけ離れた若者二人が、運命の渦流を踏み進む。

 

「幸いであれ、我が愛する者よ」

 

 

 

 

第一章 若き友たち -1

 

 

「君は最低だ!」

 ルキリウス・ロングスが叫んだ。

「よくもぬけぬけとやって来られたな!」

 ティベリウスは彼を見上げていた。視野が半分かすんでいた。衝撃でじりじりしびれるような感覚があったが、まだ痛みは感じない。背後に両手をついて、体を起こそうとする。

 ルキリウスの拳はわなわなと震えていた。指の関節が鮮やかに赤く見えたのは、すり剥いた彼自身の血のためか。ティベリウスの口の中にもその味が満ちはじめた。だがたいしたことではない。

 まるで恐る恐るのように開かれたそれから、鮮血ではなく、黄金色の光がこぼれた。ティベリウスはそれを知っていた。指輪だ。ルキリウスの父親の形見だ。たった今、ティベリウスが彼に届けたのだ。

 あしらわれた小さな黄色い宝石は、父親の面差しと同じだった。陽だまりのようにあたたかで、優しく輝いていた。ルキリウスはそれを地面に叩きつけた。

「君はぼくがいちばんしてほしくないことをした」

 ルキリウスはもう指輪に目もくれなかった。両拳を握りしめ、真っ赤な頬を涙で濡らして、ティベリウスをにらんでいた。

「わかっていたはずだ……」

 痛ましくゆがんだ両眼は、その怒りも憎しみも、すべてティベリウスに注いでいた。傍らの貯水槽の縁、そこに置かれた壺の存在さえ忘れたように。

 ルキリウス・ロングス――彼の父親の骨壺だ。たった今、ティベリウスが手ずから抱えてきたばかりの。

「どうしてそんなことをしたんだよ、この大馬鹿野郎!」

 ルキリウスは全身で吐き出した。事態を止めに入ろうとした彼の祖父や母親、それに奴隷たちも、一歩も動けなくなるような剣幕だった。

「……どいつもこいつも……どいつもこいつも……――」

 彼を深く傷つけたのは、少なくとも二重の衝撃だった。一つ目は嫌でも覚悟をしていた。しかし二つ目はさすがに思ってもみなかった。彼には最悪の裏切りだ。あまりにひどい。

 すでに彼は泣きじゃくっていた。それでも断固と、ティベリウスへぶんと腕を振ったのだ。

「出ていけ! 二度と来るな! 君の顔なんかもう絶対に見たくない!」

 オクタヴィアヌスとアップレイウスが執政官の年(前二十九年)の七月三十一日、カエサルオクタヴィアヌス凱旋式より半月前の出来事だった。

 

 

 

 

第一章 若き友たち

 

 

親愛なるティベリウス

 とうとうぼくもこの世の果てに来た。だから、ティベリウス、ここに至るまでの色々なことを思い出すんだよ。

 あのいまいましいファンニウス・カエピオが言っていた。でも今となっては、本当に彼の言葉だったのか思い出せない。

 コルネリウス・ガルスは、今のぼくをなんと評すだろう。

 だけど、ねぇ……ティベリウス、ぼくはやっぱり君を思う。この期に及んでも、ぼくという人間は君でいっぱいだ。

 ぼくにはもう時間がない。

 それとももしかしたら、これからは永遠の時間があるのかもしれない。

 いったいどこから始まったんだろう。君を初めて見かけた日か。君に初めて捕まえられた日か。君を思いきりぶん殴った日か。それともそろって成人式を迎えた、あのまぶしい春の日か。

 ねえ、ティベリウス

 ぼくはどこで引き返すべきだったんだろう──。

 

 

 

 

 1

 

 

(前二十七年)

 

 

 ユピテル神殿の扉がゆっくりと開かれていく。光が一筋伸び、天に昇るような柱となり、満ちあふれていく。

 ティベリウスはたまらず目元をしかめた。彼の青い双眸は、夜であっても不思議と見えるのだが、真昼に近い時間の日差しを受けるのは不得手だった。それでもゆったりとした足取りを止めることなく、光の中へ進んだ。門衛の神官二人が、ぶつぶつと祈りの言葉をつぶやいた。幸いあれ。新しき我らがローマ人に、幸いあれ。

 外に出て、視界が落ち着くと、ティベリウスはふと目元をゆるめた。足も止めたが、そうしなければ階段を踏み外していたかもしれない。日差しに目がくらんでいなくとも、今日初めて身にまとった純白の成人用トーガを踏みつける恐れがあるのだ。何日も前から歩き方を練習してはいたが。

 四月二十四日、空は晴れ渡っていた。穢れもない薄い青が、都市ローマの縁まで続いていた。きっと世界の果てまでも届いているのだろう。

 都市ローマで最も高い場所から眺める景色は、壮観と言ってよかった。西に満々と水をたたえるティベリス川、南にはティベリウスの自宅もあるパラティーノの丘、カエリウスの丘、前者の麓に大競技場チルコ・マッシモ、向こうにはアヴェンティーノの丘、聖道やスッブラの雑踏を挟んで、東にヴィミナーレの丘、どの丘も麓まで建物がぎっしり並んでいる。そして今この時も、人々は新しい住居と施設を作り、都市を広げている。大小の浴場からは早くも白い煙が立ち昇る。ただしエスクィリーノの丘だけは、緑が鮮やかだ。マエケナス邸の大庭園が大部分を占めているためだ。

 ここカピトリーノの丘のユピテル神殿は、都市ローマのどの土地からでも見ることができるだろう。神殿の北側にまわれば、タルペイヤの崖という罪人の処刑場があるのだが、そこからは七つの丘の最後であるクイリナーレの丘と、今ローマで最も大きな変貌を遂げているマルスの野をすっかり望むことができた。

 自然と微笑みながら、ティベリウスは慎重に階段を下りた。そっと吹き上げてくる春の爽やかな風は、肌にやけにひんやりと感じられた。今朝、ようやく半端な髭を剃り落とすことができたためだろう。成人式のこの日まで、慣例として男子は髭を放置する。気を引き締めるにはちょうど良かった。

 青い双眸の見つめる先には、一人の背中があった。神殿の扉が開いたのにも気づかず、その人物は丘の縁に立って、うっとりと眼下の世界を見つめているようだった。現在まさに彼自身が造り上げつつある世界だという誇りもあっただろうか。

 そこでふと足音に気づいたのだろう。彼は振り返った。ローマ人には珍しいと言える明るい髪色。かろうじて平均的な丈のほっそりした体に、白地を赤く縁取りした元老院議員用のトーガを纏っている。ゆらぎのない灰色の目が、ティベリウスを見つけた瞬間に見開かれたように見えた。まるでぽかんと、口までわずかに開いたのだった。

 どうしたのですか?

 そう声をかける代わりに、ティベリウスはかすかに笑みを大きくした。

ガイウス・ユリウス・カエサルオクタヴィアヌスアウグストゥス

 階段を下りきり、ティベリウスは明るい髪の男の前にひざまずいた。

「今日までこの私、ティベリウス・ネロを育ててくださったこと、衷心より御礼申し上げます」

「……おいおい、おいおい」

 アウグストゥスは半ば笑いながらうろたえた。

「まいったな、ティベリウス。ちょっと待て。ちょっと待ってくれ。顔を上げなさい。立ちなさい。せっかくのトーガが汚れてしまう。成人早々にリヴィアに怒られる。まいったな。まいったなぁ、もう……」

 なんだか継父らしくなかった。継子の成人式を執り行った張本人なのだから、突然慌て出す理由もなかった。中央広場で市民への紹介を済ませた。公文書館の名簿に、ティベリウスクラウディウス・ネロの名前を書き込み、晴れて一人前のローマ市民とした。それからユピテル神殿へ付き添い、神像の前で二人並んで立ち、感謝の祈りを捧げた。あとは一足早く外へ出て、継子が一人でユピテル神と、さらに若者の女神ユヴェンタスとともに時間を過ごすのを待っていたのだ。継子は最高神へ、ローマの平和と繁栄のために命を捧げることを誓った。女神ユヴェンタスには、健やかなる成長とたゆまぬ鍛錬、誘惑への不屈を約束した。両神へ、見守ってくださるようにと改めて祈った。

 だがそれでも、昨日までの継息子と同じ少年である。

 なんとかティベリウスを立ち上がらせてから、アウグストゥスはほうっと深いため息をついた。照れているような、苦笑しているような表情が浮かんでいた。それから彼は、ティベリウスの両方の二の腕に添えた指を落ち着かなさげに動かした。まるでその厚く張った感触を疑うように。そして自身の両腕が教える幅が信じ難いように。次々に実感を得るのがやめられず、確かめるように何度も触れていた。

「大きくなりおって」

 継父は少しばかり頭を傾げ、自身の額に水平に伸ばした手を当てた。そしてまっすぐに差し伸べたそれは、ティベリウスの眉間に当たった。

「もう私より伸びたのか?」

「まだです」ティベリウスはにやりと笑った。「こんなものではありません。今年じゅうにはっきりさせます」

「このっ」

 継父の軽い肘打ちを胸に受け、ティベリウスはよろめくふりをした。カピトリーノの丘の端で、二人は笑い合った。

ティベリウス

 アウグストゥスは自分の役割を思い出そうとしていた。それで、両手で継子の両頬を挟んでみたのだが、その顔にまた微苦笑が浮かんだ。もうそうした子どもに向ける仕草をするような年ではなくなったのだと知るように。

 彼は、結局ティベリウスの両肩に手を落ち着けた。そして力強く、もう一度置き直した。

「今このときより、お前は一人のローマ市民だ」

 アウグストゥスは引き締めた顔で言った。澄んだ灰色の目で、まっすぐに継子を見つめて。

「国家ローマが続くかぎり、お前の名は記録に残り続ける。誇り高きローマの男として。クラウディウス・ネロ家の嫡男であり、古き名門を継いだ家父長として。この意味はもうわかるな?」

「はい」

「国家に尽くすように」アウグストゥスは言った。「市民の幸福に献身するように。長くお前の祖先たちがそうしてきたように。国家に名を遺した大勢の男たちがそうであったように。彼らに恥じぬように。彼らに負けぬように。きっと彼らを凌ぎ、国家の繁栄に大きく貢献するように」

「はい」

「お前は今日で一人前のクラウディウス・ネロになった」アウグストゥスは少し表情をゆるめた。「だがそれでも私の継息子だ。この縁が無くなることはない。そうだな? これからも私たちは家族だ。私を助けてくれるな、ティベリウス?」

「はい、カエサルアウグストゥスティベリウスはゆっくりと、大きくうなずいた。「そのために、私は今日の日を心待ちにしておりました」

 それが、ティベリウスの真実だった。今日この日がその第一歩だと信じていた。

「父ネロを亡くして六年、こうしてあなたのおかげで成人式を挙げることができました。これで少しは私にもできることが増えます。どうか私をお役立てください。成人したとて、まだ拙く若輩ですが、今後もたゆまず鍛錬と勉学に励むことをお約束します」

「お前は固い」ついにアウグストゥス吹き出した。「本当に十四歳か? 私は十年ばかり成人式を行うのを忘れていたか?」

 その顔は、今やはっきりとはにかんでいるように見えた。

「でも今日はめずらしく良い顔をしている。ありがとう、ティベリウス。お前がこれほど立派に育ってくれて、私はうれしい。お前が私の家族としていてくれてうれしい」

 良い顔とは、この継息子にしては顔つきが固くなく、取っつき易く、愛嬌もいく分かあるように見えるという意味だ。言い方はともかくだが、ティベリウスもまたうれしかった。

 三十五歳の継父は、これまでにもまして美しく輝いて見えた。苦難を乗り越えた自信と現在の幸福が、その輝きを裏打ちしているのだろう。

「さて、そろそろ帰るとするか」アウグストゥスティベリウスの肩越しに、カピトリーノの下り坂を覗いた。「リヴィアが待っている。ドルーススも、まだ蜂蜜菓子は食べちゃだめなのかと、待ちかねている」

「はい」

 継父はティベリウスの腕に手を添えて、歩き出した。二人の横を、次に神殿内で成人式を挙げる少年とその家族が、そそくさとばかりに通り抜けていく。

 その姿につい気を取られたティベリウスだが、そうでなければもう少しだけ、大切な言葉を伝えられただろうか。六年どころではない。もう十一年もそばで過ごしたこの継父へ。

カエサルアウグストゥス──」

アウグストゥスはいいって」継父はまた照れたように言った。「もちろん気に入っているのだがな、家族に呼ばれるには肩苦しくて……なんというか、大仰だと思う。これまでどおり。カエサルでよい」

「はい」

「これまでどおり」アウグストゥスは継子のたくましい腕を軽く叩いた。「私たちは家族だ」

「はい」

 ですが、いいえ、これまでどおりではありません。

 ティベリウスは、結局胸中に言葉をしまう。

 六年前の約束は、まだ更新できるだけのことをしていない。だが第一歩だ。確かな第一歩のはずだ。

 カエサル、私があなたを守ります。必ず守れる男になります。きっとあと少し、あと少しですから、どうか待っていてください、カエサル──。

 

 

 

 

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続きは「小説家になろう」様で連載開始。

 https://ncode.syosetu.com/n5712hm/

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以下、いつもの調子でぼやき。

 

(上、建前)
(下、本音)

 

 


 気づいた真実:ダブル主人公制は苦労が二倍☆彡


 世界の両端とか行きやがらないでくれよ。おかげで調べものが二倍になったよ。日数計算やら距離計算やら地図やら、本当にもうどうしたらよかったんだよ(灰)

 い、いや、ダブルで行くつもりは当初はなかったんですけども……。
 で、でも前作のあとがきを見返すかぎり、うっすらと構想はあったのかな……?

 二作目より四半世紀も時間が戻ってスタート。ぬぁぜ?(お前が書いた)
 したがって二作目を読まずとも、この三作目はまず問題ないと思われます。あえて言えば、ちょっとニヤリとできる部分が増えるかもしれない…..(尻すぼみ)(逆もまたしかりで、三作目から二作目に行っていただけた場合、ちょっと見方が変わるやも)

 い、いや、ニヤリどころかところどころ矛盾などが目についてしまう恐れのほうが大きい……?

 

 ま、まあ、もう、なるようにしかなりませんわな。

 

 ゆけ、三号機。

 

 

 どうぞよろしくお願いいたします。