A.Banana.S

古代ローマ、NACSさん、ドートマンダーにパーカー、西武ライオンズ、FEプレイ日記(似非)・・・好きなことをぽつぽつと。

ティベリウス・クラウディウス・トラシュルスの華麗なる経歴

仕事納めてきました。年の瀬、ご機嫌うるわしゅうございます。

 

さて、表題の方ですが、ティベリウス帝の友人であり側近であったとして、史書に名前が残っている人物です。天文学者。古代は天文学者占星術師(占い師)を区別していなかったらしいのですが、ちょっと信憑性の怪しい占いエピソードも残っております。タキトゥス、スエトニウス、ディオといった歴史家全員に言及されているので、実在していたのは確かでしょう。

 

不肖わたくし、古代ローマ小説の一作目、二作目とも登場させている人物です。

 

年内最後は、この人の、ちょっと泡を吹いて倒れるレベルの華麗なる経歴について書かせていただければ、と。

 

不肖わたくしの小説はさておき、

 

出身はエジプトのアレクサンドリア、あるいは同じナイルデルタ内にあった都市メンデスと言われています。歴史上は「メンデスのトラシュルス」と書かれることも。

生年不明。ただ没年はわかっています。ティベリウス帝死去の前年です。(帝よりは長生きしてほしかったですわ……)

帝は77年の生涯と、当時としては長命も長命でしたので、その前年まで生きていたというトラシュルスは、たぶん帝より年下だった可能性が高いと思われます。確実ではないですが。

 

帝と知り合い、友人になったと思われる時期は、おそらく前6年~後2年のあいだ、すなわち当時、ティベリウスロードス島家出……いや引退していた時期です。

 

その後、ティベリウスは後2年にローマへ帰国しますが、トラシュルスも友人に同行したようです。時々もしかしたら里帰りしたかもしれませんが、アウグストゥス帝死去の年にもローマにいますし、ティベリウスが皇帝になってからもカプリ引きこもりまで付き合っていたようです。

 

ここでまずスゴいのが、彼の名前。

ティベリウスクラウディウス・トラシュルス」とは、ティベリウスによってクラウディウス一門の名前をもらい、パトローネス=クリエンテス関係を結んだということ。そしてローマ市民権を得たということ。

 

ティベリウスが、アウグストゥスと仲直りをする前に……いや養子になる前に。

後4年以降であれば、彼の名前は「ティベリウス・ユリウス・トラシュルス」になっていたはず。

トラシュルスは天文学のほかにも文法等の専門分野があったらしく、おそらく教師としてローマ市民権をゲットしたのでしょう。アウグストゥスは市民権を容易くは与えなかったとされる人ですが、先代カエサルに倣って医者と教師になら市民権を与えることにしていたはず。

と、いうことは後2年~後4年2月頃までのあいだに、首都ローマにて、トラシュルスはローマ市民権をゲットしたということか。

ロードス島にいたうちにゲットした可能性もなくはないですが。

どっちにしろ、ティベリウスアウグストゥスがまだ喧嘩しているうちに、よくゲットできたな……とは思います。天文学者といったって、場合によっては「インチキ占い師」と紙一重だったでしょう。ティベリウスなど皇帝になってから、占い師全員首都追放令とか出していますからね。疑いの目で見られてもおかしくはない。

 

ただ問題は、このトラシュルス氏が、クラウディウス一門家父長から上手いことローマ市民権をゲットしたことではありません。

 

問題は、後3年時点で、彼が二児の父親だったということ。

 

 

 

しかも奥方はコマゲネの王女。

 

 

 

え……?

 

 

ええ……??(ドン引き)

 

 

(※以下、私もいくらかは資料を持っておりますが、多くが英語版Wikipedia様からの情報。私の読み違いもあるかもしれません。ご注意を)

 

 

……なぜ後3年で二児の父であることがわかっているかというと、この時生まれた男児が、「ティベリウスクラウディウス・バルビルス」という超大人物であるがため。詳しくは後で書きますが、クラウディウス、ネロ、ヴェスパシアヌスの三皇帝に仕えて、無事大往生を遂げたらしい、大河ドラマの主役にできそうな人(後3年~79年)

 

息子出世しすぎぃ! トラシュルス!

 

このバルビルスの孫が、ユリア・バルビッラという、こちらもハドリアヌス帝とその妃の友人として有名な女性になる。

……トラシュルスについて史家が触れているのは、たぶんこのように子孫繁栄にもほどがある人だったからでしょう。バルビルスとユリアを遡れば、先祖である彼に触れないわけにいかない、と。

なにしろ首都ローマに一族で初めて来た人なんだから。

 

そして息子バルビルスには姉がいたようなんですが、この方(名前は不明)、エンニウスという人と結婚して、エンナ・トラシュラという娘を産みます。この孫エンナも有名で、ティベリウスの近衛隊長マクロの妻であり、カリグラ帝の愛人だったとされる女性です。そのせいだったのか、気の毒に、まだ若いのに非業の最期を迎えます。

 

 

ところで、え……? 孫って……?

 

 

仮に母親が後1年生まれだとして、エンナは後17年くらいに生まれ、ティベリウスが死去した年は二十歳くらいで、その翌年にはもう……──となるわけですが、

(ちなみに夫マクロが生年前21(※いくら当時では珍しくもないとはいえ、若い妻をもらいすぎだろ)、カリグラが後12)

 

つまり……どういうことか。

 

ティベリウスロードス島にいた時点で、第一子が生まれていないとおかしい、少なくとも妊娠していないとおかしい、ということ。

 

不肖わたくしの二作目の小説の時点で、もうトラシュルスは父親であった可能性が高いということ。

 

しかも相手はコマゲネ王女!

 

 

待てや、ゴルァ!

 

いったい全体なにコネクションで、小国とはいえ王女様と結婚しとるんや、トラーーーーッシュ!!??(アバンストラッシュでも見舞いたい…)

 

ま、まずコマゲネとは、ですが、当時カッパドキアアルメニア、そして属州シリアに挟まれて存在した国です。(当時の地図でも無視されるくらい小国…)王国になって160年くらいだったらしく、比較的若い。セレウコス朝シリアから独立したそう。

 

とはいえ、トラシュルスがめとったのは、この国の第7王女とか第8王女ではありません。

 

第1王女をゲットしたらしいよ!

 

 

ウソだろ……??(ここで泡を吹く)

 

 

奥方であるAKA王女(アーカ王女? それとも英語でalso known asとかいう用語?)は、四人兄妹の二番目で長女。ティベリウスロードス島に引っ込んだ時点で、父王はすでに亡く、実の兄が国王。

 

どうかしてるぜ、兄王! 妹で第1王女を、よくわからないエジプトの学者にほいほいと嫁に出すなんて……!

 

い、いや、トラシュルスが良い家柄であったのかもしれませんが、この人、父親の名前は残っていないんですよ。ギリシア系の名前なので、○○のトラシュルスと紹介される際、ここに出身都市でなく父親の名前がきてもよさそうであるのに。

 

したがって、父親は無名であったとするしかない。

 

父親無名のメンデス市とかいうナイルデルタのどっか出身の一介の天文学者に、王女を嫁にやるですと……!?

 

信じ難いことですが、現代の研究者の方々も同じであるらしく、「どうやってアーカ王女と縁ができたのか不明」と書いています。

 

マジでどーやったんですか、トラシュルス!?

 

……いちばん考えられるのが、ティベリウス・コネクションですが、ティベリウスも別段コマゲネ王家と親しかったような話はありません。王族がローマに留学していた可能性はありますが。

ティベリウスロードス島滞在中に、コマゲネ王一家が親善訪問した。そこでなぜか王女とトラシュルスが恋仲になった。

そういうことなの?

 

……恋仲、と言いましたが、そう言うしかない。ここに政略の類が見いだせないのがまず奇妙なんですよ。コマゲネ王、ティベリウスのファンだったのかもしれませんが、当時ならアウグストゥスの孫ガイウス・カエサル派の人とでも縁組みさせるほうが、まだ自然では?

なぜティベリウスの友人? しかもたぶん友人歴そんなに長くない。(不肖私の小説はさておき)せいぜい5年くらいでしょ、わかっているかぎりは。

 

なんでこういうことになった!?

 

当時のティベリウスの心境こそまさに上記だったかもしれません。え? そこくっつくの? そして、いいの?

 

いいよって言っちゃうコマゲネ王、大丈夫? 

 

くり返しますが、わかっているかぎり、トラシュルスは庶民。一介の天文学者

 

それとも違うの? クレオパトラ女王の親戚かなにかだったの?

 

こうして考えてみると、ティベリウスと知り合う前に、王女と結婚していた可能性さえなくはないのですよね。王女コネクションからティベリウスと友人になったというパターンもあり得る。

いずれ、トラシュルスって何者!? どうやって王女を落としたの? もしかしてとてつもない美形だったりした??

 

こうして見事逆玉に乗った挙句、さらに友人ティベリウスアウグストゥスの後継者になり、とうとう帝位にまで就いてしまう。トラシュルスは帝の側近として、死ぬまで一緒に居続ける。孫はその次の皇帝の愛人。息子は次の次の皇帝の側近。以後、ひ孫の代まで歴代皇帝のそばに居続ける。

 

だから子孫繁栄にもほどがあるでしょうが、トラシュルス! 少しその子やひ孫の幸運を、友人ティベリウスの子や孫に分けてあげるべきだ。どんだけ家庭に恵まれたのか、この天文学者兼占い師は。

 

わりとマジで、本物の占い師で、自分の未来を予知できたんじゃないだろうか? しかも予知したうえで運命を操れるという、超能力。そんな疑惑さえ抱いてしまうレベルでしょ、もう。

 

なんならアウグストゥスにも認知されていたみたいで、彼がトラシュルスをからかって笑いこける描写さえ、スエトニウスが残しています。

彼の孫二人の若死にが、もしも万一陰謀によるものだったとしたら、結果だけ見れば、このトラシュルスこそ最も疑惑の人にさえなりやしませんか、これ……。

 

そして彼の優秀すぎる息子バルビルスよ……。どれだけ優秀かというと、カリグラ帝に殺されずに済み、クラウディウス帝とともにブリタニアに行って軍団を指揮し、ネロ帝によって殺されるどころかエジプト総督という騎士階級の出世の頂に立ち、父親の故郷に凱旋し、総督退任後はネロに近づくのが危険だからとそのままアレクサンドリアに居座り、たぶん悠々自適の老後を満喫し、そうしたらネロが死に、三皇帝が入り乱れ、ついにヴェスパシアヌスが皇帝に名乗りを上げ、たぶん少なくともブリタニア遠征の時点で顔見知りではあっただろう彼を支持し、ヴェスパシアヌスが帝位に就くやローマに戻り、専属の天文学者となり、帝の死ぬ年に大往生を遂げる。享年76歳。

幸運すぎる……。

 

この方も実に大人物ですが、なによりまず貴方のお父上は何者ですか、と問い詰めたい。そんな2021年年末。三作目、第二次推敲終わり目前。

 

貴方のお父上、また書かせていただきますよ。

 

王女との結婚の謎は永久に解けそうにないけど。

 

 

※※※

以下、「小説家になろう」様に投稿している拙著。

来春三作目公開予定。

ティベリウス・ネロの虜囚』 (https://ncode.syosetu.com/n6930cz/) 
『ピュートドリスとティベリウス』(https://ncode.syosetu.com/n6661ez/