……戸塚くん、強すぎね?(漠然とテレビ見ながら)よくわかんないですが、これもう犯人ですやろ(暴論)
以下、例年になく悲しい物語。
さて、こうして長年日記をつけておりますおかげで、わたくしめは毎年G様の出現時期を、かなり正確に予測することができます(いらない能力)過去を参照しますと、早くて四月下旬、遅くとも五月下旬、……もっと正確に言いますと、4月26日から5月26日が、毎年のファーストコンタクト、すなわち運命の出会いの日と相成るわけです。
ところが、なんとなんと今年は、今日この日まで開戦記録を上げないままに過ごしておりました。忘れていたわけではございません。むしろ四月下旬からは一日たりとも忘れることなく身構えておりました。
しかし今年は、驚くべきことに昨日まで、家の中でG様を目撃することなく過ごしておりました。ザッツ・ミラクル☆ ブログ始まって以来の僥倖。
色々ありすぎた一年でしたが、今年くらいはG様もこのわたくしめをご容赦くださったんでしょうか? まさかの自粛? ステイ・ホーム? いやいや、ステイ・ホームなどされた日にはわたくしめは生きていられる心地がしません。G様はゴートゥーどこかよそをされておられたのか。
我が家にG様がいなくなったわけではございません。むしろ外では何度も目撃しました。しかし外でのエンカウントは、たとえ我が家の庭でも開戦の定義といたしておりません。たとえ仕事から疲れて帰ってきた日、玄関に手を伸ばした瞬間、ドアベルに張り付いているのを目撃しようが、心が広すぎるわたくしめは、開戦といたしません。潔く引き下がります。めそめそぐしゅぐしゅ泣き寝入りします。たとえ家の壁に居座り、その距離わずか三十センチになろうが、わたくしめは非暴力主義を貫きます。
だから家の中に入ってくるのだけは勘弁して、G様! わたくしが夜中に一人文章を書いているときなんかに、背後を取らないで、G様!
それこそが長年の悲願でした。
その願いが届いたのか、今年はなんと、予定遭遇日から三ヶ月が経過。外で目撃はすれども、家の中での出会いなし!
最高かよ!!
……そう思っておりました。昨日までは。
いや、もうお盆過ぎて八月下旬ともなれば、もう今年は休戦ということでええですやろ、と心の中で思っておりました。とはいえG様に関しては超慎重派のわたくしめ、勝利宣言のブログを書くとしたら(どこ需要?)、9月末まで待とうという腹づもりでいました。
つまり、予定ではこの一ヶ月後に、わたくしめは、
「ヒャッホーッ! 今年はG様と開戦しなかったZE☆」という最上級ハッピーエストな記事を書くつもりでおりました。
……無念でなりません。
しかし事は、意外な結果を迎えました。
去る26日、わたくし、居間で一人次作を書く。
ブーンという音。
──ったくハエにしては音がでかいな。カナブンでも入ってきたかな?
背後に気配。
壁にビタ。
私「嘘だろ…………」
それは、かなり大きな、G様だとしても特大サイズの、黒い虫でした。カナブンではありません。あの固い質感はなかった。
しかしG様だという確信も持てなかった。とにかくやわめのデカくて黒い虫。
私には信じられませんでした。
まずもってG様とは、飛ぶときに「ブーン」などという派手な音を立てられたでしょうか? 常に音もなく、気がつけばそこにいる。それがG様では。
しかしG様に見えなくもありませんでした。そもそも室内に特大サイズのデカくて黒い虫、というだけで、なに様であろうと、自称温厚で平和主義者であるわたくしめを殺生に駆り立てるには十分な理由となります。
嘘だろ、嘘だろ……と言いながら、それをしかと直視もできず、わたくしめはただちにハエ叩きで「それ」を仕留めました。
…………ついに開戦してしまったか。今年こそはないかと期待していたのに……!
しかし亡骸の回収はできませんでした。懐中電灯まで持ち出して、なんとか試みたのですが、非常に厄介なところに落ちてしまったために。そしてなにより、あのサイズの亡骸を、夜中に一人で回収する勇気などとてもありませんでした。
けれども周辺には家族の衣類諸々が……。
翌27日、わたくしめは家族に昨夜の一部始終を伝え、亡骸の回収を託し、仕事に向かいました。
で、さっき帰ってきましたら、家族はだれも亡骸の回収に手をつけておりませんでした。(ダメ一家、私含む)
おい、あそこにあるのはあんたらの衣服諸々なんですぜ。あとで悲鳴を上げる事態になっても知らねぇからな。警告はしたからな!
そういう気持ちで、わたくしめは今夜の執筆作業に入りました。
仕留めたと思っておりました。仕留めそこねた場合、G様は必ずまた同じ場所に現れます。忘れもしない、ある年のある一夜などは、わたくしめに仕留められるまで、延々同じ場所に姿を現しては逃げるをくり返し続けたG様(特大サイズ)……思えばあれがトラウマの始まりでした。
ともかく、あれから現れなかった以上、仕留めたのは確かだと考えておりました。
ところが、執筆を始めておよそ十分後、
隣に、床に、いらっしゃいました。
コオロギが。
もしやと思っておりました、昨夜から。
しかしわたくしめは、生まれてこのかたこんなに大きなコオロギを見たことがありません。
そもそもコオロギとは「ブーン」なんて派手な音を立てて飛ぶ生き物だったのか? いや、今も外で涼し気ないつもの音で鳴いてはおられますが。
わたしくめはしばし胸を打たれました。
昨夜の邂逅から24時間近くが経過。その間、家族の前には姿を現さず、私が一人になる時間を見計らって、また現れた。今度は音もなく、いつのまにか隣に出現していた。
そんなに私のことが好きだったのか、君は!!!
おそらくこの一年で、最もわたくしを愛してくれた存在と言っても過言ではなかろう、巨大コオロギ氏。
まるでなにかを伝えたかったかのように。
わたくしはこの愛のかたまりコオロギ氏を、ティッシュの箱で一撃の下にとどめをさしました。
…………いや、だって、このサイズの黒い虫が家の中にいることに、耐えられます?
外へ逃がしてやることもできたでしょう。しかし体が勝手に動いていました。もう生理的な反射と言っていい。
今、とてつもない後味の悪さでいっぱいです。悲しい。後ろめたい。なぜ家に入ってきたのか、あのコオロギ氏は。
G様もコオロギ氏も変わりなく一匹の生き物であり、差別するのは人間の勝手でしょう。コオロギ氏にだけ申し訳なく思うのも、不公平でしょう。
しかし、なんでしょう、このやるせなさは。
愛してくれた人を手にかけるとは、こういう気持ちでしょうか?(おい)
その昔、わたくしめにも虫が好きだった時代がありました。コオロギを飼ったこともある気がする。カブトムシをわしゃわしゃと虫かごに入れて飽きずに眺めていた日を覚えています。
しかし、おばはんになった今、それがもう無理になりました。カブトムシはもうダメです。なんならその幼虫のほうがまだ見ていられる。
もう決定的に「黒い虫」が苦手になってしまいました。それもこれもみんなG様のせいだと思う。身勝手で不公平だけど。
もういい年だし、そんなことは起こらないと思いますが、もしもわたしが将来子どもを授かって、その子が「カブトムシを飼いたい」などと言い出した場合、私は半狂乱になるかもしれない。もう想像するだけでぞっとする。
それともそれくらいのショック療法があったほうが、虫嫌いを乗り越えて、またかつての無邪気な心(?)を取り戻すんだろうか……
いずれ、今年の開戦報告は、このような悲しい結末となりました。
まさかのコオロギ氏を犠牲に。
そしてG様は……G様は…………!?
この記事をアップして数分後とかに、しれっと背後にいるんじゃないかなっ(死)