(※『Get Real』の記事、十一度観したら、誤りに気づいたので修正しました。やはり素人がやるものではない。今後は控えます。陳謝。)
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クライム・コメディー。
主人公、東堂満男。
もう、無理ですよね! 良い意味で!
相棒、刈部。
浅暮先生がおっしゃっているのでそういうことなのですが、ドートマンダーシリーズに影響された小説というか……もう、完全に寄せてきている作品。
東堂満男。長身で筋肉質の引き締まった体つき。野球ならピッチャータイプ。まだドートマンダーほど疲れ果てた外見にはなっていない様子だけれど、やはり似ている。そして頭のきれる計画者タイプで、職人気質のかたまりという。
となると、東堂の相棒刈部も、ケルプに見えてくる。口調は初期のケルプにまさにそっくりで、乗り気でない相棒を厄介事に引きずり込む手口も、かの人が取り憑いているかのよう。
ただ、刈部の外見だけが、ケルプに寄っていない。小太りで、頭頂のはげた、達磨のような男、とされている。
昔は、どうしてここを寄せないんだろう。そのほうがもっとファンが飛びつくのでは(余計なお世話)と思ったものですが、
今になって、わかりました。自分自身が、ど素人のくせに分不相応な夢を自覚してはじめてわかりました。
やっぱり、あえて、ヴィジュアルを寄せなかったのだ、と。
ここを寄せたり似せたりしたら、それこそ二次創作になってしまう。
浅暮先生が、そうするはずがない。プロフェッショナルです。だからやろうと思えばできたことを、あえてやらなかった。
主人公のヴィジュアル以上に相棒のヴィジュアルが、重要な一線を引いていたのですね。
……いや、はい、確かに、考えてみれば、そこを寄せられていたら、良い意味でも悪い意味でも、読んでいてヤバかったかもしれない。とてもではないが、平常心でいられなかったと思う……。
そうするとストーリーそのものも、似せてはおられますが、新鮮かつ怒涛の展開が用意されていて、とても楽しめます。
東堂と刈部、そしてもう一人の相棒の李は宝石強盗で服役したことがある。現在「ラストホープ」という釣具屋で生計をたてるのは、日本が不況で、宝石を盗んでも故買屋がいないからだとか……。
阿二雄留光さん、出番です!(※そんなキャラは出ません)
すべては一枚のファックスからはじまった…。このファックスと付属の留守電がまた、ね…。機械が苦手な東堂と、かまわず得意げに活用する刈部なんて、既視感しかないですからね。
こうなるとあれにもこれにも過剰に刺激される。知っている人間が読むと、それだけでもう色々ヤバい……(こんな表現で恐縮)。ちょっとした単語だけでも、にやけずにはいられないもののオンパレード。「車泥棒」「僧衣」「墓」(考えすぎか…?)「百科事典の訪問販売」「臭う魚」「孤児院」……。
深くため息をつく東堂。片方の眉を上げる刈部(これ、中・後期に見かけるケルプの表情。日本人に可能なんだろうか…)。……気にしすぎなんだろうか。
読んでいると、ヴィジュアルが寄っていないことを忘れてしまいそうになるけれど、刈部さんは、ケルプ氏が一度もやらかしたことのない、ある種のドジをやる(それも二作連続…)。
裏稼業では、東堂が計画、刈部が鍵、李が運転という役割だったとのこと。李は、針金のように痩せた(…)学者ふうの男で、中華料理店の店長。女好きで、ウエイトレス・ハーレムづくりのために、昼夜ろくに眠らず仕事に精を出す、ある意味ではものすごい頑張り屋。車を運転し、東京を頭の中に、ルートを検討する場面がある。(…ケルプとスタンとグリーンウッドを足して三で割ると近くなるか…?)
ストーリーですが、大きな山女魚がほしいという怪しげなファックスの依頼を受け、重い腰を上げる東堂。しかし、それからがもう……悲惨。殴られるわ焼かれるわだまされるわ顔中つつかれるわ、身体的苦痛という点で、ドートマンダーを余裕で上回るであろう、ひどい目に。
敵が強すぎ。これに尽きる。ドートマンダーたちでさえ相対したことも想像だにしたこともないだろう、最強の敵が現れる。
それにしても東堂さん、ちょっといい人すぎないか。さすがにここまできたら殴り返してやったっていいんですぜ。
ちなみに相棒刈部さんも、負けず劣らずひどい目に遭っている。どっかの疫病神はほとんど全部相棒におっかぶせて難を逃れているのに。そして「誰のせいでもなかったんだ」と心から思っているのに。
作中、刈部がある人から「あんたの相棒には悪い運がついているから一緒にいるべきではない」みたいなことを言われる場面がある。
思えばドートマンダーシリーズでは、だれもケルプにドートマンダーとのつき合いを考え直すよう忠告した人物がいない。ドートマンダー本人は何度も考え直しているのに。あえて言えば、ドートマンダー本人が「お前だって俺と一緒にいたくないはずだ」とは言っている(ケルプ氏の耳をあっさり素通り)。
頭にきてストレスがたまると、酒をあおり、大声で歌いながら破壊活動をする東堂。バーボンを一気飲み、据わった目で微笑みながら暴れるシーンは、コワイけど必見。
主要人物たちもさることがながら、ちょっとした脇役(警備員、店員、夫婦)にもスポットを当てられる。様々な人物の視点から話が展開するのは、ウエストレイク氏も得意とする、楽しい見せ方だ。先に読み進むのが楽しく、なんというか、日本社会に見られる陰湿さというのか、暗さもほとんどない。
欠かせない楽しみが、各チャプターについている釣りのフライの解説。東堂と刈部が代わる代わるやってくれるのがイイ! 釣りに対する東堂の姿勢のおかげで、それまで不肖わたくし、ただ餌をくっつけて座っているだけのスポーツ?ぐらいにしか思っていなかったフィッシングが、すごく奥深く興味の持てるものになった。プロとしてフェアに、鱒との勝負(だまし合い)をして、手厚く扱う東堂がとてもかっこ良い。
続編も出版されている。同じくらい面白く、かつ痛々しくないという点では二作目のほうが読みやすいかもしれない。
……もう一作、お願いできませんでしょうか……?
ところでN・Dさん、こちら転生先にどうっすかね?