相棒の話の続き。
それでも不肖わたくしめは、前記事で上げた中では、最もマイナーであるドートマンダー&ケルプを推していかねばと思っております。えっ、いちばん相性悪いし能力無……ゲフンゲフン!
関連過去記事① ②
宮部みゆき先生に「ドジな相棒」と太鼓判を押されているケルプですが、『ジミー・ザ・キッド』あたりをピークに(底に)、どんどん有能度もかっこ良さも上がっていきます。
このコンビに関しては、ほとんど三つ巴要素がないかもしれない。もちろん、スタン・マーチやタイニーは絡んできますけど、アンディー・ケルプはドートマンダーの相棒という地位を、だれかに一瞬たりとも渡したことがないかもしれない。
以下、表現に問題あり注意。
まず第1作目から、愛情表現(語弊)が激しい。
次元さん! 大丈夫ですよ! ニューヨークの自称悪党アンディー・ケルプさんなんか初登場のどアタマから相棒殺しにかかってますよ!
2作目、まったく懲りない。むしろ「なんでいるはずの場所にいないんだよ」という趣旨のことで、登場時から不機嫌。前作に引き続き、車の運転もちゃんとできないのではないか疑惑が濃厚に。
3作目には、懲りない片思いの末に絶交を言い渡される(二度も)。
4作目には、完全シカトされる。怒りの自宅来襲。クリスマスショッピング中の相棒に、本当に偶然出くわすミラクル。無視したかったけど手遅れだった相棒。辛抱強い努力の末、ようやく両思いに(だから語弊)。大西洋を渡った先で、化粧台の下で寝る羽目になってもつき合う。
5作目には、今更のだしぬけのファーストネーム呼び。全NY市民を敵にまわして逃亡する相棒につき合ってくれる。(が、作戦はことごとく裏面に出る)
6作目、相棒を見捨てかける。で、新キャラに怒られる。わたくし知人の読者にはここでやっと「ケルプさん、頭良かったんですね」との感想を言われるようになる。
7作目、仲間全員に引き止められる相棒を、ケルプだけが信じて好きにさせてあげるという、超ファインプレー。
8作目、相棒の正体を意図せずばらし、挙句置き去りにして逃げるという、久々の清々しいまでの疫病神プレー発揮。
9作目、かっこ良さの最高峰に到達。このころにはもう関係性が逆転していて、むしろ相棒から助けを求められるまでになる。
13作目あたりになるともう「いつ俺に助けを求めてくれるんだ?」などとのたまう増長ぶり。
最初の頃のストレートな愛情表現は、アラフォー男子と思えぬ可愛さ。
後半作品になると「時たまの仕事仲間」などという距離を取った言い方が小憎らしい。
あれか、そっけなくされると逆に熱が入るタチか。もうすっかりジョンには俺が必要で「相棒」の地位はゆらがないと安心しきってますよ、この方。
映画版などではケルプは鍵師になっていることもあるんですけれど、実際は特になんのスペシャリストでもない。ドートマンダーが天才的犯罪プランナー、マーチが運転手、タイニーが腕力担当の壊し屋、しかしケルプは「〇〇の専門家」という肩書きを一度も持ったことがない。それどころか全作品中、悪党なのに拳銃を一発も撃ったこともなければ、だれかを殴ったことさえなかったのでは。…あ、8作目に聖骨で殴ってましたっけ。(ドートマンダーさんは1作目で空中に向けて一発撃ち、ほかの誰でもないケルプをぶん殴っている)。
後期作品で、相手の鼻穴に指を突っ込んで持ち上げるという、ケルプでなければ『銀魂』の登場人物しかやっているのを見たことがない必殺技を持っていたことが明らかになるけれども、それまでは「この人、トラックのドアの開け閉めしかしてなくね!?」「結局見張り役しかしてなくね!?」などという仕事シーンが、わりとよくある。
相棒関係最悪になる『ジミー・ザ・キッド』であれ、ドートマンダーは最終的にケルプの身が心配だから計画に乗ることにしたような描写があるくらいである。そう、彼がわざとケルプに無理のない仕事を割り振っている疑惑があるにはある。良く言えば適材適所。
そういうわけだから、なぜこいつが相棒なのか、という疑惑を読者に抱かれるのもしかたがない。ドートマンダー本人ですら、8作目あたりになってもなお、「どうして俺はあいつ(ケルプ)とつき合っているんだろう……?」と空しく自問している。
でも後期作品になると、読者はドートマンダーに対しても、「この人大丈夫か?」「世の中についていかなすぎでは!?」とだんだん恐ろしいくらいに心配になってくるので、世界とのつながりを保つためだけにでも、やっぱりケルプは必要か。
たとえばドートマンダー、14作目に至ってもなお携帯電話なんて持たない。車にしか興味がないマーチですら持っているのに。それより前には相棒宅に複数台の電話を設置しようとするケルプをいく度も退け、ついにあきらめさせている。当然のように、家にはインターネットもない。ケルプ宅でたまに見ているので、存在は知っていると思われるが。電子レンジを嬉々として使っている同居人メイの描写が、わりと後の作品になってようやく見られる。戦慄。
10作目、久々にダメな仕事に相棒を巻き込む。
11作目、相棒誘拐される。でも基本放置。
12作目、とある一人の故買屋をめぐり、おおむね以下のような痴話喧嘩をする仲の良さ。
「アーニーは俺に電話してきたんじゃないぞ、ジョン。お前に電話してきたんだ」
「でも彼は俺たちがチームだって知っているんだぞ」(←前代未聞、ドートマンダーからの『相棒』表明)
「アーニーは俺に電話してきたんじゃない。だから俺は行く必要はない」
「ものすごくうまい話だと言っていたぞ」(←前代未聞、ドートマンダーからの『うまい話』)
「そりゃ結構。お前が行けよ。それでもし本当にうまい話だと本当にわかったら、それから俺に電話してくれ。なんなら俺の家に来て説明してくれてもいい」
「アンディー、率直に言うぞ」
「無理するな」
「一人で行きたくないだけなんだ。『リハビリ後』のアーニーがどうなったのか、知るのが怖いんだ。一緒に行くか、行くのをやめるかだ」
「…………あのなぁ、ジョン――」
13作目、面倒事に巻き込まれているらしい相棒を、華麗に他人のふり。挙句「助けて」って言えよ、発言。……まあ、そのときは完全に巻き添えのケルプだったから、この要求も当然と言えば当然だったんだけど。
それから「ドームを輪切りにするのか?」――ドートマンダーが可能性を見出すなら、ケルプの想像の泉も無限に湧くのだ……という趣旨の、もはや言葉はなくとも能力を引き出し合えるすばらしいコンビネーションの域に達する。
「…お前、俺を低能だと思ってるのか?」ドートマンダーあ然。
ついにはドートマンダーの依頼人兼脅迫者から、「友達のアンディー・ケルプによろしく(はぁと)」と言われるなど、関係者以外からすでに「仲間の筆頭」扱いを受けることに。
本人たちはお互いに「partner」という言葉を使っていないように私は記憶しているんだけれども(associate,friend,pal,team等は有り)、もう内外的に「相棒」という結論で固められている。
ちなみに次点で名前が挙げられたお友達は、なぜかアーニー・オルブライト(!!)12作目でもめていた三角関係三つ巴まで外に漏れているよ!(笑)
……今ごろは、ケルプさん、ドートマンダーに「ツイッターやらないのか? ジョン、お前も俺をフォローしろよ」とか、「インスタで知り合ったんだ」「電子マネーを盗もうぜ!」「それ以前にスマホを持てよ! タブレット買えよ! OJバー&グリルのライングループに参加しろよ!」などと迫っているんだろうか…。
さて、次回は4作目までの「ドートマンダー」呼びケルプ氏と、5作目以降の「ジョン」呼びケルプ氏は別人説の検証をば。(※嘘です。そんな説は見たことありません)
前者がアンドルー・フィリップ・ケルプ氏で、後者がアンドルー・オクタヴィアン・ケルプ氏ですよね? 前者はドートマンダーがスコットランドに埋めてきたんじゃないか疑惑が――。
どうやったら同一人物だと証明できますかね…?
ところで、ドートマンダー・シリーズのオーディオブックは最高に尽きます。TOEICや英検を受ける際、私のリスニング能力の向上にもどれほど貢献してくれたことか。おかげで全然苦も無く耳を鍛えられました。勉強が天国でしたわ。
ドートマンダー、ケルプ、マーチ、タイニー、アーニー・オルブライト、全員イメージどおりの声を、ただ一人のプロフェッショナルが語っていらっしゃるとか信じ難い…。
ドートマンダー、このうえもなく最高! まさにこの陰鬱ボイスこそドートマンダーの声! ケルプ、『Watch Your Back!』がだれも役立たずと言えないレベルのめちゃくちゃクール&チャーミングボイス! マーチは『Road to Ruin』が低め、「Watch Your Back!」が高めの声にイメージチェンジしている。タイニーとアーニーは天才の仕事です、Mr. William Dufris!!!
下記リンクの サンプルからだとOJバー&グリルにて、ドートマンダーとロロと、それからスタン・マーチの声が聴けますよ~♪ アメリカのアマゾンだったら他作品のオーディオブックも販売されています。
パーカー・シリーズもDufris氏の声で読まれている作品があります!
Watch Your Back!: A Dortmunder Novel
- 作者: Donald E. Westlake
- 出版社/メーカー: Blackstone Audio, Inc.
- 発売日: 2008/10/23
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相棒話、まだ続く予定。
追記:たまたま初めてはてブさんのお題と合致した! ・・・こんな記事でいいのかしら・・・?
理想のコンビに投稿します!
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