A.Banana.S

古代ローマ、NACSさん、ドートマンダーにパーカー、西武ライオンズ、FEプレイ日記(似非)・・・好きなことをぽつぽつと。

神戸で観劇その②『日の本一の大悪党』

※観劇編でございます。ネタバレがあるのでご注意ください。いつにもまして内容に触れています。

 

 

 

 

 

 

 

もう一週間経ってしまいましたか。早い・・・。時間が止まっているかのような感覚です。世の中には目まぐるしく次から次へとニュースが入るというのに。

 

 

さて、『日の本一の大悪党』観劇編でございます。

『四谷怪談』のあらすじさえ知らない自分でした。『源氏物語』を読んでつくづく思い知りましたが、私は日本に関して――時代や歴史や文学に関して無知すぎる。もっと若い頃に勉強しておくんだった。

それでも存分に堪能できる作品でございました。

 

まず、ミーハーな面から。

チケットを取るのが遅かった等の理由で、3階席からの観劇でした。しかし観劇初心者の私にはこれがまた新鮮で、舞台の奥行きがよく見渡せて、むしろ舞台上で起こっている動きをあますところなく目にできるようで、興味深かったです。

しかも座席が、ほぼ真ん中。主演の安田さんが舞台の中央にいらっしゃると、真正面となり、しかも盛り上がりどころで、目線が上がってくる。初めて舞台上の役者さんと目が合ったんじゃないかと錯覚する体験でした。

ただ確かに、役者の方々の細かな表情までは見ることができず。お岩さんの微笑みの凄みも、残念ながらとらえきれなかったかな。でも貴重な経験をさせていただきました。

 

胸が痛いよ~! でも安田さんに会えて幸せだよ~! と考えている間に舞台の幕が上がる。

 

なんの予備知識もなかった私ですが、主人公・伊右衛門の人柄と『日の本一の大悪党』という題名だけで、悲劇になることはやはり予想でき、だから、なんというか、せっかく入っていた笑いどころで上手く笑えなかったのは、まあ、しかたないですよね。

 

観劇中も観劇後も、色々考えさせられました。

 

まとまってないところもありますが・・・

 

まず、他人の気持ちをねじまげようとすると、とんでもない不幸になるのだなぁと。

伊右衛門とお岩のような性格の人には、最も残酷な取引ですね。とくに伊右衛門は、お岩がどうなろうと結局は耐えられなかったのではないでしょうか。

そのことをわかっていたのが、お梅さんなんでしょうけど、外堀を埋められて、結局自分の恋心に従うわけです。こうなってはしかたがない、と。

まあ、多くの人がそうするでしょう。もしも伊右衛門が少しでもずるいところがある人だったら、それで悲劇にもならなかったでしょう。

でも伊右衛門がそういう人格の人だからお梅も惚れたわけで。

喜兵衛とお市も、だれもが幸せになる方法だと自分を納得させて、伊右衛門に迫るわけです。恐ろしいことに、観ているこちらもそう思いかけるのだから、周囲もそういう空気になるのでしょう。伊右衛門でさえ、お岩のためにと迷い、しかし結局自分の気持ちを偽れず――。

自分の欲を、他利にもなるからと正当化し、言い訳して、押し通す人。いつの世にもいるし、自分の中にもまったくないわけではない。

むしろウィンウィンの関係とか、ポジティブに使われることもある。本当に相手の気持ちに沿っていたらの話ですが。

『日の本~』の登場人物はいくらか自覚があっただけ、ましなのかも。100%自分の「善意」だと信じ込んで疑わない人だっているでしょうからね。

お市などは、自利ためであることを自覚しながら、お梅に恋をかなえて幸せになってほしいと思っていたのも事実でしょう。

じゃあ、自分の気持ちはねじまげていいのか。正直になってはいけないのか。

自分の気持ちに素直になれ、と現代でも多くの人がアドバイスしたりされたりしますが、素直になることとそれを外に、他者を選ばずに、ひたすらに吐き出すことは別なのかもしれませんね。

苦しいことですが、素直になったうえで、黙っているのも一つの形かなと思いました。その前に、自分の気持ちを醜いところも含めて全部受容しなければならないのでしょうが。苦しいねぇ・・・。

でも黙って耐えているうちに、状況が変わってくることもあると思うんですよ。

 

そして、どんなに望んでも絶対に手に入らないものがあることの残酷さも、身にしみました。

宅悦のほうがね、どう考えても劇中いちばんの「悪」なんですけど、彼があそこまでして欲しかったものって、なんなんでしょう。

一夜かそこら無理矢理関係を結ぶだけなら、そんなに難しいことではなかったでしょう。

「美しいお岩」だとしたら、彼はそれを自らつぶしました。

しかし容姿をつぶしたお岩に、他の多くの女性と違うなにがあるのか。「内面」「心」「魂」でしょうか。

顔をつぶして、あんなに嫌われながら、余生を送るつもりでいたのでしょうか。

「お岩の心」「お岩との幸福な余生」・・・なにをしても手に入らない、絶望。

しかし「心」と「幸福な余生」ならば、手に入る可能性があるものであるはず。

宅悦の容姿のために、あるいは身分のために、もう卑劣で強引な手段でしか手に入れられないのでしょうか。

あるいは彼が分不相応の夢しか抱けなかったということでしょうか。

宅悦の見た目年齢から考えると、あまりに幼稚で、ずる賢い男のすることではないように思えますが、まあ、年を取ってもいつまでも恋の病には・・・ということでしょうか。

しかしお岩は、いくら自分に欲望を見せるキモい男に対してであれ、最初から残酷です。「無礼者!」という言葉には、当時の身分や社会状況もあるのでしょうが、それにしても宅悦を同じ人間として見ていない気がします。もう少し優しくして、それから場合によってはやんわり断ればいいんですよ。それでも相手がいやらしく寄ってきたなら「無礼者!」でいいではないですか・・・などと思ってしまいました。思いやりと懐柔で、なんとかならなかったものなのか。

まあ、世の中にはなんともならないストーカーもいますけども。

偽善でもなんでも、心ある人間として接すれば・・・。しかし今の我々も、やってしまっていないとは言えない、だれかに。

 

 

 

「なにも悪いことをしていない」伊右衛門とお岩の悲劇ですが、死後の世界があるなら、彼らはもちろん救われますし、死後の世界がないとしても、少なくともお互いを思いやり、愛し合っていたという事実に確信を持てながら死ねるわけです。それすらできないのがお梅と宅悦という、残酷。

 

いや~、私は完全にお梅さん的な立場の女ですからね、悲しいっ! 伊右衛門みたいなイケメンで性格の良い人に惚れたって、相手にされないもの(笑)! 幸か不幸か、伊右衛門みたいな人を支える経済力もないけど(笑)!

しかしお市さんのほうも、悲しいなぁ・・・。たぶんお梅と同じ年頃で、だから独り身女の辛さ、耐えがたさもわかるんでしょう。自分だけ喜兵衛と結ばれて、一抜けしようにもどうも良心がとがめ、いっそひとおもいに殺してしまうか、幸せになってもらうしかない。・・・まあ、お梅のことを思いやっているよう思いやっていない、身勝手な考えですけど。

喜兵衛はあれ、どういう形であれ、お梅が片づいたらお市を捨てそうですよ。 若い娘でも迎えて、好き放題やりそうですよ。

 

松之助は、まあ、驚かされましたが・・・最後、やる必要ありました? 今こそ大チャンスでしょうが! 邪魔者はもういなくなった。伊右衛門を連れて逃げればいいでしょう。自分のためだけを考えて。

むしろ死にたがっていた伊右衛門を、彼のために殺してあげたように見えなくもない。

 

命を奪えば永遠に自分のものになるか。そう考える人はなにが手に入ると思ってそのような行動に出るのか。これも大いに考えさせられました。

だって殺したらやっぱりお岩さんのところへ行くところを、見せつけられたわけじゃないですか。

死後の世界があったら、絶対に自分のところへは来ない。生前となにも変わらない。

死後の世界がなければ、それっきり。魂もなにもない。

それでも、自分の心の中にとどめておくことができるということでしょうか。それが永遠に自分のものということでしょうか。

そうはいかないとわかっているからお岩さんの姿が見えるんだろうに。

幸せを感じられないんだろうに。

それとも命を奪った者という、相手にとって唯一無二の存在になることで、満たされるのでしょうか。

奪うことと手に入れることは別なのに。

 

心の中で生かすためには、相手に死んでもらわなければならないんでしょうか?

・・・ってなんて恐ろしいことを考えているんだ。うわぁ・・・。

でも心の中で生きている人と、妄執の末の幻想はやはり同じではないでしょう。なんというか、その人の心に与える影響があたたかいか、とか。それこそおひさまのように。

 

 

手に入らないものは手に入らないという、残酷。

でも、その先にこれから手に入るかもしれないなにかを、他人からはもちろん、自分からも奪うのもまた、残酷です。

 

 

なーーーーんて、いつになく悶々と考えたりしながら、ケンちゃんのドキドキな殺陣を堪能し・・・あんなに強いのに就職口がないってどういうことだ、最期の奇跡か、暴力を一切できない優しい男だったのか、だったら松之助は自分で伊右衛門のアルバイト先を世話すべきだった、自己都合でいいから、よりにもよって傘張りなんて絶対にケンちゃんが苦手そうなのをやらせとくかな、演技中に紙に穴開けちゃったりしないかな・・・、と余計なことを考えつつ、どっぷり浸ってまいりました。

 

最初のほう、ちょっとだけ、松之助が洋さんに見えました。なんでだろ。

 

和装の、遠目でも色気たっぷりの安田さんをこの目にできて、幸せです。

 

あー、困った。ますますハマっていく。自分の現実をちゃんと生きているのかな、私は。

楽しいので、なによりではありますね。