さて、『龍三と七人の子分たち』の前に、映画館へ足を伸ばして観た作品が、『ミュータントタートルズ(2014版)』でした(で、観客は私含め3名。よく地元に来てくれたよ、カメさんたち)。
こちらはもう、およそ20年来のファンです。当時、BSの衛星アニメ劇場を観ていた方々の多くがそうだったと推察しますが、タートルズが大好きになりました。録画もしましたし、未放送分は、近所のレンタルショップに運よくビデオがあれば必ず借りてきました。残念ながらもうテープは残っていないので、これから話すことの多くがおぼろげな記憶に頼ったものとなってしまいますが・・・。
数年前、テレビ東京で放送された作品は、残念ながら観られなかったんですよ。言わずもがな、私が地方に住んでいるためです。
それで、あの作品を観た方々には今更の話でしょうが、言わせてください。
ラファエロになにがあったんですか???
実のところ、数年前『TMNT(2008)』をレンタルしてきたときが最大の衝撃でした。
衛星アニメ劇場時代、私はナビゲーターのお姉さんと同じく、ラファエロファンでした。
かの陽気なタートルズのテーマソングで、ラファエロはこう謳われているそうです。
”Raphael is cool but crude”
わたくしめのリスニング力では”crude”が聞き取れなかったし、そもそもそんな単語知らなかったのですが、これを当時のアニメでは「クールでドジ」と翻訳なさっていました。そこでナビゲーターのお姉さんは、「クールなのはわかりますけれど、ドジなんでしょうかね?」と疑問を呈しておられたものです。
確かに、ラファエロはドジと言われるほどのヘマはしません。・・・まぁ、少なくとも頻繁には・・・。別の訳ではこれが「クールで陽気な」となっていました。
言葉は難しい。完璧ではないかもしれません。しかし当時のラファエロは、確かにこの訳語に近いキャラクターでした。
どちらかというと、ミケランジェロと一緒に、お笑い担当です。一見すると、へらへらして不真面目な様子です。クールはクールでも尖ったきついクールさではありません。皮肉屋ですが、のんきで、飄々として、物事を一歩引いたところから見ている感じ。激情などまず見せません。ユーモアあふれ、すかさず気の利いたセリフも言ってくれます。
この陽気で軽快なラファエロが、ですよ、2000年代に入って、急激な変貌を遂げます。もう、カメでも反抗期があったのかと思わざるをえませんでした。ティーンエイジャーですからね、彼ら。
一応タートルズのメンバーのおさらいをしますと、
レオナルド → タートルズのリーダー。真面目で責任感の強い性格。使用武器:刀。
ドナテロ → メカニック担当。彼も性格が色々変わったと言われますが、基本的に温厚です。使用武器:棒。
ミケランジェロ → 明るいお調子者のムードメーカー。お笑い担当。使用武器:ヌンチャク。
ラファエロ → ・・・・・・???
もはやwikiなどを見ても「短気で我が強い」とばかり書かれてしまっているラファエロ。私が昔見たあの姿は幻だったのかと疑ってしまいます。
基本、昔のタートルズって、ピザを取り合う以上の喧嘩はしなかったと記憶しています。大喧嘩になるようなメンバー構成じゃないんです。レオナルドは横暴さなど少しもない至極まともなリーダー、ドナテロはメカに夢中で、基本的に温厚、ミケランジェロはいつも無邪気、そしてラファエロは、「喧嘩なんて、そんな疲れて面倒なことなんでするのよ?」というような性格だった・・・少なくとも私はそう思っていました。昔の記憶のかぎりでは、メンバーのだれかとだれかが喧嘩してタートルズ存続の危機になる、なんて話は一度もなかった。
それが、ラファエロの性格改変を機に、もう大騒ぎになります。
クールはクールでも、違うベクトルのクールに突っ走ります。ガチガチに固まるというか、ストイックで、不器用で、とにかく素直になれない。以前はいく分なよなよ風だったのが、このごろ見るたびに男臭くなっていきます。今ではたぶん、タートルズの中で一番ゴツいキャラです。
この変化の結果が、反抗の矛先が、ほぼ全部レオナルドに向かいます。彼の苦労ったらない。スプリンター先生からは、これまたとたんに一番上の兄であることを強調されはじめたりもします。そんな情報、1990年代はありませんでしたって。
では、私はラファエロの性格改変に不満なのか。不思議なことに、必ずしもそうではありません。それは、そのおかげでDVDの『TMNT』がものすごく楽しめたからです。
以下、少々ネタバレします。ご注意を。
まず話の冒頭から、ラファエロがもう家出・独立沙汰、レオナルドは放浪の旅、という仰天の事態で、私などはもう「なんで? なんで? なにがあった?」と、固唾を呑んで観ることになったわけです。つまり初めて新ラファエロに接したがために、先の展開がまったく読めなかったんですね。90年代でタートルズ時間が止まっていた人間のだれが予想しますか、レオナルドVSラファエロのガチ対決が観られるなど!!
あ然呆然、そして大興奮のひとときでした。昔のラファエロを知る私は思いましたよ。「やめやめ、ラファエロ。あんたがレオナルドにかなうわけないでしょ」
昔のアニメで、タートルズの中で、だれが一番強いとか、明言されたことはないと思います。ただ二刀流の刀に対し、ほぼ短剣に近いサイですよ。タートルズの中で一番華奢な武器。遠近両用だからなにかと役には立つけれど、強い威力はなさそうなサイ。ましてや大して強いイメージのなかったラファエロですよ。まず昔なら、修行中に手合せこそすれ、適当なところで負けるか、降参したはずです。「はいはいリーダー、もうあんたの勝ちでいいよ」って。
昔から、レオナルドがたぶん一番上の兄であろうことも、なんとなくわかっていました。そして、たぶん一番腕が立つであろうとも、なんとなく思っていました。
ところがこれがまた、とんでもなく見ごたえのある勝負に描かれていたんですね。いいのか、ここまでやっていいのか・・・!? とぞくぞくしました。
ラファエロの性格が改変され、それにともない、ストーリーにおける彼の果たす役割が大きくなりました。はっきり言えば、主役になっています。制作者が、ラファエロにストーリーを牽引させていること、俗な言い方をすれば、贔屓にしていることは間違いないと思われます。
昔のアニメでは、タートルズがピンチのとき、大活躍をしたのはドナテロでした。たとえば、ほかのメンバーが全員敵に捕まったとき、ドナテロがだけが無事で、孤軍奮闘の末に救出した。そんなことが一度ならずありました。
これは時代の変化でしょうか。インターネットのなかった時代、コンピュータはごく限られた専門家だけのものでした。その革新的技術に対する期待が、未知であることの可能性と魅力が、ドナテロに反映されていたのかもしれません。
今は、とにかくラファエロの活躍が目立ちます。そして彼に反抗されるレオナルドは苦労しきりに見えます。そしてドナテロとミケランジェロは上記二人の対立のため、控えめな立ち位置にいると言えます。
ラファエロの台頭。それはあの昔の性格のままだったら起こり得なかったでしょう。逆に言えば、新しくタートルズの物語を始めるにあたり、ラファエロには変わってもらわなければならなかったのでしょう。
最新の映画『ミュータントタートルズ』では、『TMNT』ほどの驚きはありませんでした。もちろん、私のほうで心構えができていたためであります。ああ、やっぱり今回も赤いカメちゃんはこうきたか、と。ストーリーですが、『TMNT』のほうが面白かったです、私としては。
そして本当に不思議なものですね。性格が変わっても、やっぱり私はラファエロが好きです。彼贔屓です。活躍の場が増えたことを、純粋に喜んでいます。これが愛ってやつでしょうか。
ただ、できれば、レオナルドの見せ場をもっと盛り上げてあげていただきたい! リーダーとしての責任と苦労ばかり負わされるのでは、あんまりです。シュレッダーと彼のガチ勝負を、ぜひ!
・・・そう言えば、この度の映画のシュレッダー、恐ろしく強かった! そして怖かったです。だれも勝てる気がしなかった。あの間抜けさも多分に含むどこか憎めないオジサンもまた、時代を経て変わったのでしょうか。