A.Banana.S

古代ローマ、NACSさん、ドートマンダーにパーカー、西武ライオンズ・・・好きなことをぽつぽつと。

妄想集より。<一、エメラルド始末記、冒頭部>

 

(ここでは一部イニシャルor伏せ字です。リンクは記事の最後に)

 

不肖わたくしめによる、ドートマンダーものの妄想集その1、冒頭部。

 

※『ホット・ロック』(1970) ネタバレ注意!

 

 ◆◆◆

 

「ミスター・D? 調子はどうかね? ヌコリミだよ」

 Dには、その声にも名乗られたらしい単語にも、聞き覚えがないように思われた。だから疑い深い調子で、自宅の受話器に応じた。

「ほう」

「アキXX大使の」

 それで、Dの頭の奥でなにかが光った。けれども記憶の破片をかき集めるのに少し時間がかかった。遅い朝食のフレンチトーストを一口かじって飲み込むまでには、その破片はかろうじて形を成していた。エメラルドだ。なんとかエメラルド。

 あのいまいましい、なんとかエメラルド。

「そこにいるのかね、ミスター・D?」

「いるよ」

 Dは喉を整えながら言った。

「やつが帰ってきたぞ」

「そうか」

 アキXX大使の言葉が意味することはすでにわかっていた。だがにわかには信じられない思いだった。あれから三年が過ぎていた。もう四年になろうとしていた。その間色々なことがあり、最近は自分の生命に関わる厄介事を抱え込んだせいもあって、Dはあのエメラルドの一件をほとんど忘れ去っていた。

 一件どころか、五件だ。Dと仲間たちは、あのエメラルドをそれだけ盗む羽目になったのだ。挙句、依頼主のタラXXXのI少佐は、Dたちに二十万ドルの報酬を支払う約束を反故にし、故国へ逃げ帰った。その直前に、Dは少佐からエメラルドを強奪し、二十万ドルを持ってくるまで預かると言い置いたのだった。

 並の五倍も苦労したのに、一文にもならなかった仕事だった。今日までは。

「待ちくたびれましたよ」

「私もだ」Dの言葉に、アキXX大使は同意した。

「帰ってきたのはいつです?」Dが尋ねた。

「我々が気づいたのは今朝だ。しかし少なくとも一昨日にはニューヨークに入っていたようだね」

「もっと早く教えてほしかったですね」

「私もきみと同じだったのだよ、ミスター・D」アキXX大使は弁解したが、それほど悪びれている調子ではなかった。「もう半ばあきらめていたんだ。あの少佐が向こうでくたばるかなにかして、二度と戻ってこないんじゃないかとね。あれから三年だよ、ミスター・D。きみとの契約を破って、エメラルドの件を公表することも考えたが、そういうことさえも忘れて過ごしていた」

「わかりましたよ」Dはため息まじりに言った。

「あれをまだ持っているのかね?」

「もちろん」答えながらDは、「あれ」の隠し場所を思い出そうとしていた。

「近々きみに接触があるだろう。片づいたらすぐに電話してくれるね?」

「ああ」

「上手くいくことを願っているよ」

 電話を切ったあと、Dはベッドルームに行った。彼の誠実な同居人のMは、すでにセイフウェイ・スーパーマーケットのレジの仕事に出かけているので、家にはほかにだれもいない。

 ベッドサイドの引き出しだ。三段それぞれに偽の奥板がはめられているのだが、Dが外したのは二段目のそれだった。取り出したのは、黒い小箱だった。開けると、同じく黒いヴェルヴェットにくるまれた緑色の石が、あくびをする人間の涙のように、きらりと光を放った。三年ぶりのお目覚めというわけだ。

 だがこのエメラルドは本物ではない。およそ三年前に、アキXX大使から受け取った模造品だ。そのときDは、本物のバラXX・エメラルドを、今日の電話主の手に渡していた。

 Dと仲間たちは、自分たちをだましたタラXXX大使を許すつもりはなかった。それで、いつか大使がエメラルドを実際に二十万ドルと交換する気になって戻ってきたときも、本物を渡さないと決めていた。もう四年前になろうとする最初の仕事のとき、Dと仲間たちは、アキXXの展示場からエメラルドを盗んだ。そして最終的には、そのエメラルドを極めて穏便な形で元の持ち主に返したのだった。

 そのとき、アキXX大使とのあいだに交わした契約はこうだった。タラXXXのI少佐とDが取引を終え、少佐がエメラルドを手に故国へ帰ったその時、アキXX大使は本物のエメラルドを取り戻したことを公表する。詳細な鑑定を待つまでもなく、I少佐は故国で喜ばしくない事態を迎えるだろう。

 DはもはやI少佐に腹を立てていなかった。少佐にも、彼の欺瞞に加担して、Dと仲間たちの苦労を倍にした、Pという弁護士にも。彼もまたタラXXXの顧問弁護士になるなどと言って、少佐と一緒にかの国に飛んでいったきりだった。

 いずれ、だれかに永遠に腹を立て続けることなどできない。アキXX大使が言っていたように、半ばどころかほとんど忘れて過ごしていたのだ。J・Dの人生は、それどころではない出来事であわただしかった。

 だがあのときの二十万ドルがようやく手に入るというのなら、まったく悪い話ではない。少佐は今度こそ本当にそれだけの金を用意してきたに違いなかった。なにしろ三年も待ったのだ。

 リヴィングルームに戻り、Dは自分の椅子に腰を下ろした。それからサイドテーブルに手を伸ばし、もう一度受話器を持って、A・Kの自宅に電話をかけた。しかし彼は出なかった。

 

 

◆◆◆

 

続きは記事の最後のリンクから(イニシャル、伏せ字なし)。

 

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※以下、参考文献一覧として。

 

anridd-abananas.hateblo.jp

 

 

一、エメラルド始末記

 https://pictbland.net/items/detail/791849

『悪党たちのジャムセッション』(1977)セカンドコーラス‐7の後。あとはたぶん説明不要。

ドートマンダー、ケルプ、スタン・マーチほか。