これであなたも二人の愛の軌跡を見逃さない!
(以下、例によって十年以上前のメモ書きを加筆修正したもの)
(※翻訳・未翻訳いずれもネタバレ注意。あまり突っ込んでは書いていませんが…)
ドートマンダーが(不本意にも)最も懇意にしている故買屋アーニー・オルブライト。ドートマンダーたちが盗んできたブツを換金してくれる欠かせない存在。NYの故買屋はアーニーだけではないはずだが、⑤『逃げ出した秘宝』以降、準レギュラーとして、どんどん出番を増やしている。短編では一度ならずメインキャラとして活躍。さぞドートマンダーたちに好かれているに違いない…………はず。
中でもドートマンダーとは非常に親密で(ドートマンダー全否定)、会うたびに厚い友情をさらに深めている様子だ(NO!NO!NO!)。
外見にそこそこ、性格にかなり問題があるらしいものの、それ以外にはこれといって問題のないアーニーに魅かれるのか、近ごろは頻繁にアーニーを訪ねるドートマンダー。これから彼らの愛と友情の軌跡をたどっていく。
◆まずは、アーニー・オルブライトの登場作まとめ(時系列)
1、⑤『逃げ出した秘宝』(1983)
2、⑧『骨まで盗んで』(1993)
3、短編『雑貨特売市』(1995)
4、短編『今度は何だ?』(2000)
5、⑩『バッド・ニュース』(2001)
6、中編『金は金なり』(2005)※
7、⑪『The Road to Ruin』(2004)※
8、⑫『Watch Your Back』(2005)
(※出版年は⑪のほうが早いですが、描かれているアーニーの状況的に、先に中編が来ると思われます)
レギュラーのスタンやタイニーの次に多い登場回数を誇るアーニー。短編・中編にも出ている仲間となると、彼とケルプくらいではないか…。
アーニーをめぐる、ドートマンダーVSケルプの仁義なき戦いも見どころの一つである(えっ)。
次に、押さえておきたいアーニー・オルブライトの基本情報(ええっ)。
故買屋。お住まいはウエスト・サイドの八十九丁目(書いているやつ、十数年前のNY旅行で確認にいく)。がりがりに痩せていて、白髪頭。ドートマンダーが見たところ、四百歳から千歳のあいだらしい。ドートマンダーが訪ねていくと、いつも辺りはばからぬ大声で彼の名を呼び、歓迎してくれる。カレンダーコレクションが趣味。
さて、
<1、記念すべき初登場⑤『逃げ出した秘宝』>
盗んだ宝石類を持って、アーニーのところへやってきたドートマンダー(すでに知り合いの設定)。なんとなく強要された気持ちになって仲間意識を表現するドートマンダー。
この日のアーニーのお話、例:
「誰もあいさつを言うために、アーニーを訪ねてはこない」
「わしの性格のせいだろうな。違うとは言わせんぞ」
「くそみたいな気分だ。屁ばかり出る」
……なんとまだまだ素敵な台詞が続く。
ドートマンダーはアーニーの意見に反対する気は毛頭ないが、かといって表立って賛成もできず、困る。そして幸運にも、アーニーの臭いあふれるクローゼットに隠れ、警官から逃れられるというボーナスステージ有り。
初登場から強い印象を与えてくれるアーニー。相当ひねくれてしまった性格だが、そのぶんいつも最高の払いをする。ドートマンダーは苦しみながらも、アーニーを気遣い、当てにするようになる。(直後のドートマンダー、ストゥーンという故買屋を探して探して探しまくる)
<2、アーニー争奪戦開幕!『骨まで盗んで』>
~ドートマンダーVSケルプROUND1~
親友ケルプに、「こんなことを言うのは気がひけるが、アーニー・オルブライトと取り引きをする必要がなければいいのにな」とこぼすドートマンダー。ケルプは遠慮して(してない)ドートマンダー一人でアーニーに会いに行かせようとするが、そうはいくかとドートマンダー、ケルプをふんづかまえて(?)アーニーに会いに行く。
「二人連れか。すると、ドートマンダー。わしに話しかけなくてもいいように、話し相手を連れてきたわけだ」
ドートマンダーとケルプ、並んで不自然な笑み。
ひとまず、一人で会いにいかずに済んだので、ドートマンダーWIN!
アーニーとドートマンダーのあいだにはストゥーンやケルプなどの邪魔が入る。しかしドートマンダーはめげることなくアーニーに会いにいくのだ。
<3、出ずっぱり短編『雑貨特売市』>
ドートマンダー、マンハッタンの中心で、アーニーへの愛を叫ぶ。
ストゥーンが別荘に入ったため、ドートマンダーは再びアーニーを訪ねる。アーニーは香水をつけて(ゴミ箱にあった雑誌から香りのついた広告を剥ぎ取って体じゅうにこすりつけて)迎えてくれる。なんと気の利いたジョークまで言い、ドートマンダーをうんざりさせる。
お言葉、例。
「わしに近づいた連中は、逃げるために、タクシーを拾うほどだ」
そんなアーニーをなぐさめるドートマンダー。そこへ新たに訪問者が――。
アーニーファン必見の濃ゆいお話。そして、めったに笑わないドートマンダーが、愛を叫ぶばかりか、シリーズ史上これまであったかジョークまで言う!? こうして二人の仲は急接近!(えええっ)
<4、アーニーの身に異変! 短編『今度は何だ?』>
シリーズ全短編中でも屈指の面白さだと思う。これぞドートマンダーの通常運転な一日。
「ドートマンダー、わしと同じようにひどい格好だな」
否、アーニーは長い一日を終えたいドートマンダーよりさらにひどい状態にあった。体のあちこちから赤いサルサ・ソースが染みだして、医者にもほとんど見放されているという。さすがのドートマンダーもいつも以上に引く。
十分な距離を取りながら、親密に会話する二人。
「早くよくなれよ、なっ?」と、優しい言葉をかけるドートマンダー。
短編ではこのように、準主役として存在感を知らしめるアーニー。ドートマンダーとの息もピッタリになりつつある。
時系列が次の⑨『最高の悪運』では、アーニーは姿を見せない。ドートマンダーがストゥーンに浮気するためだ。ストゥーンとはすみやかに、滞りなく、一行で取引を済ませるドートマンダー。アーニーは未だ闘病中か!?
<5、アーニーの中身に異変!『バッド・ニュース』>
~ドートマンダーVSケルプROUND2~
ドートマンダーはいつもの仲間と一緒に、盗んだブツを持って、アーニーのところへ向かう。しかしアーニーに直接会うべくアパートメントに上がる役は、ドートマンダーただ一人に。
「おれと同じように、アンディーもアーニーをよく知っているのに」なんでおれだけ会いに行かなきゃいけないんだ、と文句を言うドートマンダーに、スタン・マーチは「アンディーに言わせれば、アーニーをほとんど知らないそうだ。おまえを通じて知っているだけだって」と教える。
アーニーはドートマンダーの友人であることを仲間内に広めるケルプの知略にはめられたドートマンダー。このままでは負け。
ところがいざアーニーのアパートメントに上がると、そこには予想だにしない光景が……!
「新しいわしだよ、ジョン・ドートマンダー!」
そして外へ出てきたアーニーに、スタンとタイニーが初対面を果たす。ドートマンダーとケルプはこっそり無言の会話。(アーニーはどうしたんだ?)(訊くなって)
この後ドートマンダーは、ケルプへの逆襲に成功して満面の笑み(激レア)。勝負はDRAW!
<6、アンディー・ケルプとアーニー・オルブライト。中編『金は金なり』>
~ROUND3~
ドートマンダーとの壮絶なアーニー争奪戦に敗れたケルプは、珍しくも一人でアーニーに会いに行くことに。(…うん?)
「ジョン・ドートマンダーは一緒じゃないんだな。(中略)コインを投げて、負けたほうがアーニーに会いに来たのかね?」
『バッド・ニュース』の「中身に異変」事件の後日談がある。
内心やっぱり医者の車を盗めばよかったと思ったかもしれないケルプ。そのうえ借りたレンタカーについてドートマンダーに狭い狭いと文句を言われたのでは報われない。
がんばれ、負けるな、アンディー!
<7、そして旅立ちへ。『The Road To Ruin』>
~ROUND4~
《故買屋が興味を持ちそうなものリスト》をもらったケルプ。しかしリストを持っているのは自分なのに、アーニーに会いに行く役はドートマンダーにやらせようとする。
以下、いつかの記事の一部再録。
D「リストを持っているのはお前だ」
K「アーニーはお前の友だちじゃないか」
D「アーニーに友だちなんかいない。知り合いだ」
K「お前のほうがもっと親しい知り合いだ」
ああ、醜い……。
ケルプはすっかりアーニーはドートマンダーの友だちということにしている。しかたなくドートマンダーは「二人で会いにいく」という妥協案を提示。「ジョン、ほんの紙切れ一枚だ。そんなに重いものじゃない」と、最後の抵抗を試みるケルプだが、「アンディー、これしかないんだよ」とドートマンダーに押し切られ、同病相哀れむことを受け入れる。
勝負はDRAW!
しかし出かけてみたら、なんとアーニーは「不快な性格矯正のため」親戚一同からリハビリ施設に送りに。
留守番をしていたアーニーの従兄弟アーチーは、一発で「あんたがドートマンダーだな」「ケルプだ」と、二人がだれなのか言い当てる。アーニーが家族との会話で頻繁に話題にしていたらしい。
アーニーの友情の深さに衝撃を受ける二人。
数日後、ドートマンダーの電話から、アーニーの元気な大声が聞こえてくる。リハビリ先でもやっぱりいつもと変わらないアーニーに、ドートマンダーもさぞ安心したことだろう。
しかしこのリハビリ施設行きが、次作で本筋につながっていく。
<8-①、クライマックス『Watch Your Back』>
オーディオブック傑作中の傑作シーン。アーニーのご帰還。
「ドートマンダー! ジョン・ドートマンダー! そこにいるのか!? ジョン・ドートマンダー!」
「うあ゛あ゛!?」
そしてROUND5
以下、またいつぞやの記事の再録。
D「あいつが電話してきてな。俺たちに仕事の話があるらしいんだ」
K「俺たち? アーニーは俺に電話してきたんじゃないぞ、ジョン。お前に電話してきたんだ」
D「でも彼は俺たちがチームだって知っているんだぞ」(←前代未聞、ドートマンダーからの『相棒』表明)
K「アーニーは俺に電話してきたんじゃない。だから俺は行く必要はない」
D「ものすごくうまい話だと言っていたぞ」(←前代未聞、ドートマンダーからの『うまい話』)
K「そりゃ結構。お前が行けよ。それでもし本当にうまい話だと本当にわかったら、それから俺に電話してくれ。なんなら俺の家に来て説明してくれてもいい」
D「アンディー、率直に言うぞ」
K「無理するな」
D「一人で行きたくないだけなんだ。『リハビリ後』のアーニーがどうなったのか、知るのが怖いんだ。一緒に行くか、行くのをやめるかだ」
K「…………あのなぁ、ジョン――」
ドートマンダーの戦略は、まずさりげなく「俺たち」に持ち込まれた仕事だということを示す。次に「俺たちはチーム(相棒同士)」という言葉を使って連帯感を表し(オーディオブックだと、この次のケルプの台詞に笑いが交じる)、さらにケルプお得意の「うまい話」であるという実際的な面も強調する。それでも切り抜けようとするケルプに、ついに自分の本心をさらけ出し、情に訴え、最後にはちゃんと同意を得ないうちに話をまとめてしまう。
その後、アーニーのアパートメントの前で待ち合わせる二人。口笛を吹きながら、5分遅れてやってきたケルプ。
「待ったかい?」
「いや、今来たところだ」
ささやかな仕返しの満足も与えない、ドートマンダーの完勝。
ストーリーはこのアーニーが持ち込んだ仕事を軸に展開する。そしてなんとアーニー、ついに犯行に臨場!? あのケルプをも丸めこんだドートマンダーは、果たしてアーニーを説得できるのか!?
K「ジョン、アーニーと仲良くしたくなったのか?」(嫉妬)(←違う)
<8-②ファイナルラウンド!『Watch Your Back!』その2>
トラックを隠す場所を探して歩きまわっていたケルプに、ドートマンダーから電話が入る。
D「仲間はいらないか?」
K「えっ、歩くのにか?」
……なにを企んでいるんだ?
ケルプはこの一見好意的な申し出を、すぐさま疑いはじめる。
K「わからないな。俺は一人でも十分やれているよ。それにお前には、未解決の問題があったじゃないか」
D「うん、いくらかな。ただもちろん、俺たちの友人と話しにいかなきゃならないが」
ここでケルプはただちになにがどういうことなのか察する。「俺たちの友人」とはアーニーのことだ。ドートマンダーは今度の仕事にアーニーも連れていくと言い出し、彼を外に出す説得に出向くことになっていた。言い出したドートマンダーただ一人だけが。
以降、オーディオブックだと、ケルプにばっさばっさ断られてしだいにうろたえていくドートマンダーが笑えるので必聴!(笑)
ドートマンダーによる親切に見せかけて利用しようとした作戦は失敗し、ようやくのケルプWIN!
それで、肝心のアーニーの臨場、ドートマンダーに手料理をご馳走(!?)など、最後まで見どころ満載なので、翻訳お願いします是非(ここまで書いておいてそれか…)。
この12作目がジョン・ドートマンダーとアーニー・オルブライトのクライマックスと言うべき作品。
以後、アーニーはサルサ・ソースの病が再発したとの消息が『What’s So Funny?』で語られる。
◆まとめ ドートマンダーとアーニー
ドートマンダーは、アーニーの前以外では、アーニーを敬遠していることを公言してはばからない。会いに行く故買屋リストの最後に挙がっていると主張しているが、そのわりに頻繁に訪問する羽目になる。それはなぜだろうか。
①ストゥーンがいない。別荘に入った。ほかの故買屋が当てにならない、遠い、専門外、等々。
アーニー、ストゥーンのほかにもモーリス・モリソンという故買屋がいるそうだが、彼もまた別荘(ムショ)暮らしだという。⑧『骨まで~』のガイ・クラヴェラックは小規模の仕事では取引きしない。アーニーのところなら、少なくとも囮捜査に引っかかることはない。
②払いがいい。
アーニーはそう言うが、わりと頻繁に「後払い」契約で終わる。ドートマンダーはちゃんと現金を受け取っているのだろうか…。受け取っていなければ次会いには行かないだろうけれど……。
③なぜかアーニーに引かれるところがある。
ドートマンダーは断固否定するだろう。しかしアーニーの頑固で悲観的なところは、ドートマンダーに似たところもあるのではないか。二人の違いは、自分を卑下するか、しないかだ。ドートマンダーは自分を見下したりはしない。けれども社会に見放され、ときに辛そうに見えるアーニーの状態を見て、手助けはしたくなくとも、少しばかり気にはかけているのかもしれない。『What’s So Funny?』では、第三者によるドートマンダーのお友だちリストで、ケルプの次に挙げられたことだし、友情は末永く続くのだろう。
「ハロオオオオオオオオ!!! ジョン・ドートマンダー!!! わしはまた復活したぞおおおおおおおお!!!!!」
「……アンディー、お願いだから二人で会いに行こう」
(※最後の台詞二つは妄想です)
***
ああ、にほんめまでかきおわり、さんぼんめにはいりました。あーにーも……、あーにーもっ!?
現代短篇の名手たち3 泥棒が1ダース (ハヤカワ・ミステリ文庫)
- 作者: ドナルド・E・ウェストレイク,木村二郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/08/21
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (29件) を見る
参考図書一覧。
※※※