さてさて、幸せなニュースが続き、すっかり日が空いてしまいましたが、このたびは一つ、私に起こった奇跡の話を書かせていただきます。
…実のところ、その現物をさっきまで探していました(苦笑)。大事にしまいすぎてどこにしまったかわからなくなるという(汗)
…そのわりには、おいおいなんでそんな――というところから出てきました。危うく夢まぼろしになるところでした。ゴールデンウイークは大掃除だな…。
もう十数年も前の、夢のような、信じられない、今日の日まで私の中だけにとどめていた、奇跡。
このブログでも何度か書いています、ドートマンダー・シリーズやパーカー・シリーズ。
その著者である、ドナルド・E・ウエストレイク氏に、私はつたない英語で、ファンレターを書き送ったことがありました。
ある日、届いたのです。そのお返事が!
しかし、奇跡はそれだけではありませんでした。
今と同じで、一度書きはじめたらやたら長くなってしまう我が文章。ウエストレイク氏は、その長くつたない手紙の中の、最も読んでいただきたかったところへまさに、まさに最も望んでいた、夢のようなお言葉をくださいました。
以下、原文です。
“What if Kelp were in trouble, what would Dortmunder do? That’s a good subject; thank you. I’ll think about it.”
(もしもケルプが困った状況に陥ったら、ドートマンダーはどうするか、だって? 良いテーマだ、ありがとう。考えてみるよ)
考えてみるよ。
氏は、そうおっしゃいました。(Mr. Westlake said so to me in his letter.)
この手紙をいただいた数年後、ウエストレイク氏は亡くなりました。 (And passed away a few years later,)
メキシコ旅行中、突然のことでした。(In his travel in Mexico,)
ですから、「考えてみるよ」の結果はわからないまま。(So I don’t know his answer.)
でも、いい。それでもいい。一愛読者である私の、最も訊きたかった質問を、最も読んでみたかった小説を、氏は考えてくれていた。それがわかっている。(Yet, I do know HE THOUGHT IT; the story I want the most and a lot of his fans must be crazy to read.)
ウエストレイク氏がこの展開を考えていらっしゃったことは、無知と自意識過剰を承知で申しますが、今日まで世界で私ただ一人でございました。 (I believe until today I was the only one who knew this plot.)
一生の、宝物です。(This is my life-time treasure.)
それを今こうして書かせていただくのは、morittoさんから奇跡をいただいたことももちろんありますが、私自身がさらなる奇跡を求めているからかもしれません。(And now I do hope more miracles.)
私は、ずっと待っています。(I have been waiting――)
この物語が書かれることを。(For someone’s writing this story; Dortmunder’s.)
だれか、だれか、お願いです。書いてくださいませんか。(Someone,please, please, write it!)
私もど素人ながら、物書きです。夢をみたことがないわけがありません。
けれども私は日本人です。(I wish I could. However, I myself am an amateur and Japanese.)
それに、たとえNYに何年か住んで、なじんで、知識や習慣を身につけたとしても、どうあっても厳しいでしょう。そんな甘いものではないでしょう。
英語力の問題もある。
著作権の問題もある。(I know we cannot have the copyright.)
でも、氏がこの展開を考えてくれていたことは、私しか知らないのです。(Yet only I know Mr. Westlake thought this plot.)
今日までは。(Until today.)
(Please……)
同じような夢を実現した方を、私は一人存じ上げています。作家の森瑤子氏(1940‐1993)です。
マーガレット・ミッチェル著『風と共に去りぬ』を、だれよりも愛していた森氏。その公式続編『スカーレット』(アレクサンドラ・リプリー著)の翻訳を手がけながら、そこで氏は、翻訳ではなく、まぎれもない創作を仕上げました。
訳者としての是非はともあれ、森氏は長年の悲願をかなえました。彼女のスカーレット・オハラとその物語を、外国人でありながら書くことができました。
羨望と、尊敬と。
言うまでもなく、私は森氏の足下にも及ばない。
でも、ウエストレイク氏に手紙を書き、あの言葉を受け取ったのは、私だ。
こうなってはもう、私が夢を見続けるか、だれかが書いてくださるかだ。
奇跡を起こすか、奇跡が起こるか。
いずれにせよ、もう出してしまいましたからね。
分かち合えますように、奇跡!
……読んでみたくないですか、いつもと逆パターンのドートマンダー・シリーズ。なぜかケルプのほうが不運に見舞われてピンチになったら、果たしてドートマンダーはどうするのか?――なんて。