A.Banana.S

古代ローマ、ナックス兄さん、ドートマンダー・・・好きなことをぽつぽつと。

追悼の意を込めて。

 

著名な評論家・翻訳家である小鷹信光氏が逝去されました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151209-00050015-yom-peo

その追悼の意を込めまして、私が愛する「悪党パーカーシリーズ」について書かせていただきます。

 

まず悪党パーカーとは?

ドートマンダーに関しては、名前だけにしろ何度かここの記事で触れさせていただきましたが、パーカーは同じ作者ドナルド・E・ウエストレイク氏(1933‐2008)が、リチャード・スタークという別名で書いた、犯罪小説です。

すみません、犯罪小説と書きましたが、私はジャンルというものに詳しくなくて。アメリカン・ノワールあるいはハードボイルドとされています。

主人公パーカーは、冷酷非情の犯罪者――プロの強盗です。

 

高校生の時にドートマンダーシリーズが大好きになって、パーカーシリーズにも手を出したのは大学に入ってからだったはず。

初めて読んだのが、シリーズ第一作『人狩り』(1962)。小鷹信光氏の翻訳。

 

まず読後第一の感想:「なんだ、この行く先々で人を殺していく殺人鬼は!?」

 

・・・当時の私は、ノワール小説ないしハードボイルド小説の楽しみ方というものを知りませんでした。ドートマンダーを求めていたんですね。違う、というか真逆のシリーズだと頭ではわかっていながら。

それでも次に読んだのが、確か『ターゲット』(1998)だったと思います。こちらも小鷹氏の翻訳。

これは比較的パーカーが人を(あまり)殺さず、ドートマンダーシリーズに近いところもあったので、わりとすんなり読めたかと思います。

その後に読んだのが、『殺人遊園地』(1970)。こちらは石田善彦氏の訳。

このとき、私の中でなにかが目覚めました。歓声を上げて。もうすさまじく面白いと思ったんですね。パーカーがたった一人で犯罪組織の一団を遊園地で返り討ちにしていくのですが、その痛快さ、そして敵方の幹部の描写が、ウエストレイク氏は絶妙なのです。

笑いなしの悪党小説の面白さに目覚めた私は、それから手に入るかぎりのパーカーシリーズを買って、読破しました。すでに絶版になっていたものは、東京都内の図書館を歩きまわって、その日のうちに読んでしまいましたっけ。楽しかったなぁ・・・。

そうなるともう、最初に「なにこの殺人鬼!?」との感想しか抱けなかった『人狩り』が、今やシリーズの中でも指折りの面白さと感じられてならなくなるのが不思議です。ええ、『人狩り』は中でも傑作です。パーカーの描写・・・当初はよくもまあ裏切ったとはいえ元妻にあんなことができると思ったものですが、今や彼が妻を「愛していた」という言葉の真実が痛切に感じられるようになり、敵方マル・レズニックの追いつめられていく描写がたまらなく身に迫ってスリリングで・・・。

まさに悪であるからこその痛快。世の中に復讐劇、リベンジものの作品は多々あります。それらがスカッとする痛快さ、あるいは逆に後味の悪さや陰湿さを見どころとしていますが、私はウエストレイク=スターク氏の筆になる復讐劇ほど痛快を感じたことはありません。そしてこの作品を、まず小鷹信光氏の翻訳で読むことができたことを幸運に思います。

復讐される側からもっぱら書くって、ぞくぞくしますよ、本当に。

そしてパーカーはほぼまったく敵を恨んでいないと言っていい。裏切りの妻を例外として。恨みではなく、プロの筋を通すために犯罪組織に挑む。その首尾一貫ぶりがまた、だれを見るよりも胸のすく思いを味わわせてくれるのです。

暴力の世界を描いた小説ですが、不思議と陰湿さはありません。むしろさらりとして、皮肉とユーモアに満ちています。

小説の中だからこそ楽しめるのですが、読みながら、最初は殺人鬼呼ばわりしていたくせに、もう「行けっ、パーカー! そいつを許すな!」とか声援を送っていたり、「パーカーはあの人物を結局殺すのか殺さないのか」でドキドキしながらページをめくっていたりする自分に気づきました。

未翻訳作品も含め、シリーズ全巻読破いたしました。ウエストレイク氏の新作を読む日も、小鷹氏の新しいハードボイルド翻訳作品を読む日ももう来ないと思うと、非常に悲しい。しかしすばらしい本に出会えた記憶だけは永遠です。パーカーシリーズを愛して、胸を躍らせて読みふけり、東京じゅうを歩きまわって本を探し、英語と格闘し、ウエストレイク氏にファンレターまで書いた若き日の思い出は一生の宝です。これからもずっと愛し続けるでしょう。

 

いくらグローバル化が進む世の中であろうと、いやだからこそ、翻訳の果たす役割は、エンターテインメントに限っても大変重要です。私自身、最初に優れた翻訳に出会わなければ、ウエストレイク氏の著作など知らずに過ごしていたでしょう。小鷹氏は私たちにかけがえのない出会いをくださいました。

我々は結局、母国語で書かれたものを最も面白いと感じます。なぜならその言語で物事を思考するからです。

しかし世界にはまだ我々の知らない面白いものがたくさんあるのでしょう。外国語を学んで直接それらに触れるのももちろん大切ですが、母国語に訳して伝えられると、胸が躍る最初の出会いを体験する人が格段に増えることは間違いありません。

私もそのうちの一人で、その出会いから英語を勉強しはじめました。一時は翻訳家を目指して、結局挫折しちゃったけどなぁ(苦笑)。

 

 

それでも私の人生は、ウエストレイク氏の作品と出会って変わりました。いや、ある一つの道を行くことになりました。そしてその出会いをもたらしたのは、一流の翻訳作品にほかなりません。

 

いつかいつか、ドートマンダーとパーカーの話を書こうと思っていたら、この時になってしまいました。氏の功績を讃えられるほどの知識も読書経験もない一素人ですが、一読者として、小鷹信光氏のご冥福をお祈り申し上げます。

 

パーカーとドートマンダーについて昔書きためたファイルが2冊も出てきました。だれにも見せたことがありません。ものすごく楽しんで書きまくって、現在の私が引くレベルの、ものすごい文字量になっています。

ここにアップして見ようかとも思うのですが、あまりに本の内容に触れすぎていて、ネタバレが過ぎるように見えます。どの程度までアップしていいものやら・・・。

 

いつかそのうち・・・ってまたですが、内容を選んで載せてみようかと思います。

 

 

あ、あと、パーカーシリーズの新しい映画、去年だったか、DVDで観ました。その名も『パーカー』。

おそらく、パーカーシリーズ史上、いえ、きっと映画化されたウエストレイク氏の作品史上、最高傑作です。原作は『地獄の分け前』(2000)。

 

『人狩り』もメル・ギブソン主演で映画化されていますが、あちらは正直、ちょっと・・・。いや、確かに、私の中でパーカーのビジュアルイメージはまさにメル・ギブソンなんですけど、なんで原作にはない拷問シーンがあるのか、しかもパーカーがされるのか、むごすぎてトラウマになるレベルでした。

 

『パーカー』は、正直期待しないで観はじめたのですが、原作が驚くほど忠実に再現されていました。ファンにはたまらない! レスリーはもちろん、トム・ハーリーにクレアまでしっかり登場させるとは感激でした。「ドナルド・E・ウエストレイクに捧げる」とした製作者側の意気込みが感じられます。

 

いつかまた、映像作品でウエストレイク氏の作品に会えるかもしれませんね。

 

 

 

もしもパーカーシリーズをよくご存じの方、いらっしゃいましたらぜひ「農村ハードボイルド入門」で検索してみてください。私は、死にかけました。人生でトップ3に入る大爆笑の記憶です。

 

 

 

 

PARKER/パーカー [DVD]

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