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A.Banana.S

古代ローマ、ナックス兄さん、ドートマンダー・・・好きなことをぽつぽつと。

オウィディウスはなにを見てしまったのか?

古代ローマ

今日はゴシップ話を。

下リンクにあります、オウィディウスの『悲しみの歌・黒海からの手紙』を以前に読んだのですが、やはり下世話ながら気になってしまうわけです、彼はなにを見てしまったのだろうと。

この著書の中で、オウィディウスも散々ほのめかしはするわけですけれど、決してはっきり語りはしません。

 

まさかのルーマニアへの追放刑・・・それは『愛の技術』がアウグストゥスの逆鱗に触れてしまったからか。そしてアウグストゥスの孫娘ユリアの不貞行為に関わったからか・・・?

 

オウィディウスは前43年生まれなので、ティベリウスと同年代です。下記著書によると、自宅はアウグストゥスの家の隣にあったそうです。そこで追放地へ旅立つ日、奥さんと別れるくだりを読むと大変気の毒になります。

 

彼自身は自分が追放刑になった理由を「二つの罪」と言っています。一つは「詩」で、『愛の技術』のことでしょう。確かに「上手な浮気の仕方指南」みたいなこの詩を、アウグストゥスがあの娘と孫娘の部屋で見つけでもしたら、それはそれは怒ったことでしょう。「お前の書いたこれを参考にしてうちの娘たちはなぁ・・・!」と怒鳴り込みたくもなったでしょう。

しかしこれが刊行されたのは追放より10年も前の話ですし、しかも問題の詩自体はローマの図書館から消えたりすることはなかったようです。なので問題はもう一つの罪、「過ち」にもあったと思われます。気になるのはこちらのほうです。

 

その「過ち」を、彼の友人コッタ・メッサリヌスは知っていたそうです。なぜならオウィディウスが追放刑を言い渡されたとき、一緒にエルバ島にいたとのことで、その「過ち」を嘆いたそうです。

 

コッタ・メッサリヌスとは、タキトゥスの『年代記』にも登場します。ティベリウスのことを、我が親愛なる「ティベリちゃん」(国原吉之助訳 岩波文庫)と、破壊力抜群な呼び方をしたがために告発され、ティベリウスが「もうなにを書いてなにを書かなければいいの・・・」(私勝手な要約)と嘆く事態になった話で知られています。

 

コッタの父親はメッサラ・コルウィヌス。将軍であり芸術家の保護者であり、アウグゥトゥスにしてみれば、アグリッパ、マエケナスに次ぐ第三位の協力者と言うべき人だったのではないかと思います。ティベリウスもメッサラをラテン語の師匠として尊敬していました。晩年は認知症を患ったのか、自分の名前を思い出せなくなったとの話が伝わっています。

コッタにはメッサリヌスという兄がいて、こちらにもオウィディウスはたびたび手紙を出しています。メッサリヌスの生年は不明ですが、おそらく前39年頃でしょう。陽気で調子の良い人だったようで、ティベリウスもいささか手を焼いている様子がうかがえます。

 

コッタはこの兄とだいぶ年が離れていたようです(おそらく15歳以上)。オウィディウスにしてみれば幼少の頃から見守ってきた可愛い甥っ子みたいな存在だったのではないでしょうか。

 

ティベリウスオウィディウスと友人ではなかったようですが、コッタとは友人であることを認めています。ですからオウィディウスにしてみれば、コッタは親友であると同時に、自分のローマ帰還の望みを託す大いなる希望だったのです。

 

しかし、いくらコッタでも頼めませんよね、ティベリウスには。その「過ち」が不貞行為絡みならなおさら・・・。

 

オウィディウスはこう言っています。

「沈黙を守らねばなりますまい。あなたの苦しみは一度だけで十分」※「あなた」とはアウグストゥスです。直接叱責されたそうです。

「私の目がそれと知らずに罪を見てしまったため、罰せられている」

 

ありそうな事情としては、ローマには、売春宿ではないですが、夜に男女が一夜の相手を求めて集うたまり場のような場所があり、オウィディウスはそこに出かけ、いざことに及ぼうとしてよくよく相手の顔を見てみたら、なんとやんごとなき隣家の孫娘だった・・・。で、後にユリアが祖父から不貞行為を追求される際、オウィディウスの名前も白状してしまった。

 

なんというか、もう、オウィディウスが気になってしかたがなくなるような書き方をしているわけですよ。この著書、ローマで刊行されているのですよね。これを読んだ市民はどう思ったんだろう? 「私は見てはいけないものを見てしまった。しかしそれがなにかは言えない」なんて、気にするなというのが無理な話じゃないですか。現代ならこれ、ミステリーの死亡フラグというやつでしょう。オウィディウスは殺されはせず、終身追放となったわけですが。

 

そして追放されても、オウィディウス節は衰えるどころではありません。私のお気に入りは、「さらにつけ足せば、彼の苦労の大半は作り事だが――」

『変身物語』を著したあなたがそれをおっしゃいますか、さすがです!

 

 

悲しみの歌・黒海からの手紙 (西洋古典叢書)

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